籠女
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「ああ、フョードル様。またいらしてたのですね」
「ええ、どうしても貴女に会いたくて」
「私は逃げませんよ」
くすくす笑う。この国では珍しい紫の目が柔らかく微笑んだ。
「けれど平気?私はそんなに安くないでしょう?」
「賃金の使い道が漸く出来た程度ですよ。それに、他の男が詩音に触れていると思うと気が気ではありませんから」
それは無いとも言い切れないが、そんなに多いわけでもない。寝るのが嫌で、成る可く体を許さずに居たら、妙な希少価値が付いてしまい。噂をネタにやり手婆が値を釣り上げてしまったから、高嶺の花だなんだと持て囃されもしたけれど。それは他の高級妓女にこそ相応しい言葉で、私はただの変わり者。最近は、フョードル様のお相手しかしていない。
「嗚呼、今日は香は付けていないのですね。太陽の香りがします」
髪を一房手に取り、口付けるように近づけて、一言。
「何時もの香が尽きてしまったものですから。使いを頼んだのですが、今日の分が無くて」
「そうなのですね。ですが、ぼくは此方の方が好みです」
寝台に並んで腰掛け、戯れるように触れ合う。
「詩音、ぼく、貴女を身請けしようと思うのです」
「そうなのですか?」
「ええ、貴女さえ良ければ来週にでも」
「急な話ですね」
「善は急げと言うでしょう?それに、他に貴女の身請けを狙っている男もいるのですよ」
「そうでしょうか。今まで身請けの話を出す方は多くいらっしゃいましたが」
話は出ても、私は此処に居る。身請け金が高すぎて諦めたか、そもそも本気で無かったのか。どちらもよくある話だ。金になる妓女を妓楼が簡単に手放す筈が無いし、妓女に本気になってもらうために身請けの話を出す客もいる。
「貴女が高級妓女で良かったと、つくづく思いますよ。並の男では、おいそれと手が出せませんから」
「あ…っ」
髪を払われ、顕になった首筋に口付けられる。それだけでもう、快楽を教えこまれた身体は、敏感に反応する。触れられる度に脳から背へ、腰へと駆け巡る甘い痺れ。思考が溶けて、呼吸が上がる。
「さあ、今日も極楽を見せて差し上げます」
押し倒されて、深く口付け。
きっと今日も、散々に抱かれてしまう。期待に、下腹部が甘く疼いた。
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