飾
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「え、何で唐突に貶されてるの?」
せっせと情報を纏める部下を見ながら、ふと口をついて出た言葉。手を止めて振り返る彼女を、じっと見つめる。短い髪、首まで隠す露出の少ない衣装。体格も相俟って、一目見ただけでは少年と間違うかもしれない。こめかみと耳の上の二箇所を飾る髪留めが唯一の装飾品だが、それもずっと同じものを身に付けている。
「着飾る事に興味は無いのですか?」
「うーん、まあ、動きづらくなるのはなぁ」
「そうですか」
確かに、彼女の性質からして、動作を阻害するような衣服は好まないだろう。過度な装飾品も邪魔になる。小動物のように走り、跳ねる。彼女は機動性を重視している。
「何?着飾った方が好き?」
「いいえ?詩音の魅力は飾り気が無い所にありますから」
常に自然体。故に人混みに溶け込める。まるで最初からそこに居たように、最初から居なかったように。気づかれず、警戒されず、紛れ込む。
「ただ、貴女も女性ですから。そういった事に興味は無いのかと思いまして」
「ふぅん」
「詩音」
首を傾げる詩音に、手を差し伸べる。
「おいで」
持っていた筆記具を置いて、促されるままに此方に近寄る。重ねられた手を引き、足の間に座らせた。
「何?」
「この位の飾り気があっても良いのでは?」
「は……?」
振り向こうとする彼女の首に、細い鎖の、金色の首飾りを付ける。黒いタートルネックによく映える。
「……何、これ」
「首飾りです」
「そうじゃなくて」
「ぼくの趣味ではありませんが、詩音が好みそうな意匠でしたので」
控えめで、可愛らしい。鎖も長過ぎず短過ぎず、これなら彼女も身に付けやすいと思った。
「お気に召しませんか?」
「いや、一寸吃驚して」
「そうでしょうね、そんな顔をしています」
嬉しさよりも、驚きが勝ってしまったようだ。それでも表情には喜びが滲み出ているのだから、何とも分かりやすい。
「でも、急に何で?」
「偶然見つけたものですから」
「それだけ?」
食い下がってきた。今日の彼女は疑り深い。本当に、偶然見つけただけなのだが。……嗚呼、でも、他にも。
「後は、呪いのようなものです」
「お呪い?」
「ええ、お呪いです」
「どんな?」
「所謂、御守り代わりです」
答えに興味は無かったのか、生返事が返ってくる。聞いていなくても大した問題は無い。この先何があっても、身代わりにはならなくても、気休めになればいい。指先で飾りを弄ぶ詩音を、ただひたすら見つめた。
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