祝う


「…………欲しいもの?」
「ええ、何かありませんか?」
 ぱちぱちと瞬いて、小首を傾げる。欲しいもの、と、急に言われても。
「……特に、無いです、ね」
「そうですか」
 困りました、と、小さく聞こえる。ドキッと心臓が跳ねた。困らせてしまった。何で。
「あ、の……」
「詩音」
「は、い?」
「では、詩音が今願う事は?」
「え、お願い……?」
 何だろう、さっきから。お願い。お願いしたい事、か。
 とはいえ、欲しいものとかは大体貰っていて、ドスさんは、最大限私を気遣ってくれてるし。そういえば、最近は随分と居心地が良い。環境に慣れてきたからかもしれない。
 うん、やっぱり、今で十分恵まれている。前よりも、生きてるって思える。
「今は、特に」
「そうですか」
「……あの、ドスさん」
「はい?嗚呼……」
 納得したような表情をして、それから、おいでおいでと手招きされる。隣に腰掛ければ、頭を撫でられる。
「そういえば、詩音は自分の事となると関心が薄かったですね。今のは不親切な質問でした」
「えと、」
「今日は詩音の誕生日ですから。何でも良いですよ、何か欲しいもの等ありませんか?」
「たん、じょーび」
 髪を梳かれながら反芻する。誕生日。
「あ、の」
「どうしました?」
「誕生日、祝ってくれる、の?」
 昔は、友達がおめでとうと言ってはくれたけど。お母さんは、一度もおめでとうって、言ってくれなくて。
 それでも何かと目にする日付だから、忘れる事も出来なくて。
「当然でしょう?詩音が、神の祝福を受けた日なのですから」
「じ、じゃあ、あの、えと」
 ふわふわと髪をかき混ぜられる。どくどくと、心臓が早い。
「お……おめでとう、て、言ってほし…ぃ」
「他には?」
「他は要ら、ないです。最近は、祝って貰えなかっ、たから」
「では、今年は沢山祝って差し上げます」
「今年、は……」
「来年は欲しいものを考えてくださいね」
「来年、も、あるの?」
「勿論」
 手が頭から、頬を包むように移動して、むにむにと撫でられる。
「詩音がぼくの傍で生きる限り、何時までも祝って差し上げますよ」


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