番外編3 忘れていたアレ
船の生活にも慣れてきた頃、マルコさんのお使いで初めてエースくんの部屋に行くことになった。
なんでも先日倒した海賊についての報告書が出てないようで、その回収である。
白ひげ海賊団ほどの大きさになると、倒した海賊の規模、回収した金品について、自分たちの被害について等報告書を書いて隊長たちで共有するらしい。
海賊もそんな事するんだなあと思いつつ、これだけ人数が多いと情報共有も書面でやらないとスムーズにいかないのかもしれない。
他にも隊長たちは頻度は決まっていないが、数日に一回は隊長会議をしているらしいし、大きな組織を回すにはこういった事務的な仕事が必要になってくるんだろう。
トントントン。
「エースくん、ナマエです。入ってもいい?」
「おーいいぞー。」
返事を聞いて部屋に入る。
エースくんの部屋は物はそんなに多くなさそうなのに、机の上や床の上に物が置かれているせいで雑然とした印象を受ける。
「エースくん。」
「分かってる。報告書のことだろ?はぁ〜…。」
皆まで言わずとも用件が分かっていたようだ。
しかしため息をつきながら頭をぐしゃぐしゃかき混ぜているところを見ると、報告書はまだ書きあがっていないように見える。
「もう少しかかりそう?」
「ん〜…あとちょっと…。」
唇を尖らせながら再度報告書に向き直るエースくんを見つつ、この辺の物なら触っても大丈夫だろうと床に落ちているごみを捨てたり、ぐしゃぐしゃに丸まったTシャツを畳んだりしてみる。
私がこの船に乗ってからTシャツなんて着ている所なんて見たことないけど、パジャマとして着てるんだろうか。それとも遥か昔に着たTシャツがそのままになっているとか…?
疑問に思いつつちょろちょろと片づけをしていると、机の上のあるものに目が留まった。
理科室にあるような瓶の中に入った髪の毛の束。
「エースくん…これ…。」
うわ…と声が出そうになるのを抑え、恐る恐る聞いてみる。
髪の毛を机の上に飾る趣味とかあるならエースくんのイメージを改めなければいけないな。
なんで髪の毛なんて机に飾ってるんだろう。
「あー、医務室からもらった瓶に入れてみたんだ。」
「え?」
瓶の中身について聞いたつもりが、瓶についてのみ回答があり困惑する。
すると黙って瓶を睨みつける私をみてエースくんも困惑したような顔を見せた。
「ナマエが無人島でくれただろ?これ。」
「え〜…?あーはいはい。」
はいはい。あれね。そんな事もあったね。すっかり忘れていた。
私とエースくんが出会った無人島で、エースくんが無謀にも小舟を作って一人で脱出を試みようとしていた時に、お守りとして持たせていたのをすっかり忘れていた。
「おい…。まさか忘れてたとか…。」
「いやー!忘れてない!大丈夫!瓶に入ってたからびっくりしただけ!」
エースくんからじっとりとした視線を受け慌てて覚えてますアピールをする。
だってとっくに捨てられてると思ってたし。
「でも他に入れ物もなかったしよォ。仕方ないだろ?」
「うーん…小袋みたいなのがあるといいんだけどね。あと机に置いておかないで鞄とかに入れといた方が良い気がする。」
「これ持ってれば航海が安全になるんだろ?置いとくのはどこでもいいんじゃないのか?」
「そうなんだけど、これを持たせたときはあくまで無人島からこの船に戻るまでを想定してたんだよね。だからこの髪の毛の量だとエースくん1人分のお守りだと思ってもらった方が良いかな。」
「そういうもんなのか。」
結局はこの髪の毛と海との距離だから、この船くらい大きいと瓶に入る程度の髪の毛じゃあ海に感知してもらえない気がするんだよね。
まあそこまで説明する気はないけれど。
瓶を持ってうーんと悩むエースくんに私も入れ物を探してみると伝えると「ありがとな!」と思ったより喜んでくれた。
その後は書きあがった報告書をもらってマルコさんに届けた。
***
エースくんに髪の毛の入れ物を探してみると言ったものの、どういったものがいいのか…。
ナースさんたちにも相談してみたところ、期間限定リップバームが入っていた小花柄の可愛い袋や、香水の入っていた小箱など提案してくれたけれど、どれもエースくんに渡すには可愛すぎるものだったため辞退させてもらった。
「うーん…。」
「じゃあ自分で作ってみるのはどうかしら?」
「自分で?」
「倉庫に補修用の端切れがあるから、見てみたら?」
「そうします!ありがとう!」
悩んでいたらナースさんの一人に手作りすることを提案してもらったので、その案を採用することにした。
倉庫へ行き、良さそうな布を見繕う。
裁縫は特に得意というほどではないが、小さな袋を縫うくらいなら問題ない。
サクサクと作ってエースくんのところへ持っていく。
「エースくん、髪の毛入れる袋持ってきたよー。」
「お!ちょうどいい奴見つかったか?」
「ううん。なかったから作った。」
今日もエースくんは報告書とにらめっこしているようだ。
どれだけ書いてなかったんだろう。
「え!わざわざ作ってくれたのか!?」
「わざわざってほどでもないよ。ただの小さな袋だから。」
作ったと聞いて驚くエースくんをあしらい、机の上の瓶から私の髪の毛を抜き出し、小袋に詰めなおす。
「よし。これリュックに入れといていい?」
「お〜頼む。」
エースくんがいつも持ち歩いてるリュックの底に小袋を押し込む。
これでこのリュックを持ち歩いてる間はひどい嵐などに巻き込まれることはないだろう。
いつか、エースくんが1人で海に出た時に守ってくれますように。