番外編1 歌姫の死亡記事

〜ニュース・クーのとある記事〜
海の歌姫、マリンフォードへの移動中船から転落し行方不明。生存は絶望的か。

「海の歌姫」として世界中に知られるミョウジ・ナマエさんが〇月×日深夜、マリンフォードに向かう船上にて彼女のファンと思われる男性に腹部をナイフで刺された後、海へ転落した。
ナマエさんの所属事務所によると、彼女の専属マネージャーが容疑者を手引きし、関係者のみ立ち入り可能である彼女の部屋へ侵入させた。容疑者はナマエさんを刺した直後、警備員に取り押さえられたが、ナマエさんは刺された衝撃で船の外へと落下。
船上に引き上げられる前に突如として現れた大型の海王類によってナマエさんは海に引きずり込まれた。
天候の悪化もあり救助活動ができず、船はそのままマリンフォードへと進路をすすめた。
また事務所は「歌手としてこれ以上ない才能に恵まれた彼女は、本来であればもっとたくさんの人に愛され、また彼女の歌の力で多くの人を幸せにできたことでしょう。それを突如このような形で彼女の輝かしい未来が閉ざされてしまったことを大変残念に思います。事件の発端は弊社に所属する人間が引き起こしたことであり、大変遺憾に思うとともに、ファンの皆様、関係者の皆様には多大なるご迷惑をおかけしましたことを心より申し訳なく思っております。」と悲痛な思いを語った。
事件前後の状況から、彼女の発見は絶望的とされており、1週間の捜索で手がかりが発見されなければ捜索は打ち切りとなる。




〜アーロン海賊団測量士の哀惜〜
嘘だ。
彼女が死んだなんて。
腹の底から悲しみと怒りがこみ上げる。

苦しさの中で溺れそうになっていた時に、彼女の歌を聞いた。
どん底で、いつまでこんな生活をしなければならないのか、先が見えない不安で押しつぶされそうな時だった。
親の仇の下で働くのは辛かったが、自分の村のためを思いひたすら心を殺し、アイツの下で働いた。
涙を流したのは親が殺された時が最後。
それ以降はどんなに辛くたって平気な顔をしてきた。

それなのに彼女の歌を聞いただけで私の涙腺は破壊され、今まで貯めてきた涙が一気に流れたようだった。
今がどん底なら後はもうよくなる以外ないんだって。
ありふれた歌詞のはずなのに、彼女の歌を聞くといつか本当に報われる時がくるんじゃないかと思えた。

彼女の歌があったから頑張ろうと思えたのに。


〜レインディナーズ支配人の胸中〜

夢の為にはなんだってする。
そう決めてから心が休まる時はなかった。
最初に彼女の歌を聞いたのは仕事の一環で世間での流行りを把握しようとした時だった。
けれど彼女の歌を聴いて、かつてないほどに心穏やかに過ごすことができたことに気が付き、彼女のファンになった。
オーナー経由でアラバスタの宮中行事のアトラクションとして彼女を招待する話が上がっていると聞き、生で彼女の歌が聞けるかもしれないと柄にもなくオーナーにコネを使って貰おうかと悩むほどに。

彼女の歌は世界中で高く評価されているが、彼女の愛らしい風貌や孤児に多額の寄付をするその優しさも人々が癒される要因なのではないかと思う。

一度は生で歌を聞いてみたいと思っていたが、それももう叶わないのだ。


〜白ひげ海賊団船員の悲劇〜

彼女の魂の乗った歌が好きだった。
柔らかくそして力強い声が好きだった。
たどたどしくMCをする話声も好きだった。
孤児に多額の寄付をする優しさも好きだった。
自分たちのような海賊も楽しめる歌をと考えてくれる姿勢も好きだった。
記憶がないのだと重い過去を明るく話す強さも好きだった。

彼女は故郷に帰りたがっていたが、その願いは叶うことなく潰えた。
きっと自分とは違い島で待つ家族もいただろうに。

彼女の故郷について船員たちに聞いてみたが誰も聞いたことがないらしい。
遺体も発見できず、家族も見つからず、残ったのは彼女の歌だけ。

島に上陸するたび買い揃えていった彼女のグッズは自分のエリアからはみ出しそうになっているが、整理できる日はしばらく来ない。