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「デイブさん!!」

海へ落下していったデイブさんを見て叫ぶ私に、海賊たちが馬鹿にしたように笑いながら話しかけてくる。

「お前がデイブと白ひげの船から降りてくるところを見てたぜ。お前は白ひげたちへの人質にする。それともあの男と一緒にサメの餌になりたかったか?」
「残念ながら私は白ひげの仲間ではないので人質にはなりえません。そしてそんな風に利用されるならサメの餌になる方がマシです。」

そう言って体を抑えていた男を振り払い海へ飛び込んだ。
先に海に落ちたデイブさんの姿を探すと水面に近いとは言い難い所でもがいているのを見つけた。
体の後ろで手を縛られているせいで上手く泳げないでいるらしい。
私はサメなど海の生き物たちと意思疎通ができるので襲われることはないが、デイブさん一人だとそうはいかない。
もがくデイブさんに気づいたサメたちが寄ってきているので、すぐにデイブさんとサメの間に体を滑り込ませると、サメは私のすぐ横を通り過ぎていった。
近くにいたサメにデイブさんを出来るだけ岸に高いところまで運ぶよう頼み、他のサメたちには手首の拘束を解いてもらえないか頼んだ。
水中で同じ場所に止まりロープを食いちぎることは難しいため、入れ替わり立ち替わり少しずつ牙でロープを削っていってくれた。
手首のロープが取れたところで私もデイブさんの後を追う。
だいぶ浅瀬まで運んでくれたサメにお礼を言い、デイブさんを運ぶのを引き継ぐ。
サメはデイブさんが水中で息が出来ない事を理解していなかったようで、ただ水中を移動させてきたようだ。
慌てて顔を水面に出させ、呼吸させる。
急に酸素を吸った事で激しく咽せるデイブさんに声をかける。
溺れて意識を失う前で良かった、流石に海の真ん中で人工呼吸など出来ない。

「デイブさん!落ち着いてゆっくり呼吸してください!体から力を抜いて、仰向けのままでいてください!」

混乱しているデイブさんは中々言う事を聞いてくれなかったが、何度も声掛けをするうちにやっと冷静になって私に体を預けてくれた。

「下から体を支えてますから、デイブさんは上を見て体から力を抜いてください。」
「ああ…大丈夫だ、できる…。」

デイブさんの背中に片手を当て、もう片方の手で平泳のようにして前に進む。

「私は運良くロープが外れて泳げているので、このまま岸に運びますね。大丈夫ですよ、泳ぎは得意なので。」
「ああ…ありがとう。サメは周りにいないか?さっき海に落ちた時は近くにいた気がするんだ。」
「…さっきまではいましたよ。でもどこかに行っちゃいました。人を食べる種類のサメじゃなかったみたいですね。」
「そうか、よかった…。」

まさか食べられそうになっていたことなど言えるわけがないので適当にごまかす。
そうこうしているうちに陸に上がれそうな場所を見つけたので、両手の使えないデイブさんを支えながら岸に登った。

「ロープほどきますね。」
「ああ、頼む。アンタだけでもロープが外れてて助かった。でなきゃ2人とも溺れてたもんな。」
「奇跡ってあるもんですね。」

さて、これからどうしたものか。

「これからどうしましょう…。」
「信じてくれるかはわからないが、海軍の駐屯地へ行って海賊の事を話そうと思う。」
「やっぱりそうした方が良いですよね。でも街まではどうやって帰りましょうか。」
「騒がしい方へ向かえばなんとかなるだろ。」

とにかく陸に上がる事を優先したので、自分たちがどこに居るのか分からなかったけれど、デイブさんはだいたい街の方向が分かるらしい。
どこまで広範囲の音を拾えるのだろうか。
私には鳥の声や木の葉が風に揺れる音しか聞こえないのに。


***


デイブさんが進む方へただ着いて行くと、ポツポツと民家が見え始めた。
このまま進んでいけば街に着くだろう。

「凄いですね!デイブさん!ほんとに街に着きそうですよ!」
「ああ、偶にはこの耳も役に立って良かったよ。」

びしょ濡れの2人が連れ立って歩くのは人目を引くが、あまり気にしてもいられない。
遠くに見えて来た駐屯地を目指して出来るだけ急いで進んでいく。


***


駐屯地に着き、入り口にいる若い海兵に声をかける。

「あの、すいません。」
「どうしました?」
「えっと…。」

声をかけたは良いものの、なんと説明して良いか分からず口籠る。
話しかけたのに黙っている私を海兵さんは不思議そうに見ている。
うまく説明できない私を見かねてデイブさんが代わりに話し始めてくれた。

「この島に海賊が攻めてくると言う話を聞いたんだ。」
「この島に?!…信じられませんね。」
「今この駐屯地には海兵が少ないだろう?それを狙ってるんだ。」
「なぜその事を知っている?!」
「その海賊たちが話してたからだ。ちなみに俺たちがびしょ濡れなのはこの話を聞いてることがバレて海に突き落とされたせい。…信じられないかも知れないが、駐屯地に人がいない事を知ってるので証拠にならないか?」
「いや…でも…。」

突然こんな事を言われても信じられないのは当然だろう。
狼狽える海兵さんを説得しようとしたとき、デイブさんが急に街の方を向いた。

「デイブさん?」
「…街が騒がしい。」

私には特別変わった音は聞こえないけれど、デイブさんが言うなら街で何かが起こっているのだろう。

「海賊たちがもう来たのかもしれない。悲鳴が聞こえる。」
「え!?こんな昼間に?!」

海に突き落とされてから街に着くまでにそれなりに時間が経っているため、すでに太陽は高いところまで登って来ている。
いくら駐屯地が手薄とは言え、奇襲をかけるなら夜中だと思っていた。
しかし今度は私にも遠くで発砲音が聞こえた。

「海兵さん!今の音聞こえましたよね?!早く今出てっている海兵さんを呼び戻してください!」
「そんな…!」

何を迷う事があるのか、海兵さんはこの場から動こうとしない。

「何してるんですか!?早くなんとかしないと!」
「今出て行っている海兵達は連絡してもすぐには戻って来れない…!しかし近くの基地に連絡したらこの基地に人がいない事がバレてしまうだろう!」

あんまりな理由に思わず口が開いてしまう。
そんな下らない理由でぼさっと突っ立っているのかこの人は。

「じゃあ今ここにいる人達だけでなんとか出来ますか?その人達に伝えるなり、何かしないと…。」
「ああ…そうだな…。」

そうだな、と言う割に海兵さんは青い顔のまま俯いている。
こんなぐずぐずしていて大丈夫だろうか?と思った矢先、また複数回の発砲音が聞こえた。

「海兵さん!ぐずぐずしてる暇なさそうですよ!」
「もしかしてコイツ新兵か?緊急事態への反応悪すぎるな。」
「とにかくもう基地の中に入りますよ!館内放送で他の海兵さんに呼びかけるなり、電伝虫で助けを呼ぶなりしなきゃ!」

デイブさんの言う通り、この若い海兵さんは新兵なのかもしれない。
それにしたってこういう非常事態にはできる限りの事をしてもらわないと。
いつまでもこんなところでぐずぐずしているわけにはいかないと思い、海兵さんの手を引いて基地の中に入っていく。

「どっちに行けばいいですか?」

海兵さんに聞きながら館内放送をかけるべく基地の中を歩いていると、デイブさんが何かに気がついたように話し始めた。

「なあ、いくらなんでも人が少なすぎないか?何人かの外から帰ってくる足音が聞こえるが、館内にはほとんど人がいないみたいだ。」
「じゃあもうすでに誰かが放送をかけた後で、街の騒ぎを収めてきたって事でしょうか。」
「少なくともこの海兵に話しかけた後じゃないな。もっと前だ。館内放送くらいの音量だったらもう少し遠くに居ても聞こえるからな。」
「なんか色々タイミングがおかしいですね…。」

そこで気がつく。
ただでさえ人数が少ない基地からさらに海兵を減らすには?街で騒ぎを起こしてそちらに集中させれば良いんじゃないかって。

「デイブさん・・・」

デイブさんを見上げれば彼も強ばった顔でこちらを見ていた。彼も気づいたらしい。

「海兵さん、まずいです。街の騒ぎは囮かもしれないです。今この基地に海兵さんがほとんどいないなら、今1番危ないのはココ…。」

そう言うやいなや大きな爆発音と共に建物が揺れた。

「うっ・・・!」と呻き声の方を見ればデイブさんが耳を押さえて蹲っている。

「デイブさん!」
「大丈夫・・・いきなり大きな音がしたから耳が対応できなかった。もう大丈夫だ。」

デイブさんを助け起こして周囲を見回す。
自分たちが居るところからでは被害状況が把握できないけれど、先ほどの揺れから判断すると建物の一部くらいは壊れていそうだ。

「どうしよう・・・どうすればいいんだ・・・?こんな、基地にほとんど人がいない状態での奇襲なんて演習で習ってないのに…!」
「とりあえず出てってる奴らを呼び戻す。近くの基地に助けを求める。後は出来るだけ残ってる奴等で基地を取られないように抵抗する。これしかないだろ。」 

デイブさんの言葉に無言でコクコクと頷く海兵さんを連れ、電伝虫のある部屋を目指す。
「だいたい子電伝虫を携帯してないってどう言うことだよ」と呟くデイブさんに心の中で激しく同意する。
海軍の事など全く詳しくないが、組織の役割として報連相は大事だと思うし、それが出来ない体制になっている事が問題である。
そもそも大勢の海兵が仕事でもないのに基地を不在にするのは論外である。

思ったよりも海賊たちが基地内部に入ってくるスピードが早らしく、海賊たちに出会わないようにデイブさんが足音がする道を避けてくれているが、そのせいでなかなか目的地に着かない。
しかしそれも何回か足音を避けて曲がった後に限界が来た。

「まずいな。前後から足音が聞こえる。」
「どちらか片方が海兵さんてことはないですか?」
「どうせ海兵も海賊も銃を持っているだろうし、足音や装備の音だけだとここじゃ判断がつかない。」

こちらの戦力は新兵と思われる若い海兵1人と、戦ったことなどない一般人2名。
もし聞こえている足音が海賊なら勝ち目はない。

「一か八かになるが、前から聞こえてくる足音は2人分。後ろからは4人分の足音が聞こえる。このまま前に進んで…海賊だったら俺と海兵が戦う。ナマエはそのまま目的の部屋まで行って電伝虫で助けを呼んでくれ。」
「噓ですよね!?そんなの危険すぎますよ!それに助けを求めるなら海兵さんがいないと…。」
「あまり話してる時間もない。幸いこの先は曲がり角になっているから奇襲がかけられる。海兵サン、アンタもそれでいいな?」

空気の様に存在感が薄くなっていた海兵さんにデイブさんが同意を求めると、やっと海兵さんが反応した。

「ああ、相手が二人ならなんとかなるかもしれない。対人訓練の成績は悪くなかった。」

やけにキリっとした顔で言われたが、対人訓練の成績が良くても実際に敵と戦うときはよーい始め!で始まるわけではないのだから心配である。
これ以上考えたところでとれる対応はないし、曲がり角に着くまでにサッと部屋の位置と電伝虫の番号を確認する。
角に着いたところで息を潜めて海賊たちが来るのを待つ。
すぐに地面を擦るような足音と、ガチャガチャと金属がぶつかり合う音が近づいてくる。
もう角から相手の顔が見えるのでは、という距離まで来た時、海兵さんが飛び出した。

「うおっ!?なんっ、ぐあ!」

海兵さんは飛び出した一瞬で相手が海賊だと確認した後、銃を振りぬき相手の顎を砕いた。
発砲しなかったのは、時間がかかることと発砲音を聞いて後ろから来ている人が駆け寄って来てしまうかもしれないからだ。
残った1人を海兵さんとデイブさんで同時に抑え込みにかかる。
私はその隙に全速力で横を抜ける。
そのまま電伝虫のある部屋へ走っていき、扉を開けると先客がいた。

「お前…生きていたのか!?」

部屋にいたのは私とデイブさんを誘拐し、海へ突き落した男だった。