次に向けて



私の涙が収まるまで、先生はそのまま背中を撫で続けてくれた。気を緩めると漏れそうになる嗚咽をなんとか抑え、必死に涙を止めようと試みた。しばらくして落ち着いてきた私の雰囲気を察して、先生が少し離れる。

「落ち着いたか?少しずつでいいから何があったか聞かせてくれ」

その問いにこくりと頷き、私は、二日間という短い職場体験期間で起きたことを、ゆっくり思い出しながら伝える。その途中で、個性をうまく使えるようになったことも話すと、少し驚いたような、安心したような顔をされた。

「そうか、名字が無事でよかった」

全てを話し終えた後、相澤先生はそれだけ言うと明日からの業務連絡に移る。さすがにこれから新しいところに申請するのは難しいからか、残りの期間は雄英で相澤先生が面倒を見てくれると言う。

「夜遅くにありがとうございました」

とりあえず、 今日は遅いから早く帰るように告げられ、おやすみなさいと頭を下げて職員室を出る。

翌日からは、いつもと環境は変わらないが相澤先生の元でビシバシと指導を受け、同時にもうすぐ来る期末テストの勉強もやらされることになった。勉強が好きではない身としては、ありがたいのか否か微妙なところではあったが、赤点を免れるために必死に問題を解く。

そうしてあっという間に残りの職場体験期間が終了し、クラスメイトが学校に登校してくる日。
一週間ぶりに会うみんなは教室に入るなりワイワイと話しはじめ、いつもの日常に戻ったことを実感する。

そして六月の最終週。期末テストまで一週間をきった頃、上鳴くんたちの嘆きが教室内に響いた。
私も中間の結果は下から数えた方が早かったが、職場体験中に相澤先生の指導の元で勉強できたから余裕で突破できそうかな、とひとり安心する。

「お前、大丈夫だったか」

「轟くんこそ。頬の怪我がなくなって良かった」

クラスメイト達を眺めていると突然話しかけられて、何のことか理解するのに数秒かかった。しかし声をかけてくれた彼の顔を見て、あぁ、と職場体験中に会ったんだったと考える。わたしの頬の怪我という単語に、彼は自分の頬をひと撫でしてこちらを見た。

「言われてみれば…お前の個性か?」

「まあ、そんなとこかな」

少し照れ臭くて、はにかみながらそう答える。
掘り下げられるかと少し身構えたが、彼は一言そうかとだけ告げて自席へと戻ってしまった。もしかしたら治癒系の個性だと勘違いしてるかもしれないと思うが、言いふらすような人じゃないからと、特に追って話すこともせず久しぶりの教室の空気に溶け込む。

少しして、時間ぴったりに相澤先生が教室に入った途端静かになった教室で、楽しみなイベントを告げられる。

「夏休み、林間合宿やるぞ」

テンションの上がる教室内ではやれ肝試しだ、やれ花火だと各々の楽しみにしていることを言葉にする。
それは私も例外ではなく、言葉にしないながらもまだ見ぬ林間合宿に思いを馳せた。

しかしその時間も、相澤先生のただし、という一言で打ち砕かれる。

「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、学校で補修地獄だ」

林間合宿に行けない上に、補修地獄なんて冗談じゃないと、みんな一丸となって頑張ろうと声を掛け合う。
テストの心配はそこまでしてはいないが、折角の合宿はみんなで行きたいなぁと空を仰いだ。