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「ナマエちゃんは見れば見るほどあの歌姫に似てるねぇ」

鼻歌交じりに貸してもらったギターを弾いているとポロシャツのおじさまに声をかけられた。
エースくんと別れた後改めて自己紹介をし、ポロシャツのおじさまがアダムさん、ワイルドでギターを貸してくれたのがスティーブンさん、そして紳士風な見た目のおじさまがルイさんだ。

「あー…似てるというか、本人ですね」
「ほんとに!?死亡記事出てたよね!?あ、ごめんね、悪い意味じゃないよ。びっくりしただけ」
「大丈夫です。あの状況だと生きてると思われる方が無理だと思います」
「いやー、でも生きてる歌姫に会えるなんて感激だなぁ!」

改めて握手!と求められるがままに握手をする。
アダムさんは見た目もだけど言動が穏やかで茶目っ気がある。
とても海賊とは思えないような人だけど、やっぱり海賊である以上戦ったりするんだろうか。

「昨日も思ったんですけど、海賊の皆さんにまで私のことを知ってもらえてるなんて驚きです」
「そうかな?音楽好きな人とか流行りに敏感な人はみんな知ってるよぉ!もちろん疎いやつはいるけどさ」
「そうなんですね…」
「ねぇ!今日の宴でボーカルしない?」
「え!?私がですか!?」

「ね!みんなもいいでしょ!」とスティーブンさんとルイさんに声をかけるアダムさんに二人は「いいぞ!」と即答した。

「いや…私なんかがいいんですかね…せっかくのエースくん帰還の宴に出てしまって…」
「もちろん!むしろ歌姫の生の歌が聞けるなんて皆盛り上がるよ!」
「うーん…」
「僕たちなら今から練習すればナマエちゃんの好きな曲になんでも合わせられるよ」
「なんでも!?やりましょう!!」

せっかくの宴で私が歌うなんて出しゃばったことをしていいんだろうかと悩んだものの、「好きな曲なんでも」という言葉に脊髄反射で応えてしまった。

なんでも良いのであれば…と部屋の中を見回し、エレキギターを手に取る。

「私の中のイメージですが…」

あの曲がピッタリだと思います!と振り向き叫ぶ。
自分一人の時はイメージもあってアコギベースの曲ばかりだったけど、今回は皆さんがいる。
新しい曲にチャレンジできるなんて楽しみだ、とウキウキで皆に曲を伝え始めた。


***


練習を始めてからどれくらいたっただろうか。
私の伝えたメロディーとイメージを完璧に再現してくれた時はもう大興奮だった。
正直この練習で歌を歌っただけでも大分満足なのだが、まあ宴で披露するための曲だからきちんとお披露目はしましょう。

「そろそろ楽器上に運ぶか?」
「そうだねぇ。もういい時間だね」

時計を見れば夕方と言っていい時間になっていた。
お昼はいつ食べただろうか。

「あれ!?もうこんな時間ですか!?お昼食べましたっけ?」
「食べたよぉ」
「え…全く記憶にないです」

本当にいつ食べたんだろう。
食べたものが全く思い出せない。

「ナマエちゃんエレキに夢中でさー、ご飯だよって言っても全然聞こえてないみたいだったの」
「それでルイの奴が口元におにぎり持ってったら口開けるから、そのまま食べさせてやったのさ」
「すんごい面白かったよ!目はエレキしか見てなくて、手も動きっぱなし。でもおにぎりは口開けて食べるから」

絶句。初対面のおじさま達に何をさせているんだ私は。
ルイさんを見ればうんうんと微笑みながら頷くだけだった。

「すいません…もう、何と言ったらいいか…」

穴があったら入りたい。
もう海に潜ったまま沈んでしまいたい。
19歳の女のすることじゃないよこれは。

エレキを握りしめたまま立ち尽くす。
エレキギターをエースくんに見られた時の比ではないくらい恥ずかしい。

「まあまあ、人の声が聞こえなくなるくらい集中できるってすごいことだよ」
「私は気にしていないから。ナマエちゃんそんなに申し訳なさそうにしないでくれたまえ」

よしよしとアダムさんとルイさんに交互に頭を撫でられると、部屋の扉が開きマルコさんが入って来た。

「おーいナマエはいるかよい?」
「マルコさん!」

アダムさんとルイさんの身体の間から顔を出しマルコさんに手を振る。

「みんなで固まって何してんだよい?」
「ナマエちゃんが可愛くてみんなでよしよししてたのさ」
「はあ?」

怪訝そうなのを隠しもせずアダムさんを見るマルコさん。
じっと見つめてきたかと思えばそのまま私に手を伸ばし、
ぐりぐりと頭を撫で始めた。

「マルコさん?」
「いや…」
「ふふ、マルコパパは娘が他の人に懐いて複雑なのかな?」
「はあ?そんなんじゃねえよい」
「ナマエちゃん可愛いものね、わかるよぉ」

無言で私を撫で続けるマルコさんを意味も分からず見つめていると、アダムさんがだいぶ的外れなことを言い始めたので口を挟む。

「アダムさん、マルコさんは私の扱いがだいっぶ雑なんですよ!鳥足でお腹掴むし、デコピンするし!あ、でもまあ優しくしてくれる時は優しいんですけど…でも焼きもちとかは焼かないと思いま…」
「だいぶ優しくしてやってるだろうがよい!」

そういって撫でていた手で人の頭をギリギリと握る。
ほら、そういうところですよマルコさん。
痛い痛い!と声を上げる私をそのまま引きずって部屋を出ていく。
また後でねー!と声をかけられたが私は返事をするどころではなかった。


***


「マルコさんは!私の扱いが雑!」
「うるせーよい、風呂入るか聞きに来てやったんだから優しいだろうがよい」
「え、お風呂?」
「昨日風呂入らずに寝ただろい?オリビアが気にして俺に言ってきたんだよい」
「そういえばそうですね。あんまり気にしてなかったです」
「…女ってのはそういうとこ気にするもんじゃねぇのかよい?」
「船に乗った時に一度シャワーしてますし、無人島にいるとお風呂に入るって発想がなくなるので」
「それもそうだねい。ま、風呂も入りたきゃ入るといいよい」

バンド練習で汗もかいたし、せっかくなので入ろうかな。
そう言って大浴場の方へ向かえば途中でオリビアさんと遭遇した。

「ナマエ!体調は大丈夫?」
「オリビアさん!大丈夫ですよ、ありがとうございます!」
「それなら良かった…。ねぇ、これから宴でしょう?きっと皆の前で紹介されると思うから、一度シャワーを浴びてきたら?」
「あ、そうですね。ちょうどマルコさんにもシャワーの話をされたところなんです。貸していただけますか?」
「もちろん、こっちよ」

そのままマルコさんと別れオリビアさんについていく。
昨日シャワーを浴びたのは医務室だったけれど、今日は大浴場を案内された。
男女で浴場は分かれており、そのシステムは日本的だなあと心の中で思う。
女湯は男湯よりもスペースが狭く、化粧台などが完備されているらしい。

ちゃっちゃかシャワーを浴びたところでオリビアさんから新しく服を渡された。

「はい、今日の着替え」
「ありがとうございます!」
「髪の毛を乾かしたら化粧もしましょ?せっかくのお披露目なのに服がそんなんだから化粧くらいしっかりした方がいいわ。本当は昨日着せたワンピースがお披露目によさそうだと思っていたけど、タイミングがずれたから…」

その言葉に渡された服を改めて見る。
黒字に派手な文字がプリントされたTシャツとデニムのショートパンツ。靴は足の甲にひっかけられるようにハイカットの黒いスニーカー。
きっとこのショートパンツはオリビアさんが着たらホットパンツになるってやつだ。
たしかにさっきまで着ていた白いワンピースと比べたら雰囲気が随分とラフになるけれど、
むしろこの服の方が良い。

「オリビアさん、この服で大丈夫ですよ。いえ、むしろ今日のイメージにピッタリです!」

そういってにっかりと笑えば彼女は不思議そうな顔をした。