新年


「お待たせ!寒かった?」
「いいえ。然程待ってはいませんから」
 年が明けたので、ドス君と待ち合わせて初詣。少し準備に手間取っちゃって、約束の時間より遅れてしまった。言葉通り、ウシャンカを被ってて、暖かそうな格好をしてる。モフモフ良いな〜、なんて、ぼんやりしてれば、ドス君がウシャンカを被せてくれた。
「詩音の方が寒そうですよ。耳が赤くなってます。少し被ってなさい」
「えへへ、暖かい。でも音聞こえづらいの」
「それくらい我慢なさい」
 手を繋げば、ドス君の手が暖かい。違うか。ドス君じゃなくて、私の手が冷たいんだ。手袋をすれば良いのだろうけど、思ったより暖かくないし、あんまり好きじゃない。懐炉も冷たくなっちゃうし。
「あ、あけましておめでとう」
「ええ、今年もよろしくお願いします」
 神社はお昼すぎだけど、まだ少し人が多い。人酔いしちゃいそう。
 手水舎で手と口を濯いで、お参り。賽銭箱に硬貨を入れて、ガラガラと鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼。今年もドス君が元気に過ごせますように、しっかりお願いして、隣を見た。ドス君はまだお祈りしてる。
 その姿が、とても綺麗だと思った。目を閉じて、祈ってる姿。日本の人じゃないのに、日本式のお祈りしてて、そんなに長く、何のお祈りをしてるんだろう。
 言葉を失って見蕩れていると、ふ、とドス君の目が開く。思わずドキドキしていると、こっちを見て、微笑んだ。
「終わりました?」
「え、あ、うん」
「なら行きましょうか」
 御籤は引かずに、鳥居まで戻る。
「詩音のこの後の用事は?」
「お母さんとお雑煮作るの」
 ドス君も食べるかな、誘ってみようかな?
 口を開く前に、ドス君が「では帰りましょうか」って言うから、誘いそびれちゃった。
「休みが終わる前にもう一度デートでもしますか」
「うん!後で良い日連絡するね!」
 家の前でバイバイして、郵便受けの葉書を持って、お母さんの所まで。
「ただいま〜。年賀状来てたよ」
「おかえり。私のと詩音の、混ざってるだろうし、仕分けして持ってっちゃって」
「は〜い」
 手洗いうがいをして、年賀状の仕分け。名前を見て、連名のはお母さんの方に。 先生からも来てる。
 あ、これ、シグマおじさんからだ。事務員さんなのに、あげるねって言ったからかな。律儀だなぁ。
 せっせと仕分けして、一番最後に、見覚えしかない文字。名前を確認して、裏を見て、また名前。今年もよろしくって、それだけの、簡素なやつだけど。
 自分の分を纏めて部屋に持って行って、そのまま電話をかける。相手は勿論ドス君。3コール位で出てくれた。
『はい』
「ドス君、年賀状」
『嗚呼、日本の郵政は優秀ですね』
「何で?」
『別に、気が向いただけですよ』
 だって私、送ってないのに。何かそれは不公平だ。
「お返し送る」
『必要無いですが』
「やだ。何かやだ。私だけとかやだ。送る」
『頑固ですねぇ。良いんですよ、本当に、気が向いただけなので』
 電話の向こうで、くすくすと笑われる。
『ロシアにも年賀状の文化はありますし、どんな物かと思っただけです。それに手紙よりも、こうして話していた方がぼくの好みですから』
「じゃあ、明日家来て。一緒にお雑煮食べよ。年賀状の代わりにいっぱいお話しよ」
『ええ、お邪魔します。昼で良いですか?』
「うん、約束だからね?絶対だよ!」
 はいはい、とまた笑われた。
 電話を切って、年賀状を仕舞って、部屋を出る。
「お母さん、明日ドス君がお雑煮食べに来るって」
「本当?なら、沢山作らないとね」


←前 戻る 次→

TOP
HOME