不安
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「ねえ、頭目。少し聞きたいんだけど」
「何です?」
「片目での視界共有って、出来なきゃ駄目?」
視界の共有、及び切り替えは、ある程度スムーズに出来るようになった。動物の目線の高さで物を捜す事にも慣れた。しかし、両目だったらの話だ。何故か頭目は、片目で視界を共有させようとする。片目での共有は、私には高度過ぎる気がしている。
「両目でも問題ないと思う」
下手な事をして、迷惑を掛けたくない。折角上手に使えるようになったのに、失敗したら台無しになる。
頭目は少し考える素振りをして、口を開いた。
「そうですね。片目だけでは距離感が変わりますし、それだけ視界も狭まってしまいますね」
「じゃあ、」
「しかし、出来ないよりも出来ていた方が便利な事ではあります」
簡単な事です、と続ける。
「二つあるのですから、違う動きが出来れば効率が良いでしょう?」
「極論!」
「冗談ですよ。半分ですけど」
ていうことは、残り半分は本気か。この人は、冗談を言う時も口調が殆ど変化しないから、読めない。
「情報収集をするのであれば、片目のみで共有出来た方が効率がいいのは事実ですから」
「両目の方がよく見えるよ?」
「そうでしょうね。ですが、どうしてもズレが生じてしまいます」
とんとん、と自分の目の際を指で叩いて示す。
「情報収集をする際、その量が膨大であるほど、記憶のみでは漏れが多くなります。それを補う為に、記録として書き記す必要がある。両目で切り替えていた場合、書き記す間は対象から目を離す事になります」
「あ」
思わず声を出すと、分かりましたか?と問われる。
聴覚や嗅覚が共有出来る訳ではない。聞こえない分、よく見る必要がある。目を離すという事は、つまり、その間のやりとりは何も分からなくなってしまう。手帳やメモは、貴重な情報源だ。けれど。
「……どうしても、出来なきゃ駄目?」
じわり、と胸の奥底に、重いものが沈んで広がる。それが必要な事は理解している。しかし躊躇してしまう。視覚の混線は、未だ記憶に新しい。異能力の視界か、自分の視界か、分からなくなる恐怖。また、ああなってしまうかもしれないと思うと──。
「その為の練習ですよ」
「え……」
「そうならない為の練習でしょう?」
分かっている、とでも言いたそうな顔。ほんの一瞬、呼吸を忘れて見つめてしまう。
「何も分からないから恐怖を感じるのです。扱い方さえ覚えてしまえば恐れる必要などありません」
「……出来る、かな」
「おや?今まで出来ないままだった事がありましたか?」
首を横に振る。満足そうな笑み。何だかんだ、上手に使えるようになっている。
「やってみる」
「万が一の場合は、ぼくが居ます」
そっか。それなら。もっとちゃんと使えるようになろう。両手で頬を挟むように、軽く叩く。
頭目が居れば、大丈夫。
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