13
オリビアさんにクール系のメイクをしてもらって、甲板へ向かう。
だいぶ人が集まってきており、人ごみを縫うようにして進む。
ついて来てくれると言ったオリビアさんに、マルコさん探すので大丈夫ですと一人で来てしまったが、予想以上の人の多さである。
まさか本当に1600人集まっているのだろうか。
周りは皆背が高く、前方すら見えなくなってきた頃、ドラムとベース音が聞こえたのでそちらに向かう。
「アダムさん!スティーブンさん!ルイさん!」
ステージ状にのスペースで音合わせをしている三人を見つけ、声をかける。
すぐに三人は私に気が付いて手を振ってくれたので、駆け寄っていく。
「その恰好今日の曲にピッタリだね!」
「はい!オリビアさんから貸してもらったんです!」
「ギター背負ってるならこのまま音合わせしていくか?」
「はい、そうします」
ギターをアンプに繋ぎ音の調節をしていく。
室内で弾いた時と外では響き方が全く違うのが面白い。
そういえば船の上で歌うのはいつぶりだろうか。
夜の海、大きな船。
ノイズのように頭に流れる嫌な記憶を振り切るようにギターを鳴らす。
ああ、早く歌を歌いたい。
歌えばこのノイズは消えるはず。
音合わせの最中だが、ノイズを振り払うために歌おうと息を吸う。
「おーい!ナマエ!」
「…!」
振り向けばエースくんとマルコさんが手を振っていた。
周りに沢山人がいるのに、あの二人だけが周りから浮かぶようにはっきりと見える。
音合わせを終わらせ、二人の所へ向かう。
「よお、この後ギターすんのか?」
「うん、バンドに混ぜてもらったの。後で演奏するよ」
「へー楽しみだな、エアじゃないギター!」
「本物のギターも弾けるってところを見せてあげよう」
まだエアギターネタを引きずっているエースくんを適当にあしらう。
随分ご機嫌だな、と思えば彼の片手にはすでにジョッキが握られている。
「エースくんもう飲み始めてるの?」
「あーまあ、こんだけ人がいれば一斉に飲み物配ってハイ、乾杯!ってのは難しいからなぁ」
「だらだらっと集まってだらだらっと始まるのが普通だよい」
「それでだいたい人が集まったところで親父から一言あって、きちんと乾杯!って感じだな」
「へぇー、そんなもんなんだ」
「ナマエは何飲むんだよい?オレンジジュースか?」
「おいマルコ、普通にビールだろ?」
「あ、いいよ、私未成年だしオレンジジュース飲む」
ありがとう、と準備されていたオレンジジュースを受け取る。
料理なども最初はスナックなどが用意されており、それをつまみながら乾杯を待つのだ。
それで盛り上がってきた頃に料理も出来上がって順番に運ばれてくる。
喧騒の中集まって来た人達と話していれば、親父さんの声が響いた。
「グララララ!メインが話す前に酔いつぶれんじゃねぇぞおめぇらぁ!」
ぐわっと回りが沸いたかと思えばエースくんがさっと白ひげさんの所へ向かっていった。
大きく沸く中でエースくんが白ひげさんの横に立つ。
「家族が無事に戻って来た」
大きな、それこそ樽のようなジョッキを右手に白ひげさんが話始めれば、夜の波の音が響くほどに喧騒が静まる。
「エースがあの嵐の夜に船から落ちたと聞いた時には、もう一目も会えないのかと思った。だがビブルカードが燃えつきてないことに気がついた時には船中が沸いたな。ビブルカードが燃え尽きてねぇうちは必ずエースが生きてるんだと、諦めずに探し続けてくれたおめぇらに、礼を言いたい。」
ありがとう、とジョッキを掲げる彼に各々反応する。
まばらに拍手も混ざっていたのでそれに便乗し、軽く手を叩いていると、耳元でマルコさんが囁いてきた。
「おめえも前に行っといた方がいいよい」
そう言って軽く背中を押されたので、静かに白ひげさんとエースくんの方へ向かう。
確かに、この流れでエースくんの後に私の自己紹介が入るだろう。
大きな体躯ばかりの中をなんとか歩いていく。
「皆、心配かけて悪かった!そんで迎えに来てくれてありがとう!俺が今、こうしてここに帰ってこられたのは、いろんな偶然が重なって起きた本当に奇跡みたいなことだ。皆ビブルカードを信じて、探してくれてたみてぇだけど、実は海に落ちた時にこの帽子と一緒に海に落としちまってた」
そう言ったエースくんに甲板中の人たちがざわつき、それをエースくん本人がなだめる。
私はもうエースくんを横から見るようにして甲板の手すりにもたれる。
呼ばれればすぐに出ていける距離だ。
「海に落ちた俺は、偶然同じように無人島に遭難していたナマエに助けられた。ビブルカードを海に落としたと気づいた俺は落ち込んだし…荒れた。そんな時励ましてくれたのもナマエだった。ナマエは本当に俺の恩人だ」
話ながらこちらを見るエースくんにぎこちなく笑う。
昨日もそうだったが、私はただ出来ることをしただけで、そんなに大したことはしていないと思う。
それなのにこんなに大げさに感謝されるとどうしていいか分からなくなる。
「もう昨日会ったやつもいるだろうけど、改めて紹介するな、ナマエ」
名前を呼ばれてエースくんの隣へ立てば、一斉に皆の視線が自分に向くのが分かる。
大勢の前で何かをするのは得意じゃない。
かと言ってここでもじもじして空気を壊すのも本意でない。
ふ、と息を吐き歌手のナマエをイメージする。
「こんばんは、ミョウジ・ナマエです!私が無人島に遭難している時にエースくんを助けられたことは本当に幸運だったと思います。また私のことまで保護していただき、こちらこそお礼を言うべきところです。白ひげさんから次の島まで、もしくは治安の良い島まで乗せていただく許可をいただきましたので、皆さまどうぞよろしくお願いいたします!」
一気に言い切り、深々と頭を下げる。
大きな拍手と歓声を受け、悪い印象は与えなかったのだと安堵の息を吐く。
このまま歌の流れに持っていきたいと思い、ステージの方を見れば、アダムさんたちが楽器を持ってこちらを見ていた。
準備は万端だと言いたそうな笑みを浮かべている。
「僭越ながら自己紹介の代わりに一曲歌わせていただきたいと思います。一応歌で生活していたので、聞くに堪えない、と言うことはないと思いますが、お付き合いいただければと思います!」
そう言ってステージに歩き出せばスティーブンさんがドラムを叩き始めてしまった。
そうなればベースのアダムさんもキーボードのルイさんも合わせて音を出すし、非常に焦る。
走ってステージ上に上り、ギターを持つ。
イントロが始まっているのに曲名を言うなんて、この曲には合わないかもしれないけれど、いつものやり方じゃないと落ち着かない。
「It’s my life 歌います!」
今まではアコギメインの曲だったので、ドラムやベースが全面に出る曲は歌ってこなかった。
だけど今回白ひげの皆のイメージに合った曲を、と思い選んだのは力強いドラムのロックだ。
「この歌は心に傷を負った人の為のものじゃない」
自分の歌い方も今までと違い、ハスキーさを意識し音の最後に喉をかすれさせる。
「信仰心を失った人への静かな祈りでもない
俺は群衆の中のただの一人になりたくない
お前は俺の声を聞くだろう
俺が心から叫ぶ時」
今までにない曲調と、みんなのハモリや演奏のカッコよさに興奮して頭がくらくらする。
サビへ入る時にこんなに気持ちが良いのは初めてかもしれない。
「これが俺の人生だ
今しかないんだ
永遠に生きたいわけじゃない
今この瞬間を生きたいだけなんだ」
周りを見渡せばきらきらした顔ばかりが並んでいる。
私の歌には海からもらった不思議な力があって、歌を披露するたびにこの顔に会える。
だけど飽きることは全くなくて、毎回その顔を見るたびに私がこの世界にいる意味を見つけた気分になる。
「誰かに呼ばれる時が来たら勇気を持って立ち向かうんだ
信念を曲げるな、くじけるなそして諦めるな」
人ごみのなかケンさんを見つけた。
大号泣と言っていいほど大泣きしているけれど、大丈夫だろうか。
本当に私のファンで居てくれたんだなぁと嬉しく思う。
「俺は俺の道を歩いてきた
今この瞬間を生きたいだけなんだ
これが俺の人生だ!」
海賊という道を選んだ彼らが後悔しないように、そして私もいつか自分の選んだ道を後悔しないように。
そう願いを込めて叫んだ。