黄昏、戯れ


 暑い。あまりにも暑い。どうしても我慢ならなくて、フェージャと避暑に。古民家を借りて、数泊の予定。
 夕飯の買い出しに出て、西瓜を見掛けたから、思わず購入。夏の風物詩の一つ。冷やしてフェージャと食べよう。甘いのだと良いな。
「ただいまー」
 返事はない。奥の部屋かな。それとも寝てるのかな。
 買ってきたものを冷蔵庫にしまって、フェージャを探す。今日は良い風が吹いてるから、縁側に出てるかもしれない。
 風鈴の音に引かれて行くと、やっぱり居た。いつもの服じゃなくて、浴衣に羽織。
「ああ、おかえりなさい」
「どうして浴衣?」
「風情が出るでしょう?」
「うん、まあ」
 薄い鼠色の浴衣。悔しいくらいによく似合ってる。まじまじと見つめてると、手招きされた。隣に座ると、にっこり、微笑まれる。
「どうです?似合ってますか?」
「見慣れないから、分からない」
「おや、では変ですか?」
「……素敵」
 揶揄われるのが悔しくて、触れるだけのキスをする。離れると、追いかけてきた。食らいつくみたいに、何度も。段々と深く、舌も絡んで、合間に呼吸をすると体から力が抜けて、後ろに倒れ込みそうになる。抱き着くのと、頭と腰を支えられるのは、ほぼ同時。そのまま縁側に寝かせられる。
 蝉の声が、ヒグラシに変わる。夕方を知らせる鳴き声と、風鈴の音が遠くに聞こえるくらい、キスに夢中になる。口の端から零れた唾液を舐め取られ、漸く離れた時には、すっかり息が上がっていた。
「ふふ……とても良い、蕩けた顔ですね」
「は、ぁ……ふぇーじゃ……」
「場所くらいは選ばせて差し上げます」
 ちりん。風鈴の音が、融け切った脳に溶けていく。
「フェージャ、キス、もっと……ほしい」
 はやく、という前に、与えられる。深く、深く。嗚呼、気持ちいい。呼吸をする度、体の芯が火照るみたいで。下腹部が、きゅ、とする。
 背に回した手が跳ねて、帯に引っ掛かった指が、結び目を緩める。襟が肌蹴て、素肌が。
「詩音、答えないなら、このまま此処でしますよ?」
 良いのですか?と問われて、ぼんやりとする思考を回す。場所、なんて、何処でも。でも、ちょっと背中が痛い。
「……部屋、が、いい」
 せめて、畳の上で。答えると、額にキス。掬い上げるみたいに、横向きに抱き抱えられた。
「夕飯……」
「後で一緒に作りましょう」
 歩く揺れを感じながら、フェージャの心臓に耳を寄せる。微かにひぐらしの鳴き声が聞こえた。


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