祝う


 今日がドスさんのお誕生日、って知った。偶然に。聞いたら、そうです、って。お誕生日、って、何をすれば良いんだろう。お祝い、とか?でも、お祝いって、どんな事をするんだろう。そもそも、祝っても良いのかな。
 暗い部屋で、椅子に座って、膝を抱えて、考える。ぐるぐるする。頭も、心臓も。ぐるぐるして、ごちゃごちゃして、吐きそう。どうしよう。
 どう、したいんだろう。
 祝いたい、の、かな。おめでとう、って。でも、それを嫌がられたら?ドスさんは、嫌がるかもしれない。おめでとう、を拒まれるかも。そうしたら、どうしよう、ごめんなさいで許して、貰えなかったら。
 額を膝に、痛いくらいに押し付けてたら、パチ、と電気が付く音。明るくなったのを感じて、少しだけ顔を上げる。
「詩音?」
「何、で……?」
「どうかしましたか?」
 ドスさんが、首を傾げて、こっちに。少し冷たい手が、額を触る。
「顔色が良くありません。熱は無いようですが、体調不良なら隠さずに言ってください」
「ちが、くて」
「では疲労でしょうか。いきなり環境が変わりましたから。何か温かいものでも飲みますか?少しは気分も和らぐかと思いますよ」
 すりすり、と頬を撫でられる。心配、してくれてる。余計な心配掛けちゃった。何処も悪くないのに。多分、それが顔に出た。撫でる手が止まった。
「何故、そんな顔をするのです?」
「そ、んな、て……?」
「我慢しなくて良いですよ。貴女の感情は、無かった事にはならないのですから。一人では無いのですし、それに、子供は泣きたい時に泣くものですよ」
 促すみたいな言葉に、じわ、と目が熱くなる。頬じゃなくて、頭を撫で始める手。ぎゅ、って顔に力を入れてみたけど、駄目だった。止まらない。ぼろぼろと溢れる。
「ド、スさ……、っ」
「ええ、どうしました?」
「わたし、どう、すれば、ぃ…っのか、わか、…ん、なく、…って……ぇ!」
「何が分からないのですか?」
「ドスさん、…のっ、たんじょ、ぅび…なの、に……っ」
「嗚呼、それで」
 嗚咽混じりに漏れる言葉。ぐちゃぐちゃに絡まってた感情が、するすると出てくる。
「ドスさ、っ…嫌、て、言われッた、ら…どうしよ、っ、て……でも、でもぉ…っ」
「祝って良いのかどうか、分からなくなってしまったのですね」
 頷くと、抱きしめられた。頭を撫でる手はそのまま。ふわりと落ち着く匂いがした。ドスさんの匂い。
「慕う相手の誕生した日を祝いたいと思う気持ちを抱くのは、普通の事です。詩音が祝いたいと思うのであれば、祝って良いんですよ。そもそも、祝われたくなければ、誕生日など悟らせません」
「っ…じゃ、ぁ……」
「貴女の祝いの言葉なら、喜んで受け取りますよ」
 鼻を啜りながら、顔を見る。優しい顔。ぐしゃぐしゃになってるのを拭ってくれる。
「お誕生、日、おめで、と…ぅ」
「ええ、有難うございます。ねえ、詩音。詩音は料理は出来ますか?」
「少し、なら……?でも、何、で……」
「誕生日を祝う時は、贈答品を渡すのが定番ですから。ぼく、詩音の手料理が食べてみたいです」
 料理は、偶にしていたから、出来なくはない。でも、教えて貰ったわけじゃないし、上手でもない。あくまでも自分で、飽きずに食べる為のものだから、人に食べて貰えるほどでも無い。
「そんなの、で?」
「ぼくがそれを望んでいるのですよ?」
「上手、には出来ない……」
「構いません、これから上手になっていただけるのであれば。そうですね、和食が良いです」
「ん……」
 和食、なら、定番のあれで。
 すっかり落ち着いた頭は、今日の献立を考える。


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