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「お兄さん!お兄さん!待ってください!そこまでお見送りします!」
「お兄さんて俺の事か?…俺はデイビッド・タイラーだ。そういえば名乗ってなかったな」

パタパタとお兄さんに駆け寄ると痛みで歪む顔を誤魔化すように笑いながら名乗ってくれた。
まっすぐ歩いていたが、船を降りるには道が違ったので誘導しながら雑談を続ける。

「デイビッドさんていうんですね。よろしくお願いします」
「デイブでいい。…医者のお兄さんを待たなくて良かったのか?黙って出てきたんじゃないか?」
「マルコさんには書置きを残して来たので大丈夫ですよ!船を降りたところまでついて行くだけですし」
「じゃあ、頼む。確かにこの船デカすぎて迷子になるところだったしな」

デイブさんは初めて会った時よりも穏やかな話し方をしてくれている気がする。
私のファンになってくれたようだし、好感度が上がれば態度も変わるのだろう。

外に出るまでの間、デイブさんはとっつきにくい印象と裏腹に意外にも色々と話をしてくれた。
おもに私の歌への感想がほとんどであったが。
広場で出会ってからそんなに時間が経っていないにも関わらず、今まで出した曲のほとんどを聞いてくれたようだった。
私が「ナマエ」本人だと気づけたのは耳が良いせいだと言っていたけれど、彼は生まれつき耳が良く、遠く離れた音や、ひそひそ話も聞き取ることが出来るのだそう。
だからレコードの私の声と広場で歌う私の声が同じだとわかったらしい。
私の曲の話や彼の耳について話していると船の外に着いた。

「送ってくれてありがとな。…あと、昨日俺を見つけてくれたことも。ここからは流石に迷わないし、1人で帰れる」
「いえ、お礼を言われるほどのことでは…」
「ああ、でももう少しだけアンタと話したいんだが、付き合ってもらえるか?」
「え?ええ…もう少しだけなら大丈夫ですよ。私もこれからこの島に住むのでもっといろんな事知りたいですし」
簡単な書置きしか残していないことが気がかりではあるが、そんなに遠くまで行かないで帰ってくれば大丈夫だろうと判断し、もう少しだけついて行くことにした。

島に降りて街に向かって歩いていく。
まだ早朝のため、ちらほらあるお店も閉まっておりほとんど人とすれ違うこともない。
老夫婦が散歩していたり、数人がかりで馬が引くような屋根付きの荷台を引く体格のいい男の人たちを見かけたくらいだ。

「あの…昨日はどうして怖い人たちに絡まれてたんですか?街にはああいう人たちが多いんですか?」
「ああ、あいつらは街の人間じゃなくて…」

何か言いかけた後、デイブさんはこちらに視線を落とし、一度周りを見渡してから話を始めてくれた。

「あいつらは海賊だよ」
「えっ、海賊なんですか!?なんで海賊がデイブさんに絡んでたんですか?」
「それは…うーん、まあ…ちょっと前まであいつらと付き合いがあったというか…」
「デイブさんも海賊なんですか?」
「それ、簡単に聞けるってなかなか肝すわってるな、アンタ。」

私がデイブさんに海賊なのかと聞くとぎょっとした後、苦笑しながら「違うよ」と返してくれた。また俺が海賊だったどうするつもりだったんだとも言われた。
逆に私は白ひげの仲間なのか聞かれたけれど、私は今は白ひげさんの船にお世話になっているが、仲間ではないと答えた。

「俺は耳が良いって言っただろ?そうすると、いろんな事が聞こえてくるんだ。それこそ誰かの秘密だったりな。…それで聞いた情報を売ったりしてたんだよ」

こう言っちゃなんだが、見た目で判断するとフリーターでもしてそうな感じだったけれど、思ったより悪いことをしていたようだ。
リアクションに困って「おお…」としか言えなかった。

「それでどうしてあんなことに?」
「この島は海軍基地はあるが、実は定期的に中の奴等がいなくなる時がある」
「それは見回りとかでってことですか?」
「いや、たぶん何か悪いことをしてる。海軍本部とかにばれたらヤバい事。」
「えっ…」
「それで海軍が次に島をあけるのはいつだとか、そういった情報をあいつらに流してたわけだが…」

デイブさんは歩みを止めて私をじっと見つめてきた。

「さっき言った話したい事ってのは、この島に住むのはやめた方が良いってのを言いたかった」
「え…」
「あいつらに情報を流した俺が言えたことじゃないが、たぶん海軍基地の襲撃を考えてる。もしあいつらを止められずに島に攻め込まれれば、住人たちにだって少なからず被害が出るはずだ。」
「え!」
「昨日揉めてたのは俺がもうあいつ等に情報を流すのをやめるって事と、襲撃を考えてるならやめてくれって話したからだ」
「そうだったんですね…」

全く想像もしていなかった事を話され理解が追い付いてこない。
デイブさんの言うことが本当なら、彼はかなり危険なことに首を突っ込んでいるし、このままだと命すら危ないのでは。
この島に住むつもりで色々準備を進めてきたが、移住どころか早くこの島から出た方が良いかもしれない。
ここで頭をよぎったのは、白ひげの皆ならその辺の海賊なら返り討ちにしてくれるんじゃないかということ。
しかし今初めて話を聞いたばかりだし、白ひげの皆とデイブさんが情報を流していた海賊なんてなんの関わりもない。
そんな相手に白ひげの皆はわざわざ動いてくれるんだろうか。
ここまで考えたところで、白ひげの皆が助けてくれるのが当然のように思っている自分に気が付いた。
あくまで私は自分の住む島が見つかるまでの居候の身なのだから、こんな考えは烏滸がましい。

「そういう訳だからこの島に移住するのはやめた方が良いと思う。…まあ昨日あんな風に絡まれてたらもう嫌になったかもしれないけどな。」
「…広場での話ですか。」
「それ以外にあるか?まああの女に正体がばれなくて良かったじゃないか。本人だってばれたら昨日よりもっとめんどくさいことになる。」
「…そうですね。」

昨日の昼間に絡まれた女の人はなかなに苛烈な人だった。
リクエストされた曲を歌っていたら「歌姫ナマエ」のモノマネをしているシンガーだと思ってそれはもう暴言を吐かれたのだ。
本人は歌姫ナマエのファンなんだろうしそれは嬉しいのだけど、暴言を吐かれた身としては辛さしかない。

「…でも白ひげさんの船には居候しているだけなので、できるだけ早く住める島を見つけたいんです。」
「海賊船に乗り続けるのと、海賊に襲われる島に住むならどっちがいいんだろうな?」
「………」
「身の安全が確保されてるならもう少し白ひげの船に乗ってた方がいいんじゃないか。」
「私は…」

デイブさんの言う通り、襲撃されると分かっている島に降りるより、白ひげさんの船にお世話になっていた方が安全である。
せっかく良さそうな島に着いたと思ったけれど、諦めるしかないのだろうか。

「さあ、そろそろ街も近くなってきた。大丈夫だとは思うが、俺と一緒にいるところを見られてお前も海賊たちに絡まれることがあったらいけないからそろそろ船に戻った方がいい。悪いな、時間を取らせて」

いいえ、と口を開きかけたところでデイブさんが勢いよく倒れる。

「デイブさん!?」

倒れてきたデイブさんをとっさに受け止めようとして、抱き留めた勢いを殺せずにそのまま尻もちをついた。
衝撃で閉じた目を開けると、至近距離に誰かの足があることに気づいた。
顔をあげると、先ほど荷車を引いていた男たちの内の1人が立っていた。

「残念。べらべらと俺たちとのつながりをしゃべった上に白ひげの仲間の女をみすみす逃すわけないだろ」

「……!」

悲鳴を上げようと口を開くも、頭に受けた衝撃で声を出すことなく意識を失った。


***


頭に広がる鈍痛で目が覚める。
ガタガタという音とともに体が揺さぶられる。
視界は暗く、何も見えないが、何かの荷台に乗せられているようだ。
そうだ、船から降りて見かけた荷台を引く男たちが実はデイブさんと繋がりのあった海賊で、私たちは彼らに殴られて気絶したのだった。
ということは彼らが引いていた荷台にでも乗せられているのかもしれない。
ぼうっとする頭では気絶する前に起きたことを思い出すので精一杯。
暴力や誘拐への恐怖はあるが、体のだるさが勝り、パニックになることはなかった。
脚は自由に動くようだが、両手は体の後ろで固定されており逃げ出すことは無理そうだった。

どれだけ時間がたったか分からない頃、振動が止み、ガサガサという音とともに人の話し声が聞こえてきた。

「おい!起きろ!」

一際大きく聞こえた声とともに、乱暴に腕を引っ張られ無理やり立たされる。
未だに視界は暗く、どうやら袋か何かを頭に被せられているようだった。
そのまま引きずられるようにして移動していくと、ある場所で立ったまま待機するようにに指示された。
目が見えないためこれから何が起こるか分からない恐怖と、平衡感覚が狂い倒れそうになるのをなんとかして耐えていると、隣に人がくる気配がした。
デイブさんだろうかと思い、話しかけようか迷っていると、後ろから声をかけられた。

「今から目隠しを外すが、動いたら落ちるからな。」

そう言って袋か覆面か分からないが、顔を覆っていた布を引っ張られ、視界が急に明るくなる。
明るさに目が慣れ、自分がいる場所を確認しようと前を見たところ、想像していたような地面はなく、自分が切り立つ崖のすぐ際に立たされていることに気づいた。

「わっ…!」

思わず一歩後ろに下がったところで背後から体をおさえられる。
すぐ横でも驚く声がした。
デイブさんも私と全く同じ反応をして、海賊の仲間だろう男に体をおさえられている。

「わざわざこんなところに運んでくるのは手間だったが、街のすぐそばで殺人事件を起こして騒ぎになったら計画が丸つぶれだからな。見えるか?この辺はサメがうようよいるんだ。ここにお前たちを突き落とせば、あっという間にサメが食べてくれて死体の処理の手間が省けるって訳だ。」

そう言って話始めたのは私とデイブさんを殴った男だった。
彼が海賊のボスなのだろうか。

「さて…いくつか聞きたいことがある。なあデイブ、デイブ。まさか情報を売って来たお前に裏切られるとは思わなかったよ。俺たちの計画の事をどこまで、誰に話したのか教えてくれよ。サメの餌になりたくないだろう?」

先ほどまでの話し方とは打って変わり、男は猫なで声で話し始めた。
耳にまとわりつくようなねっとりとした話し方だ。

「…教えたら見逃してくれるのか。」
「お前が正直に全部話してくれたら考えてあげよう。」
「…島の襲撃の事を話したのは彼女が初めてだし、詳しい内容は話してない。」

デイブさんは震える声で話始めた。
正直に話したら見逃してくれると言っているけど、本当だろうか。
映画などでは悪役はそう言って希望を持たせておいてやっぱり駄目ですというものだ。
しかし現状は彼らの言う通りにしなければ即海に落とされるので、正直に話す以外に取れる行動はない。
白ひげのみんなと違って戦えるわけでもないので。

「海軍には連絡を取らなかったのか?」
「まずはアンタたちを説得して、襲撃をやめるならそのまま誰にも言わないでおこうと思っていたからな。彼女は昨日助けてもらったから流れで話をしただけだ」
「じゃあ、海軍が今島にいないのと、俺たちがそれを知っていて何かしようとしてるってのは、お前たち二人しか知らないんだな?」
「そうだ。なあ、もういいだろう。アンタたちの事は黙っておく。解放してくれないか。彼女だけでもいい。」

デイブさんは男に向かって必死に訴えかけている。
私だけでも逃がしてくれるように交渉してくれる姿に胸を打たれる。
必死に訴えるデイブさんを見て、男は少し考えたそぶりをした後、にこりと笑い、デイブさんを海へ突き落した。

「な…!」

あまりにも自然な動作でデイブさんを突き落とした男に声も上げられず、私はただ落ちていくデイブさんを見ているしかなかった。