15

敵意とまではいかないが含んだ物言いにマルコさんの方が声を上げる。

「イゾウ、お前さっきから聞いてればなんだってんだよい?」
「お前こそ、エースの恩人てだけで知らない人間をほいほい船に乗せるなんてらしくないんじゃねえかい?」
「ナマエが俺たちをどうこうできるとでも思ってんのかよい?」
「やり方なんざいくらでもあるだろうさ」

段々とヒートアップしていくやり取りを静観する。
私がこの船に乗船したのは偶然が重なり合っての事だと普通に考えればわかることだと思うのだが、イゾウさんがそれを分からないような人だとも思えない。

何か狙いがあっての発言だろうか。
魚人や能力者を怖がらない人ってそんなに希少なのかな。

どちらにせよ私が口を挟むとさらにややこしくなりそうなので、ひたすら黙って二人のやり取りを見つめる。
周りを見てもどちらの味方をすべきか決めあぐねている人、冷やかす人、無表情で見つめる人…止めようとする人がいないのはどういうことだ。
せっかくの宴の席だし、これ以上は場所を変えてもらおうかと、口を開こうとした時、後ろから声がかかった。

「おいおい、せっかくの宴なのにどうしたんだよ?」
「エースくん…」

私の方を軽く叩き、イゾウさんと対峙する。
話を聞いていたようで、改めてこの状況を説明する必要はなさそうだ。

「このお嬢ちゃんがこの船に乗ったのは本当に偶然なのか話してたのさ」
「マルコが連れてきただろ?」
「得体のしれない奴をホイホイ乗せるなんて珍しいこともあったもんさ」
「ナマエとは喧嘩してたから俺が連れてきてくれるよう頼んだんだよ」
「エースの能力を見てこの子は怖がったかい?」
「むしろ喜んでたな」
「マルコにもナミュールにもビビらなかった。このくらいの年頃の娘じゃ珍しいだろう?」
「そういうやつもいるだろう」

論破とまでは言わないが、淡々とイゾウさんの疑問に答えていくエースくん。
正直に答えているだけだが、客観的にみて矛盾している所もないはず。
しかし隊長の一人として皆を守ろうとする警戒心から人を疑う事も必要なのだろう。
納得できないならしょうがない。

「あの…」

マルコさんかエースくんに任せようかと思ったけれど、疑うことが必要ならそれは理解するしかない。

「もし私がこの船に乗っている間に皆さんに危害を加えようとしたり、怪しい行動をしたら海に捨ててくださって構いませんよ」

このくらい言わないとこの場は収まらないんじゃないかな。

「おいおいおい、ちょっと待てナマエ。そこまで言う必要はないよい。今のやり取りでだって不審なとこはなかっただろう?」
「まあ…でも彼が納得できないのであれば、こうするのが良いんじゃないですかね」

海に捨ててと言いつつも、実際捨てられた所で私は毛ほども困らないのでこの言葉はただのアピールでしかないわけで。
マルコさんは納得いかないように何かを言いかけるも、口をつぐむ。

「海に捨ててくれて構わねぇとは…大きくでたねェ…」

ゆるりと笑いながら私を見るイゾウさんから先ほどのような敵意はもう感じない。
しかし信じ切った様子でもないので、様子見として落ち着いてくれたのだろうか。

「イゾウ、大丈夫だって。ナマエは俺たちにとって敵になるような奴じゃねえし、もしイゾウがナマエを信じられないなら、俺がナマエの傍にずっといるさ」
「ふふ…そこまで言うなら俺はお嬢ちゃんじゃなくてエースを信じることにするさ」

イゾウさんは私の方を向き、「エースを救けた事に対しては本当に感謝してる。でもそれとお嬢ちゃんを信じることは別なんだ、悪いねェ」と話す。

「いえ、これだけ大きな海賊団だと色々あると思います。警戒をすべきだということもわかります。イゾウさんはイゾウさんの役目を果たそうとしているだけだとちゃんとわかっています。」

なので、大丈夫です。と笑えばイゾウさんもやっとふわりと笑ってくれた。
それは今までの色気全開のニヤリとした笑いではなくて、この人は仲間のためなら自分が悪く思われようとも構わないんだと分かる綺麗な笑みだった。

ギスギスとした空気も消え、喧騒が戻る。
皆それぞれお酒を飲んだり話に花を咲かせたり、それぞれの楽しみに没頭する。
マルコさんとエースくんに挟まれて料理を食べているとハルタさんが近寄って来た。

「ナマエちゃんはお酒飲まないの?」

宴が始まってからずっとオレンジジュースを飲んでいる私を気にしたようでお酒をすすめてくるハルタさん。
未成年なので、と返事をしようとするとマルコさんが先にハルタさんに返事をした。

「ナマエはまだ子供だから酒は早いよい」
「子供って…ナマエちゃんお酒も飲めないほど子供じゃないでしょ?」
「あーそうですねぇ…」

この世界だと割と早い年齢から飲酒はできるようだし、私もお酒を飲んだところで問題はないのだろうけれど。
お酒は二十歳になってから。という常識で育ってきたので気分的にお酒を飲む気にはならない。

「何言ってんだよい。ナマエは13、14くらいだろ?」
「…え?」
「えー?13、14はさすがにないでしょ。16歳くらいじゃない?ね、ナマエちゃん?」
「いやいやいや…え?マルコさんもハルタさんも本気ですか?私19歳ですよ」

2人して嘘つけ!みたいな顔で見ないでください。
私そんなに幼く見えるの?
おじさんになると若い子の年齢分からなくなるとか、そのレベルで片づけて良い話なんだろうか。
ハルタさんの16歳はともかく、マルコさんの13、14歳はないでしょ。
近くで山盛りの料理にがっつくエースくんを呼ぶ。

「エースくん!」
「なんふぁ?」
「エースくんは私の年齢分かる?!」

私が掴みかかるように聞けば、エースくんはその口いっぱいに含んだ食べ物を飲み込み、「俺と同じ19だろ?」とさも当然のように答える。

「それはないだろ!!」

エースくんの答えを聞き、満足げにマルコさんとハルタさんを見れば二人して声を揃えて否定してきた。

「エース…精神年齢が一緒でも女の子の方が成熟が早いんだ。同じ歳ってことはないと思うよ」
「どうみても19歳って見た目じゃないだろうよい」
「あの。私こう見えても19歳ですから!エースくんと同い年です!」

力強く主張すれば、やれやれと頭を振ったマルコさんに肩を優しく叩かれる。

「いいか?ナマエ。19歳と言えばな、ナースのクロエと同い年ってことだよい。クロエはわかるか?イゾウの横に座ってるあの黒髪のナースだよい」

マルコさんの言う通りイゾウさんの方を見れば、イゾウさんと楽し気に話している美女たちのうち、黒い髪がクロエさんなのだろう。
つややかな黒髪はしっとりと緩やかなウェーブを描き、切れ長の目が涼し気な美人だ。華奢な体には不似合いなほどに豊かな胸とすらりと伸びた脚。立てば170�pほどはあるんじゃないだろうか。
ワイングラスを片手にイゾウさんと話す光景がそこだけアダルトな雰囲気である。

「19歳?あの人が?」
「そうだよい。…ナマエ、もう一度聞くがお前は何歳だ?」
「…えっと、15歳、かなー」
マルコさんとハルタさんの間を取った年齢を言ってみる。
今まで自分の事を19歳だと思っていたけど実は15歳だったのかもしれない。
4年後には私も彼女のように大人のお姉さんになれるかもしれないな。
というかマルコさんがやたらと私を子供扱いする理由が分かった。
13、14歳だと思ってればそりゃ子供扱いするし、過保護にもなるよね。

なんて現実逃避をしてしばらく、炊事にひと段落ついたのかサッチさんが加わった。

「やっと俺たちも飲めるぜ!どう?ナマエちゃん楽しんでる?」

はい、と渡されたジュースを受け取りサッチさんの席を空ける。
受け取ったジュースはオレンジと何か甘味の後にほんのり苦みが来る、飲んだことのない味だった。
飲みながらもサッチさんに料理をいくつか取り分ける。
ご自分で作られたものがほとんどだし、好き嫌いもないだろう。

「ありがとぉーナマエちゃん!俺もおかえしー」

そう言って次々と注がれるジュースを飲み、どれだけサッチさんと話していただろうか。
急激に眠気が襲ってきた。

「サッチさん…すいません、なんか眠くなってきました…」
「あれ?そう?じゃあもうナマエちゃんは寝るかー。…おーい、マルコ!ナマエちゃんは今日どこで寝んの?」

あらゆる方向から話声が聞こえる中でサッチさんがマルコさんに呼びかける。
いつの間にかマルコさんは少し離れた所にいたようで、会話もはっきりと聞こえない。
エースくんは主役ということもあってかなり飲まされたのかもう床に転がって寝ている。

「…い!エース!…ナマエ…ナースの部屋まで……自分の部屋で寝ろよい!」

「ナマエちゃん、エースが部屋まで連れてってくれるって。自分で歩ける?」
「だいじょうぶです。自分で行きます…」

サッチさんに掴まりながら立ち上がる。
床がグネグネと動いているような気がするが、そんなに波は高ぶっていただろうか。
他の人は普通に歩いたり座ったまま食事を続けているから、慣れたものなんだろう。
私も船の生活に慣れないといけない。
ぼんやりと考えていると、近寄って来たエースくんに腕を掴まれたので一緒に歩き始める。

「あー…ありがとう、エースくん…」
「おー…部屋戻って寝るぞー…」

ああ、眠い。
早くベッドで横になりたい。


***


突然だけど温かい布団って最高だと思う。
特に天気のいい日にするお昼寝とか。
眠りに入る時と、寝起きの意識のはっきりしない時が一番気持ち良いと思う。

「おいエース、まだ寝てんのか?ナマエちゃんがナースの部屋にいないんだけどおおおおお!?なんで二人で寝てんの!?」


まだ起きたくなくてサッチさんの声から逃げるようにとなりの温かい塊にすり寄る。
うとうとしてる時が一番気持ち良いんだ。
それを大声で無理やり起こされるってすごく嫌な気分になるよサッチさん。