夏祭り


 先輩とお祭りに行く約束をした。時間と待ち合わせ場所を決めて、当日。先輩のお願いで浴衣を着ることに。白地に、青や紫の菊柄。黒と濃い青の帯。お母さんに手伝ってもらって、浴衣を着ていたら、チャイムが鳴る。お母さんが小走りで玄関に。鏡の前で髪飾りを付けたり外したりしていると、足音。
「あれ、先輩?わざわざ来たの?」
「夜ですし、迷子に成られても面倒ですから」
「ひっどいな?!」
 手に持っていた髪飾りを奪われ、緩くサイドを編み込まれ、付けられる。流石、手先が器用だ。
「凄い」
「貴女もこれくらい出来なさい」
「先輩がやってくれるから良いんだもん」
「フョードル君、浴衣着ないの?」
 普段着の先輩に、お母さんが問いかける。頷いた先輩を見て、ちょっと待っててとクローゼットを漁る。
「元旦那ので悪いんだけれど、もし良かったら着て行かない?詩音も浴衣だし、フョードル君なら何でも似合うと思うのよ」
「では、お言葉に甘えてお借りします」
 丈を心配していたが、なんとぴったり。濃い灰色に白い帯が良く似合う。髪を纏めてあげたけど、ちょっと緩い。
「暑いですし、これくらいで良いですよ」
「ほら、早く行かないと、補導されるわよ」
 納得いかないが、仕方なく出発する。会場が近づくにつれて多くなる人通り。はぐれないように手を繋いだ。屋台が見える頃には、かなり賑やかだ。
「お目当てはありますか?」
「端から順番に見て行きたい」
 醤油の焦げる匂い。溶けた砂糖の甘い匂い。あっちこっちから匂いや音がして、忙しい。
「先輩待って、クレープ」
「行きますから、引っ張らないでください」
 種類は色々あったけど、定番のチョコクリームバナナ。チョコを零さないように、慎重に食べながら歩く。
「一口いただけますか?」
「ん?どうぞ」
 立ち止まって、先輩の口に向けて差し出す。クレープを一口食べて、口の端に付いたチョコを親指で拭う。じっと見ていると、先輩が首を傾げた。
「何です?」
「や、先輩、男の人なんだなあって」
「今更ですか?いつも貴女を抱いてるのに?」
 じと、とした目で見られた。だって綺麗だから、仕方ないと思う。綺麗なのに、ふとした仕草が男の人で、だからつい目で追ってしまう。
「あ、お面」
 進行方向に目線を戻す。キャラクターものの中で、白い子犬のお面を見つけた。
「そのキャラクター好きですよね」
「うん。だって先輩に似てるもん」
「明日眼科に行きますか?」
「似てるもん。先輩たまにこんな帽子被ってるもん」
「ウシャンカですよ。いい加減、名称を覚えなさい」
 言い合いながら、お面を買う。ゴムが髪飾りに引っかからないように被る。
「見づらくありませんか?」
「うん、見えない」
 顔からずらして頭に動かす。結局、飾りにしかならない。それから一通り回って、端の屋台。その陰でたこ焼きを二人で食べる。
「もう少しで花火が上がりますけど、どうします?」
「満足したし、帰ろ」
 楽しかったけど、人混みに少し疲れた。プラスチックの容器をゴミ箱に捨てて、来た時と同じように手を繋ぐ。空いた手に、お母さんへのお土産。
「貴女は相変わらず、花より団子ですね」
「花火は手持ちの方が好き」
 その時は二人とも私服だけど。外国の人なのに、浴衣が良く似合う先輩。もうこの夏は見れないかもしれないなとぼんやり考える。すると、遠くから、低い音が響いてくる。振り返れば、夜空に小さく咲く花の数々。歩みを止めそうになって、手を引かれる感覚で我に返る。
「……ねえ、先輩。打ち上げ花火もやろ」
「ええ、良いですよ。折角の夏休みですし」
 どうせなら、二人きりが良い。そんな小さな我儘だけど。花火の音を聴きながら、ゆっくりと歩いた。


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