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ノックの音で目が覚めた。
慌てて起き上がれば、折りたたまれたタオルが目元からすべり落ちる。
掴めばしっとりと濡れており、目元を冷やしてくれていたものだと分かる。

昨日はいつの間に寝てしまったのだろうか。

「おーい、ナマエ起きてるか?」

再びノックの音とともにエースくんの声がし、慌てて返事をする。

「お、起きてるよ!どうぞ!」
「おー、大丈夫か?よく寝たなぁ」

部屋に入ってきたエースくんはそのまま私が上半身だけを起こしたベッドの端に座り、オデコに手を当ててきた。

「熱はなさそうだな?俺体温高いからあんま分かんねぇけど」
「う、ん…熱はないと思うよ」

そもそも泣きつかれて寝てしまっただけなので体調に問題はない。
というかいきなり触るのは心臓に悪いからやめて欲しい。

「マルコは無人島での疲れが出たんじゃないかって言ってた」
「あー…そうだね、そうかも」
「顔色も良さそうだし、朝食は食えそうか?」
「大丈夫だよ」

じゃ、行くか!と立ち上がり二人でマルコさんの部屋を出る。
昨日私は泣きつかれて寝たのではなく、疲れが出て寝込んだことになっているようだ。
マルコさんには何から何まで気を使わせてばかりだと反省する。
ベッドも占領してしまったし、昨日マルコさんはどこで寝たのだろうか。
まさか一緒のベッドで寝たということはないと思うが。

エースくんと2人で食堂までの道を歩いていれば色んな人から声をかけられる。
もう大丈夫か、と体調を心配してくれる人がほとんどだったが、まれに今夜は楽しみにしている、などの事を言う人たちがいた。

「さっきから気になってたけど、今夜何かあるの?」

隣を歩くエースくんに聞けば、彼は少し宙を見た後に答えた。

「ほんとは昨日の夜俺とお前の宴を開く予定だったんだ」
「…私が寝込んでたせいで延期?」
「まあ、そうだな。でもそれは仕方ねぇことだし、気にすんな!」

にかっ!と相変わらず太陽のように笑い、今日の朝食はなんだろうなと別の話題に入っているエースくんの横でひたすら罪悪感に飲み込まれそうになる。

ただでさえ私が海に潜っていたせいでエースくんのお祝いが伸びていたのに、その上私の“体調不良”でさらに延期とは。
待たされている人たちにとっては見ず知らずの小娘のためになぜ宴を延期しなくちゃならないんだと思っている人がいるはずだ。絶対。

思わずつきたくなるため息をぐっとこらえ、話し続けるエースくんに相槌を打つ。

「ここが食堂だ。昨日マルコに案内されたから知ってるんだっけか?」
「あ、うん。でも昨日とは来た方向が違うから一瞬わかんなかったけど」

そう言って食堂に入れば中は多くの人でにぎわっていた。
昨日案内された時は人が少なく、随分と広く感じたが、これだけ人がいると逆に狭く感じる不思議。

「ナマエ,こっちだ」

人ごみのなか慣れた感じで突き進むエースくんの後を慌てて追いかける。
離れないよう小走りになりながらもついてゆけば、混雑の中テーブルを1人で優雅に使うマルコさんがいた。

「マルコさん!おはようございます!」
「おう、ナマエ、体調はどうだよい?」
「大丈夫ですよ、ベッドもありがとうございました。マルコさん昨日はどこで寝たんですか?」
「ああ、昨日は…」

「俺のところに来たよ」

急に割り込んできた声に顔を上げれば、コック姿の金髪リーゼントの人が料理を持って立っていた。
はい、どうぞナマエちゃん。と差し出された料理にお礼を言うも、この人は誰だったろうか。昨日会った記憶はないけれど。

「サッチ!俺の分は!?」
「エースは自分でとってこいよ。ナマエちゃんはまだ勝手が分からないだろうと思って持ってきたの!」
「ナマエの持ってくるなら俺の分だっていいじゃんか」
「エースは量が多いから自分でとってこい」

サッチのケチ―、と言いながら料理を取りに行くエースくんを目だけで見送る。
エースくんの向かう先には様々な料理が並んでおり、本来ならばビュッフェ形式の様に自分で必要な分取る感じなんだとわかる。
エースくんのお皿の上でみるみるうちに料理の山が出来ていっている…。

「適当に持ってきたけど量はこのくらいでよかった?」
「あ、はい!大丈夫です。丁度です。ありがとうございます」

サッチさんが持ってきてくれたのはクロワッサン二つにグリーンサラダとコーンポタージュ、カリカリに焼いたベーコンの上に目玉焼き。
フルーツ入りヨーグルトまでついており、朝食としては十分すぎるボリュームである。
いつの間にか自分の分のコーヒーを用意して前の席に座っているサッチさんに、私も座るように促され、マルコさんの横に座る。

「おいおいナマエ…本当にそれっぽっちで良いのかよい?もっと食わせろサッチ」
「女の子はこのくらいが普通なの!マルコはいい年して全然わかってねーな!」

ねー!とマルコさんの会話からこっちを向いて笑顔で同意を求めてくるサッチさんに思わずうなずく。
エースくんとはまた違った感じの人懐っこそうな人だ。
年齢はマルコさんと同じくらいかな。
「あの…」
「なーにナマエちゃん?」
「サッチさん…でいいんですか?」
「そー!4番隊隊長のサッチさんだよ!よろしくね!」

ばちーんと星が飛んできそうなウィンクを受け、ぶんぶんと大きく頷く。

「昨日マルコさんはサッチさんの所で寝たんですか?」
「そーなの。急に来てベッド貸せーって追い出されたんだよ、酷くねぇ?」
「マルコさん!?何してんですか?!すいませんサッチさん私のせいで…」
「サッチだからいいんだよい」
「本人こんな感じだからね…ナマエちゃんは気にしないで」

しれっとした顔でコーヒーを飲みながら新聞を読むマルコさん。
人のベッド奪うのは日常茶飯事なのかこの船は。
私に被さらないように新聞は大きく広げず、四つに折った状態で読むのに、彼の気を使うポイントがよく分からない。

そのまま二人と会話をしていれば両手に山のように料理を持ってエースくんが戻ってきた。

「お、ナマエまだ食ってなかったのか?」
「あ、うん」
「じゃー食おうぜ、いただきまーす」
「いただきます」

2人で両手を合わせてから食事を始める。
「いただきます」は無人島で一緒に食事をしてからの習慣になっている。
エースくんはもともと挨拶とかはしっかりするタイプだったみたいだけど、無人島で私がなんとなく習慣でしているのを真似て毎回するようになった。

「そういやナマエ…」
「なあに?」
「体調良くなったみたいだし後で良いところに連れてって…ぐがーっ」
「ええっ!?うそっ!寝た!?」
話しかけられたかと思ったらいきなりエースくんが食事の途中で寝てしまった。
あっけに取られて見ていると横から二人が話かけてきた。

「ははっ!最初見た時はびっくりするよな!」
「こいつ食事中にいきなり寝るんだよい」
「えっ…!大丈夫なんですか?何かの病気とかじゃ…」

慌てる私をよそに二人はゆったりとコーヒーを飲んでいる。
焦りなどは微塵もみられず、むしろエースくんを気に掛ける様子も見えない。

「え、エースくん…」

恐る恐る手を伸ばす。
チャーハンとか目玉焼きとか色々な料理に突っ伏している彼に触れるか触れないかのところで彼の身体が動く。

「…ぷあっ!やべー寝てたわ。何の話してたっけ?」
「おー、ナマエちゃんが調子よくなったからどっか連れてくって話」
「あーそうだそうだ。ナマエ、食べ終わったらいいとこ連れてってやるよ」
「その前に親父に進路の話だけしといた方が良いよい」

「…ええー、うそだあー」

むくりと起き上がったかと思えば、そのまま何事もなかったかのように会話をし始める3人に思わず心の声が漏れる。

朝から驚くことばかりだ。