七夕
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「……うん?」
ばぁん!と勢いよく扉が開いて、立派な笹と、ゴーさんが登場。
「ヒントは〜……七月七日!」
「もう答えじゃん。七夕」
「うん、大正解〜!ってことで、七夕しよう!」
七夕って、するものだっけ。
首を捻っていると、ゴーさんはいそいそと笹を立て掛けて、卓子に短冊を数枚置く。
「何で七夕?」
「郷に入っては郷に従えと言うだろう?」
「願うのは神様だけで良いと思うんだけど」
「偶には星に願うのも悪くないさ!」
何を言っても返される気がする。口を閉じて短冊を見る。ご丁寧に折り紙まで用意してる。後で飾りも作ろう。久しぶり過ぎて、上手にできる気がしないけど。
「やけに賑やかだと思えば、貴方ですか」
「やあ、ドス君!今呼びに行こうと思っていたところさ!」
「何処から持ってきたんですか」
「その辺の薮から、一寸ね」
溜息を吐きながら、頭目が隣に来る。
「頭目も短冊書くの?」
「書かないと終わりませんよ」
そうだろうな。きっとゴーさんは、書くまで待ってる。当人はウキウキと短冊を書いてる。日本語じゃないから、多分ロシア語。
「ゴーさん、何書くの?」
「ん?鼠ちゃんとずっと仲良しでいれますように、って」
「あのね、ゴーさん。私、ロシア語読めないけど、書いてないなってのは分かるから」
「おお、鼠ちゃん、成長したね!」
馬鹿にされてる。そう考えて、ふと気付く。
「……いや、待って、不公平」
「うん?」
「私はロシア語読めないのに二人とも日本語読める。私のお願い事筒抜け。狡い。不公平」
「そこに気付くとは、成長したねえ!実に喜ばしい!」
「ゴーさんの、そーいうとこ、嫌い」
ムスッとして、短冊に向き直る。何を書こう、思い付かない。ペンをカチカチ、芯を出したり引っ込めたり。
「鼠ちゃんは書かないんだ?」
「お願いしたい事とか特に無いんだよねぇ」
「え〜無欲〜」
「だって」
お願い事、とか言われても。昔はそれなりにあった気がするけど。
「七夕とは本来、芸事の上達を願う為のものです。そういう些細な事で良いのですよ」
「料理が上手になりたいとか?」
「それで十分でしょう」
成程、と短冊に書き付ける。紐を通すと、頭目が吊るしてくれる。
「詩音は欲が無いのでは無く、欲を諦める事が多かっただけです」
「そうかな」
「ええ、そうです。もう少し欲張っては如何です?」
「え」
差し出される、まだまっさらな数枚の短冊。
「願い事が一つでないといけない決まりなどありませんから」
「でも流石にそれは、一寸欲張り過ぎじゃ」
「言ったでしょう?貴女はもう少し欲を出す事を覚えなさい。全部が叶わなくても、全部を諦める必要は無いのですから」
押し付けられたから、仕方無く受け取る。それきり興味を無くしたみたいに、長椅子に座って本を読み始める。
「うーん……あ、頭目は何書いたの?」
「人々の幸せを」
「壮大」
きっと半分本当で、半分嘘。頭目の短冊、表と裏に書いてあった。もう一つのお願い事を答えてない。それに聞いても、参考になる気がしないし。
まあ、良いや。もう少し悩もうと、諦めてペンを握る。
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