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朝食を一緒に食べ始めたものの、何度も寝落ちするエースくんよりも早く食べ終わってしまった私は、先にマルコさんと白ひげさんのところに進路の話をしに行くことにした。
山のように料理を持ってきていたエースくんだけど、その量の倍は食べるらしく、時間がかかるとのマルコさんの判断だ。
なんか昨日に続いて置いてってばかりでごめんねエースくん。
「…エースくん、無人島にいた時は食事中にあんな風に寝落ちなんてしたことなかったです」
「…それじゃあ、エースなりに無人島で気を張ってたのかもねい。いつもより寝落ちする頻度が高いから、反動が来てるんだろうよい」
「いつもはあんなに寝ないんですか?」
「んー…まあ食事中は寝ても1回か2回くらいだったと思うよい」
「エースくん、なんでもないような顔してましたけど、やっぱり疲れてたんですね」
見た目とか言動で元気なのだと思っていたけど、そうではなかったらしい。
あの時はどうやって彼を船に戻すかばかり考えていたけれど、彼の状態にももっと気を配ってあげていればよかったと悔やむ。
ぽつりぽつりと話していれば白ひげさんの部屋に着く。
今日はまだ甲板には出ておらず、部屋にいるようだ。
「失礼します」
「親父、ナマエを連れてきたよい」
グラララと昨日と同じように豪快な笑い声で迎えてくれた白ひげさんに、ケンさんの事を説明する。
「…そんな訳で日本への行き方は分からなかったので、次の島で降ろしてもらってもよろしいですか?」
「グララ…おめぇ、次の島で降りたらその後は当てはあるのか?」
「いいえ…でも、いいんです」
当てなんてない。だけどずっとこの船に乗っているわけにもいかない。
それならばさっさと拠点を見つけて歌手活動を再開させるなりなんなりするべきだろう。
正直また一からのスタートかと思うと泣きたくなるし、やる気も起きないが。
「グラララ…じゃあ、治安の良い島に着いたら降りればいい。エースの恩人だ、次の島に着いたからってそこが荒れてるところだったら降ろすわけにはいかねぇな」
「ありがとうございます…!」
確かに、次の島が治安の悪い島の可能性もあるので、ありがたく白ひげさんの言葉に甘えることにした。
部屋を出ると丁度こちらに歩いてくるエースくんがいた。
「おーいマルコ!ナマエ!」
「エースくん!」
「進路の話はすんだのか?」
「うん、次の島が治安良かったらそこで降ろしてもらうことにした」
「次の島でいいのか?俺たちの傘下の島の方がよくねぇか?」
「俺もそう思うよい」
「うーん…でも長い間お世話になるのも悪いから。よっぽど次の島が治安の悪いところだったらその次まで乗せてってもらいたいけど」
「まあ次の島まで日もあるし、そこはゆっくり考えればいいよい」
「じゃ、ナマエ、さっき言ってたイイ所。連れてってやるよ」
それならば、とマルコさんは自分の用事があるそうなので、ここで私たちと別れることにした。
「じゃあまた後でな、ナマエ。なんかあったら俺の部屋に来るといいよい」
「ありがとうございます、マルコさん」
ぐりぐりと私の頭を撫でて去っていくマルコさんを見つめたあと、エースくんに向き直る。
「良い所ってなあに?」
「良い所って言ったらいい所さ。ナマエは間違いなく飛び上がって喜ぶぜ」
「あはは。そんなに?」
「間違いないな」
そう言って話をしながら着いたところは、分厚そうな扉の部屋の前。
昨日マルコさんには案内してもらっていない場所である。
船員の部屋のあるさらに下の層で、確かこの階に続く階段の所で「この下は武器とか生活用品とかごちゃごちゃ置いてあるところだから、案内は省くよい」と言われスルーした場所だ。
トイレットペーパーとかシャンプー、薬、シーツとか、消耗品だけでもかなりの量になるとのこと。
「ここが良い所?」
「お前にとってはな。ナマエ、開けてみろよ」
ニヤニヤと、エースくんは悪戯をたくらむ子供のような顔をしながら扉を開けることを進めてくる。
私にとって良い所とはどう意味だろうか。
恐る恐る扉を開けてみれば。
溢れ出る。
音。
ピアノ、ドラム、トランペット…ジャズの音楽が流れる部屋を見渡せば、今演奏されている楽器以外にもたくさんの楽器が大量に置かれている。
「わああ…!」
「な?良い所だったろ?」
「うん!すごいね、ここ!」
こんな楽器だらけの部屋があるなんて。
しかも扉を開けるまで少しも音が漏れていなかったから、防音もしっかりされている。
音楽をするための部屋なんだ、ここは。
「よお、エース。珍しいな、お前がここに来るなんて」
「よぉ、邪魔するぜ。こいつを皆に紹介したくてさ」
「こんにちは、ナマエと言います!」
挨拶をすれば、ハイこんにちは〜とゆるい返事をしたおじさま達。
優雅な紳士風な人、腕に入れ墨の入ったワイルドな人、ポロシャツにジーンズという普通の服装の人。服装はバラバラでも皆鍛えられた身体をしているとすぐに分かる。
グループで音楽をする場合、服装など似通った趣味の人が集まるものだと思っていたけれど、ここでは皆全然違うようだ。
「ナマエ、この部屋は音楽が趣味のやつらが出入りする所だ。で、このおっちゃん達はこの船の演奏家ってとこだな。皆所属する隊は別々だ」
「そうなんですね!演奏家が常駐してるなんてすごい!」
「いやぁ、趣味の延長みたいなものだよ。まあ、腕は一流だけどね!」
ポロシャツのおじさまが答え、それに対し自分で言うかぁ〜?なんてお互い突っ込みあったりしながら笑っているおじさま達を眺めていると、ワイルドなおじさまが声をかけてきた。
「ナマエちゃんもなんか楽器すんのかい?」
「あ、はい!アコギをやってました。」
「いいねぇー、アコギはこっちにあるよ」
利き手は右?とか、何年やってんの?などの質問に答えれば、はい、と渡されたギター。
「触ってもいいんですか!?」
「いいよぉ、弾いてみなよ」
持てば少し重くて、握った際に少し弦に触っただけでも小さく響く音。
「ああ…!」
久しぶりに触る本物のギター。
迷わずストラップを肩に通し、ポジションを確認。
ワンストロークかき鳴らせば響き渡る独特の弦の音。
適当に鳴らしていただけの音から知っている曲に音を変えていく。
そのままリズムに合わせて体を揺らす。
楽しくて、嬉しくて、胸が締め付けられる。
このまま演奏を続けたい所だったが、エースくんをほったらかしにしていた事に気づき、ポロシャツのおじさまたちと話す彼のもとに駆け寄る。
「エースくん…!」
「すっげぇ嬉しそうだな!」
「うん!すっごく嬉しい!見て!本物のギター!触らせてもらったの!」
見て!とエースくんの前でギターを弾くポーズをとれば、エースくんは「エアギター卒業だな!」と太陽の笑顔をくれた。
「エアギター?ナマエちゃんエアギターするの?」
「えっ!いや…エアギターは、しないですよ…」
「無人島でギター弾きたかったけど無くて、エアギターやってたんだよな!」
「いやいや…それ言わなくてもいいよね!?」
「なんだよ、別にいいじゃねえか面白れぇし」
「エースくんは面白くても私は恥ずかしいよ?」
またも無人島でのエアギターをネタにされジト目でエースくんを見る。
おじさま達は仲いいねぇ〜などと笑ってくれているが、他の人にまでネタにされたらどうするんだ。
エアギターなんて一回しかしてないのに。
いや、もしかしたら無意識に何回かしてるかもしれないけど。
「じゃ、俺は上に戻るけど、ナマエはもう少しここに居ていいぞ」
「え、エースくんが戻るなら一緒に戻るよ…」
「俺は船を空けてた間のごちゃごちゃをしなきゃいけねえんだ。その間ナマエ一人になっちまうぞ?」
「そうなんだ…」
エースくんやマルコさんがいないのに一人待つというのも気まずい。
どうしようかと悩んでいるとポロシャツのおじさまが声をかけてくれた。
「いいじゃない、ここに居れば。ここにある楽器なんでも弾いていいよ?」
「え!いいんですか!俄然興奮してきた!」
「いいよー、それか僕たち今夜の宴用に練習してるから、それ見ててもいいし」
「エースくんいってらっしゃい!私はここに居るね!」
エースくんにお前案外現金なやつだな、とジト目をされたけれど気にしない。
上で一人ぽつんと待つよりここでギター弾いてた方が断然楽しいもん。
それにアコギだけじゃなくて他の楽器も弾いていいと言われたらこれはもうここに残るしか選択肢はない。
ちょっと不服そうなエースくんをおじさま達に囲まれながら満面の笑みで見送った。