母の日


 最近、赤い麝香撫子カーネーションをよく見かける。気まぐれに立ち寄った露店。『母の日の贈り物に』という文字。
 嗚呼、そんな時期なのかと、ぼんやり広告を眺める。
「お嬢ちゃん、お母さんへの贈り物を探してるのかい?」
「ん?んー……まあ、そうですね」
 声を掛けてきた老齢の店員に、差し障りのない返事。
「何をあげたら、喜んで貰えるのかなって」
「子供からの贈答品なら何でも嬉しいもんだよ」
「そうですかね」
 思い出すのは、沢山の折り紙と、画用紙。卓子に置かれた手紙。
「……そうなら良かったな」
「そうだよ!却説、一番綺麗なのを選んであげようね!何色が良いんだい?人気なのはやっぱり赤だけどね」
「それじゃあ、白いのを」
「白で良いのかい?」
「赤は、嫌いなので」
 丁寧に包まれた花を受け取って、港沿いをフラフラと歩く。
 つい買ってしまったけど、どうしようか、これ。渡す人も、渡したい人も居ないのに。
 ふと、波の音が耳に入る。そういえば、母なる海とか聞いた事があるような。
 一寸勿体無い気もするけど、このまま枯らすよりは。
「おや、捨ててしまうのですか?」
 海に投げ捨てようとしたのを、寸でで留まる。
 振り向けば、頭目が微笑んでいる。
「何故捨てようと?」
「……だって、贈る人も居ないから」
 昔は絵とか、折り紙で花を折って贈ってみたけど、見向きもされなかった。
 仕事が忙しいのだろうと思っていたけど、そうではないのだと気づいたのは、手紙が開封されずに塵箱に入っていた時。
 母は私に感謝なんてされたくないのだと、思い知らされた。
「それでも大きくなって、色々出来るようになれば、お母さんも喜んでくれるかなって思ったけど」
 寧ろそれは逆効果で。異能力が発現してから無関心は悪化した。
「結局、一度も受け取って貰えなかったし。これも、何となく買ってみたけど、無駄になっちゃった」
 誰か別の人が贈答品として手にしたかもしれないのに。私が買ってしまったから、意味も無く捨てられてしまう。
「捨てるのでしたら、ぼくが頂いても?」
「え?」
 するり。手から抜き取られる白い花。
「拾うものが在れば、無駄にはなりませんよ。折角綺麗な花なのですから」
 くしゃくしゃと頭を撫でられる。貰ってくれたのが嬉しくてつい、えへへ、と笑みが零れてしまう。
「ねえ、頭目」
「何です?」
「今度、違う色の花も買って来たら、貰ってくれる?」
「ええ、勿論です」


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