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いきなりの歌披露であったが、みんなの反応は上々だったと言える。
ケンさんは私の大ファンを自称していただけあって大号泣していたし、他の人も盛り上がっていた。
大盛り上がりの中、後の演奏をアダムさんたちにお任せしてエースくんとマルコさんの元に向かった。
その短い道中でも沢山の人たち声をかけられ、肩を叩かれ、もみくちゃにされた。
エースを救けてくれてありがとう、とか歌の感想とかそう言った温かい言葉をかけられ、その都度恐縮しながらお礼を述べる。
やっとの事でエースくんとマルコさんの所に辿り着けばマルコさんが新しいオレンジジュースを手渡してくれた。
「もう歌はおしまいかよい?」
「はい、アダムさんたちと練習できたのはあの曲だけなので」
そう言ってマルコさんの横に座る。
「惜しいな。想像以上に良かったからもっと色んな曲を聴いてみたかったよい」
「な!ナマエの歌はすごいだろ!?」
「なんでお前が自慢げなんだよい」
マルコさんの横でお肉を頬張っていたエースくんが会話に参加してきた。
エースくんの前に置かれているお皿には山の様にお肉の骨が積み上げられていて、私が1曲歌う間にどれだけ食べたのだろうと思う。
「戻って来たなら隊長たちに紹介するかねい」
「そうだなぁ、挨拶だけはしといた方がいいよな。ナマエ、皆に紹介するからついて来いよ」
そう言って立ち上がりかけたエースくんをマルコさんがため息をつきながら止める。
「エース。ナマエは俺が連れてくからお前はここに居ろ」
「なんでだよ?俺が皆に紹介するからマルコこそ座ってていいぞ」
「…お前はこの宴の主役だろう。周り見てみろよい」
マルコさんが顎で指した方を見れば料理を持った船員の方たちがこちらを見ている。
ああ、久しぶりに会ったエースくんと話したくて仕方がないのだ。
「エースくん、あの人たちエースくんと話したいみたいだし、マルコさんと行ってくるね」
「なんか毎回置いてかれてる気がする」
「何餓鬼みたいなこと言ってんだ。お前が帰ってきた後皆と会わないからだろうがよい」
ツンと口を尖らすエースくんにマルコさんはますます呆れた顔で返事をする。
決してみんなと話すことが不満なわけではなくて、たまたま3人で行動しようとする度に自分だけ別行動になってしまうからだろう。
口では不満げなセリフを吐きつつも体は皆の方に向かう準備をしている。
「皆との会話を大事にしなよ。またあとで話そうね」
そう言って私はマルコさんと移動を始める。
オレンジジュースはまだ半分以上あるから持っていこう。
***
隊長たちはまとまって宴を楽しんでいた。
サッチさん、イゾウさんとはすでに挨拶を済ませていたため、その二人以外の隊長たちをマルコさんから順番に紹介されたが、12人も一度にとなると正直覚えきれない。
「えっと、しばらくお世話になりますナマエです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げれば「まあゆっくり覚えていけばいいよー」と声をかけられた。
イゾウさんの横に座っている、童顔の彼はハルタさんだ。
紹介してもらっている時に随分若い人が隊長なんだな、と心の中で思っていたらイゾウさんに「ハルタは意外と若くないからな」と言われた。
その事が印象に残って彼の名前は憶えられた。
後はジョズさん、ビスタさん、ラクヨウさん、ブレンハイムさん、キングデューさん…。
正直見た目でダイヤモンド、胸毛、ドレッド、みつあみ、おかっぱと見た目の特徴を付けやすい人は憶えられたけれどそれ以外の方はちょっと名前が怪しい。
さっき聞いたばかりだけど、聞いた端から忘れてしまっている。
あと紹介された時から気になっているのはナミュールさん。
「どうした?ナミュールの事ばかり見てるな」
「あ、すいません…失礼でしたよね」
ジョズさんに話を振られて慌ててナミュールさんから視線を逸らす。
おそらく彼は魚人…魚人族の人だ。
私が知っている魚人族はナミさんの村を支配していたアーロン一味だけなので、魚人族は人間を見下しているイメージだったのだけれど、彼は違うのだろうか。
「魚人がそんなに珍しいか?」
「あっす、すいません…」
ナミュールさん本人に話しかけられ慌てて謝るが、やはりどうしても気になってしまってナミュールさんをチラ見してしまう。
海が好きな私としては魚人の生態が気になるのだ。
そんな私にナミュールさんが鼻で笑いながら言い放った。
「まあ初めて見た魚人が怖いんだろう」
一瞬、その場の空気が固まるのが分かった。
すぐに誰かが笑ってこの場をとりなそうとしてくれたけど、私はその場の空気に流されて笑うなんてできなかった。
確かに不躾に見てしまったのは私が悪いけど、それがなぜ私がナミュールさんを怖がっているということに繋がるのだろうか。
じっとナミュールさんの目を見つめれば彼も黙って私を見つめ返す。
私の出方を伺っているのかもしれない。
「怖くないですよ」
「本当か?無理しなくていいぞ?」
「怖がる理由が今のところありません」
「今のところ?」
「魚人であることは怖がる理由になりません。暴言を吐かれたり暴力を振るわれるのなら怖いと思います。でも暴力をふるうことと魚人であることはイコールではありませんから」
ナミュールさんはしばらく私を黙って見つめた後大きく笑った。
「はははっ!なるほど!確かに怖がってる奴の態度じゃねぇなあ?」
ナミュールさんが笑ったことで固まっていた空気が解れたように感じる。
「まあ、俺の事を白ひげ一番隊隊長だと知った上でするスルーしてた奴だからな、コイツは。ナミュールを怖がるはずもないってわけだよい」
マルコさんの発言に周りが興味深そうに声を上げる。
そしてマルコさんは私の首根っこを掴みナミュールさんの近くに引きずっていく。
「ちょっ…!首が締まる…!」
「お前が意味深にナミュール見てるから変な空気になっただろうが。言いたいことあるならはっきり言えよい」
「や…それはなんか恥ずかしい…!」
「はあ?」
ナミュールさんの前に投げ出されるも、彼を見つめていた理由を面と向かって言うのは中々気恥ずかしいものがある。
しかし恥ずかしさから視線を左右に彷徨わせている間もナミュールさんは私が何を言うのか待っているし、後ろからは「告白か?」などとふざけた野次が飛んできている。
これはもう言うしかない雰囲気である。
「あの…」
「な、なんだ…?」
私の「恥ずかしい」発言を聞いたせいかナミュールさんまでなんだか気まずそうな雰囲気を醸し出している。
そんな照れ臭いような恥ずかしそうな顔をされると私まで釣られて顔が赤くなってしまう。
言え、言うんだ。
もうここまで来たら言ってスッキリした方がいい。
恥ずかしいけれどこれ以上この空気は引っ張れない。
正座した足の上で拳を握りしめナミュールさんを見る。
「ナ、ナミュールさん!」
「お、おう!」
「…触らしてもらってもいいですか!?」
「…お、おう!?」
言えた!言えたぞ!と深い息を吐いたところで頭に衝撃が走る。
「おめぇは何を言ってんだよい!?」
「…っ!!痛い…!!」
叩かれた箇所を抑えながらをマルコさんを見上げる。
人の頭をいきなり叩くなんて今この場所にいるメンバーの中ではマルコさんしかいない。
私は恥ずかしいと言ったのにも関わらず無理やり話させておいてなんで叩かれなきゃいけないんだ。
不満、理不尽、何すんだこの鳥!と見つめればマルコさんの目がスウと細められる。
「鳥なのは否定しないけどよい。痴女かお前は」
「ち…誰が痴女ですか!」
「いきなり触らせてくれって言っておいて痴女以外のなんだってんだよい。ナミュールにセクハラすんな!」
「セクハラってうっすら分かってたので言いたくなかったんですけどね?」
というか言葉に出してないのに悪口をきっちり受信してるマルコさん怖いな。
ナミュールさんの反応を見るべく彼の方を向けば、ナミュールさんは私と私の後ろに立つマルコさんをゆっくり交互に見つめた後息を吐いた。
「…いいぞ、触っても」
「ありがとうございます!」
大喜びの私をみて再度ナミュールさんは長い息をついた。
すいません、初対面でこんなこと言うのは非常識だと分かっていますが、好奇心には勝てませんでした。
ナミュールさんの手を取りまずは水かきをなぞるように触る。
魚人の彼らは水中と陸上ではどちらで生活することが多いのだろうか。
アーロン一味は普通に陸上に大きな屋敷を建ててそこで生活していたようだけれど。
彼の青い肌が水陸どちらでも適応しているのはとても気になる。
ゆっくりと手を這わせれば人間よりだいぶ弾力があり、固い質感が伝わる。
サメ肌ではないんですね、と言うとそれはなんの魚人によるのかでも変わってくると答えてくれた。
彼の顎から首筋にかけてのあたりに手を伸ばす。
彼の首には「8」の入れ墨が彫ってあり、これは彼が所属する隊の番号だろう。
頬からこめかみ辺りにあるエラは今は動いていない。
「水中に入ったときにエラ呼吸にするんですよね?切り替えに意識は必要ですか?」
「いや、海に入れば無意識にエラ呼吸になっているな」
「なるほど…」
その後も泳ぐスピードや人間との筋力の違いについてなど、思いつくままに質問したがナミュールさんは彼の分かる範囲でどれも答えてくれた。
するすると彼の身体に手を這わせていれば彼が身体を揺らし始めた。
「ん…けほっ!んん゛…」
「ナミュールさんどうしました?水飲みますか?」
「ああ…すまん…」
水を周りの人にパスしてもらい彼に渡す。
質問しすぎただろうか。
「すいません、質問攻めにしてしまって…」
「いや、大丈夫だ、少し息苦しかっただけだ。もう治った」
触らせてもらったことにお礼を言い、マルコさんの傍に行く。
彼は私がナミュールさんを質問攻めにしている間にイゾウさんたちと盛り上がっていた。
「やっとナミュールを質問攻めから解放してやったのかよい?」
「はい、いっぱい答えてもらいました!」
取ってあったオレンジジュースを飲みながらおつまみを食べる。
様々なピンチョスがあり、どれも美味しい。
「ナマエは初めて魚人族を見たってのは本当かい?」
イゾウさんがお猪口を片手に話しかけてきた。
酔いのせいかほんのり頬が赤く染まっており、いつか船内であった時よりも色気が増している。
アーロン編は漫画やアニメで見ていたが、実際この世界に来てあったのはナミュールさんのため、彼が初めて出会った魚人だとだけ答える。
イゾウさんはふうん、と頷いてお猪口に口をつける。
飲み下す際に動く喉ぼとけがなんだかいやらしく感じ、イゾウさんから目をそらす。
「お前さんの年頃の女の子ならねぇ…魚人を見た時には多少なりとも怯えるもんさ。普通ならね」
親から聞いた話だったり、その見た目からだったり、自分と違うものに対して怯むのさ。
そう言って彼は私を見て目を細める。
「本当に魚人は怖くねぇってのかい?」
その質問の意図が分からず首をかしげる。
先ほど全く同じ内容の質問に対してナミュールさんに答えていたところを彼も見ていたはずなのに。
「気を悪くしないで欲しいんだがねぇ、お前さんは今まで海賊とか荒っぽい事に関わらずに生きてきただろう?ナミュールもそうだが、どうして俺らの事を怖がらずにいるのかが不思議でしょうがないのさ」
なあマルコ?と話しかける彼にマルコさんも困惑の表情を浮かべる。
「マルコが白ひげ一番隊隊長だと知っても怖がらなかったのは…まあ白ひげがどれだけの海賊か知らなかったっていう場合もある。だけどマルコの能力を見て驚いたり怖がったりはしたのかい?」
私とマルコさんを交互に見比べ彼はうっすら笑う。
「随分肝が据わったお嬢ちゃんだねェ?もしかしてこの船に乗ったのは偶然じゃなくて何か狙いがあるんじゃないのかい?」
エースくんの恩人という肩書で歓迎されているかと思いきや、そうでもないらしい。