番外編2 ナースたちと

白ひげ海賊団に来てから3日目。
今日からナースさんたちと同じ部屋で寝泊まりするべく、ナースさんたちの部屋の前まで来た。
本来ならば初日からこの部屋で寝るはずだったのだが、一昨日はマルコさんの部屋で大泣きした後寝落ちし、昨日は酔っぱらってエースくんの部屋で寝てしまったためナースさんたちの部屋で寝泊まりできていない。

女所帯での生活をしたことはないが、よく聞く派閥が形成されていたり陰口をしたりというドロドロした関係ではありませんように。

扉の前で祈りながらノックして扉を開ける。

「失礼します…」
「あ!ナマエ、待ってたのよ。さあ入って」

扉を開けてすぐにナース長のオリビアさんが私に気が付いて声をかけてくれた。
ふわふわでモコモコしたパーカーとショートパンツにおそろいのロングソックスを身に着けていて、化粧を落とした顔は昼間見た時よりも幼くなっている。
お泊りデートで彼女にして欲しい恰好ランキング1位って感じだ。

「お、お邪魔します…」
「うふふ、遠慮しなくていいのよ。あなたのベッドも決まっているんだから」

ナースさんたちの部屋は2段ベッドがいくつも並んでいて、ベッドにはカーテンがそれぞれ付けられている。
ベッドが各個人の部屋のようになっているようで、カーテンの模様もそれぞれ異なる。

部屋に入ると皆ベッドから顔を出してそれぞれ声をかけてくれた。
ふわもこな格好をしてる人、セクシーランジェリーを身に着けている人、それぞれだけど皆綺麗でいい香りがする。

「このベッドを使ってね。周りを見ればわかるけど、ベッドがそれぞれの部屋みたいになってるから、レイアウトも好きにいてくれていいから」
「はい、ありがとうございます!」

私のベッドだと言われたのは部屋の中でも1番手前の下の段のベッドだ。
好きにレイアウトと言っても自分の持ち物はほとんどないので、しばらくはヘッドボードは寂しいままだろうな。

「ねえ、昨日はエースの部屋で寝たって本当?」
「え?」

宛がわれたベッドの上で少ない荷物を整頓しているとどこからか声をかけられ、顔を出せば何人かから興味津々といった視線を向けられた。

「昨日はエースの所で寝てたって話。皆噂してるよー。一昨日はマルコ隊長の部屋で寝てたって」
「あ…はい。そうですね…」

思わず肯定してしまったが、これって探りを入れられてるんだろうか。
来て早々うちのクルーに手ぇ出してんじゃないわよ。とか。
それにもしマルコさんとかエースくんの事を好きな人が居たら、私ってかなりの邪魔者でしかないのでは?しかも何も無かったとは言え二人の部屋で寝てしまった。

一気に目の前が暗くなる。

「あーそれ私も気になってたぁ!」
「年齢的にはエース隊長と近いわよね?でも年上の方が好きたっだりするの?」
「私はマルコ隊長とだと思ってた!だってあのマルコ隊長がなんだか甲斐甲斐しくお世話してるし!」
「でもマルコ隊長とだと親子くらい年齢差あるんじゃない?」
「えー恋に年齢は関係ないって!」

想像していたものと真逆のリアクションを取られ呆気とられる。
ナースのお姉さんたちは呆気にとられている私をよそに、私がエースくんとマルコさんのどちらと付き合っているかという予想で大盛り上がりしている。

「ねえナマエ、どっちと付き合ってるの?」

ひとしきり盛り上がり、一人の派手めなナースさんが私に聞いてきた。
興味津々であることを隠しもせず、いつの間にか彼女の片手にはワイングラスが握られている。今夜はこの話を肴に飲みますってことだろうか。
私にもワインを勧められたが飲まないのでかわりに紅茶をもらう。
「夜のスイーツはダイエットの敵なのよ」ということで、クッキーやケーキではなくナッツ類とドライフルーツをお茶請けとして出してもらった。

「あの二人とはどちらとも付き合ってないですよ。出会ったばかりですし…」
「時間なんて関係ないわよ〜!恋はいつでもハリケーンでしょ!エースとは無人島で何日か一緒だったでしょ?その時に何もなかったの?」
「なーんにもなかったですよ。本当にその二人の事はそういう目で見ていないので…」
「そうなの!?マルコ隊長もエース隊長も人気あるのに!」
「えっそうなんですか!?」
「そうよ!マルコ隊長って強いし頭も良いし、セクシーだから人気があるのよ!」

エースだって可愛い顔してるじゃない?と言われれば、確かにあのタレ目の目じりがさらに下がるくらい笑ってる時とか可愛いかもしれないな。
どちらかと言えばあの大型犬のような人懐っこい雰囲気が可愛さを出していると思うけれど。

しかしあの二人は人気があるのか…。いや、二人とも良い人だし強いし海賊の中では良い男なんだろうな。デリカシー全くないけど。

「マルコ隊長クールなんだけど冷たいわけじゃなくて、さりげなく優しいの」
「セクシーといえばマルコ隊長だけじゃなくてイゾウ隊長もそうね。近くにいるだけでとろけちゃいそう」
「エースはかっこいいけど弟扱いされる事が多いかな」

続く誰がかっこいいか談義ではマルコさん、イゾウさん、エースくんが今の所人気である。
サッチさんはだいたいコメントの最後に「良い人なんだけどね」と付け加えられているのが面白かった。

皆で盛り上がる中、一人静かな女の子がいた。
じっとりとこちらを見る顔に覚えがある。
昨日イゾウさんの隣でワインを飲んでいたクールビューティーのクロエさんだ。
うるさくしすぎただろうか。もしくはエースくんとマルコさんの事が好きで、私の事が気に入らないとか…。
思い切りクロエさんと目が合ってしまい、思わず固まった。
クロエさんも目を見開いたまま動かない。
2人で硬直していると、オリビアさんが気づいて彼女に話しかけた。

「クロエ、どうしたの?こっちで一緒に話しましょうよ」
「…私は、いいです」

ふいっと顔を逸らされ冷たく断られてしまった。
やはり私の事が気に入らないのでは…。

「もう、意地張らないでこっちに来なさい。ごめんねナマエ、クロエは照れてるだけなのよ」
「いや、そんな風じゃないと思いますよ…」
どうしたら照れてると解釈できるんだオリビアさんは。
とりあえず女集団で今後わだかまりを残すのも嫌なので誤解をとこうとクロエさんに近寄る。
私が近寄っていくことに気が付いたクロエさんは急に眼をきょろきょろと動かし始めた。
喧嘩を売るとでも思われてしまっただろうか。
急いで話をしなければ。

「あの、クロエさん」
「えっ…」
「私、本当にマルコさんとエースくんとは何にもなくて…。もしクロエさんが二人のどちらかを好きなようだったら誤解なんです。本当にあの二人は私の事女として見てないので。あと、騒がしくしてすいません。私同じ歳の友達いなかったので次の島までの短い間ですが仲良くしてくれたら嬉しいです。」

下段のベッドに座るクロエさんににじり寄り、下から一気に話しかける。
謝罪と仲良くしたい事を伝えて自分が無害な存在であることをアピールする。仲良くしたいのはアピールでもなく本当だけど。
真顔で私を見下ろすクロエさんからは何を考えているか読み取れないが、瞬きもせず私を見つめている。

「天使か?」
「はい?」

なんで急に天使が出てきた?

「え、待って。私がマルコ隊長かエース隊長の事を好きだと思って誤解を解きに来たってこと?一人会話に入ってなかったから?あのナマエ様が?ライブのチケットは即完売、インタビュー掲載雑誌は完売のち重版がかかり、腕時計のモデルをすればその時計はオークションで高値で取引されるような雲の上の人であるナマエ様が?まさか私なんかのためにわざわざ解かなくてもどうってことないしょうもない誤解をときにわざわざ話しかけてくれた?黙ってると怒ってるの?って聞かれる顔面持ちの私にビビらず話しかけてくれただけでも昇天ものなにその上仲良くしようって…やはりナマエ様は天使だった?ていうか上目遣いかわいいな?このナマエ様みて何も思わないマルコ隊長とエース隊長は男として終わっているな。いや、もしかしたら私のように崇拝しすぎてむしろ手を出せない存在になっているのでは?それなら許す」

瞬きなし、息継ぎなし、無表情のまままくしたてられた内容が頭に入ってこない。

今、様付けで呼ばれた?

「クロエ、ナマエが驚いてるでしょ。独りごと言ってないでちゃんと返事してあげなさい?」
「いや、待って。頭の処理が追い付かない。もしかしたら私は幻覚を見ているのかもしれない。ナマエ様に話しかけられるなんてありえない。こんな都合の良い事あるわけない」
「しばらく同じ船に乗るって説明したでしょ?この部屋で寝泊まりすることも。その時は分かったって言ってたじゃない!」
「その内容も私の夢だと思ってました。昨日の宴でのライブも。いい夢を最近続けて見れて嬉しいです」
「だから現実なの!いい加減にして、クロエ!」

オリビアさんとクロエさんの会話をどんな顔して聞けばよいのか分からず、クロエさんの足元で正座したままだ。
どうでもいいけどクロエさんの足にはムダ毛が一本もないな。

「あの、クロエさんはもしかして私のファンってことですか…?」
「はい!すいません!」
「いや…謝る事なんて何もないですよ!?むしろ嬉しいですから!」
「はあ〜…好き」
「えっ…」
「私にさん付けなんてしないでください。呼び捨てで構いません。」
「ああ…はい…」

少々、いやだいぶ様子のおかしいクロエさんに戸惑いながらも、さっきまでの態度は別に嫌われていたからではないと分かり一安心した。

「ナマエ、クロエはあなたの大ファンでさっきまでは照れてただけなの。同じ歳だし仲良くしてあげてね?ちょっと…だいぶ様子がおかしい時はあるんだけど。あなたのレコードだけじゃなくて雑誌の切り抜きとか写真まで全部集めるくらい好きなの」
「ファンでいてくれた事は本当にありがたいです。こちらこそ仲良くしてもらいたいです!」

だいぶ様子がおかしいとか、私の写真を集めてる事をサラッと暴露されたクロエさんは大丈夫だろうか。
オープンな趣味なら良いんだけど。
あと私も様子がおかしいと思ってごめんなさい。
再びクロエさんに向き直ってにっこりと笑い、握手のつもりで彼女の手を握る。

「えっと、クロエさ…クロエちゃん。改めてこの船に乗っている間よろしくお願いしますね」
「………」
「クロエちゃん?」
「ちゃん付けで呼ばれた…今なら死んでもいい」

そう言って気絶した彼女の事はもうどうしてよいか分からなかった。
とりあえずナースの皆さんと仲良くできるか不安だったけれど上手くやっていけそうでよかった。