クリスマス
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信号の色が変わるのを待ちながら、歩道を二人並んで歩く女子高生の鞄で揺れる、キーホルダーを眺める。如何にも年頃の女子が好みそうなデザインだ。となれば、詩音の好みではないだろう。何故かあの子は、そういった物にとんと興味を示さない。
青に変わるのを見届けて、ゆっくりアクセルを踏む。この分なら、余裕を持って着けそうだ。
待ち合わせ場所の駐車場に停めて、背もたれを倒す。目を閉じて休憩していれば、コンコン、と窓を叩く音。迷子にはならなかったようだ。
開いている事を身振りで伝えれば、助手席に座る彼女。
「先輩に会うの久しぶり。待たせた?」
「いいえ、着いたばかりでしたよ」
「寝てたのに?」
「もう少し掛かると思っていたので」
暖房を少し上げて、後部座席からブランケットを取り、詩音に渡す。
「わーい、先輩とお出掛け〜」
「表情と言葉が一致していませんよ」
「免許取ったら私が運転するんだ」
「頑張ってください」
まだ先の話でしょうけれど。
シートベルトを確認して、発車させる。目的地は無い。強いて言うなら、少し遠い場所、といった所か。
「海と山、何方が良いですか?」
「足湯したーい」
「選択肢を無視する辺り相変わらずですね」
「だって、先輩最近忙しいでしょ?」
「詩音」
信号で停車すると同時に、彼女の額を指で弾く。
「っつ!」
「ぼくはもう、先輩ではありませんよ?」
額を擦り、じと、とした顔で睨みつけられる。それが、むっ、とした顔になるのを見ていれば、信号が変わる。もう少し見ていたかったが、残念。アクセルを踏むと、か細い声。
「フェージャ……」
合格だ。とても愛らしい。よく出来ました、と頭を撫でる。
「足湯に行くには時間が足りないので、それは今度にしましょうか」
「えー」
「代わりに夜の海で散歩でも如何です?」
「フェージャの家は?」
「外泊の許可は得て来ましたか?」
「フェージャならお母さんも怒らないもん」
「法的リスクを負う気はありませんから」
「……」
むす、として、ぷい、と窓の外を見る。嗚呼、拗ねてしまった。けれどこればかりは仕方ない。詩音はまだ17歳で、外泊には保護者の許可が必要だ。
「あと数ヶ月の辛抱ですよ」
「……」
「詩音」
「……久しぶりに、フェージャと会ったのに」
どうしてこうも可愛いのか。海岸沿いの近くのパーキングに停車して、降りる。寒そうに身震いする。手を繋いで、波打ち際を歩きながら、遠くに光るネオンに目を向ける。
「クリスマスだね」
「そうですね」
「誕生日は泊りに行って良い?」
「しっかり許可を貰うなら構いませんよ」
まあ、この子に限って無許可等という事はしないだろうけど。
そのまま波打ち際に沿って歩けば、すっかり日も落ちた。そろそろ帰さなければ。
「家の近くまで送ります」
「フェージャが同い歳なら良かったのに」
そうすれば、もどかしくなかったと、そう言いたいのだろうか。だが現実は、彼女はまだ庇護されるべき年齢で、自分は彼女を庇護すべき年齢だ。
「一年で済むのですから、まだマシな方ですよ」
「先輩は周りに女の人一杯居るもんね」
「そういう拗ね方は感心しませんね」
「ふーんだ」
「成程、詩音は誕生日までぼくに会えなくても良いと」
そっぽを向こうとした彼女に言い放てば、慌てて振り返る。
「そういうの!そういうのズルい!卑怯だ!」
「ぼくに勝てると、少しでも思い上がるからですよ」
「ズルい!!」
「次の誕生日は何が欲しいですか?」
「うん?うーん……」
「何て、もう準備してあるんですけどね」
「早くない?」
「ふふ、グローブボックスを開けてみてください」
言われるがまま、ボックスを開けた詩音が目を丸くする。手のひらに収まる程度の箱を取り出して、硬直してしまった。
「ねえ、フェージャ」
「驚きました?お揃いですよ。詩音はあまり欲しがりませんでしたけど」
そう、揃いの指輪だ。彼女の左手薬指にピッタリと嵌る。それが意味するところを、察せない彼女ではない。
「フ、フェージャ」
「それはクリスマスプレゼントです。少し早いですけどね。誕生日には、そうですね、お揃いの苗字など如何です?」
「ま、まだ学生」
「年が明けたら卒業まであっという間ですよ」
その前に受験か。彼女の成績なら大丈夫だろう。何も心配はしていない。
「まあ流石に、誕生日に結婚は早いとしても、一緒に暮らすには丁度いい節目だと思いますよ?」
返答が無くなった。きっと顔を真っ赤にして、照れているんだろう。それはどれ程愛らしいのだろうか。挨拶には何時行こう。一人で計画を立てつつ、少し遠回りしようと、ウインカーを点滅させた。
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