空間
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「それでも心配になるよねー」
寝台の端に腰掛けて、チンチラを膝の上に出す。ふわふわの毛並みを只管撫で続ける。
「ちゃんと寝てるかな、とか。ねー?」
語り掛けるが、反応がある筈もない。今日はもう寝ようと、寝台に横たわる。空いた一人分の空間を埋めようと、仲間を何匹か。
「今日はお前が抱き枕だ」
そのうち一匹を布団の中に引きずり込む。胸に抱いて、体の上に重みを感じながら目を閉じた。
人の動く気配がする。ごそごそと音がしたかと思えば、寝台が軋んだ。重い瞼をどうにか開けると、伸びてきた手が止まる。戸惑ったような動きをしてから、前髪を払われた。
「おか、えりぃ……」
「ただいま。起こしてしまいましたね」
「んーん……」指先まで意識を向けて、体を起こす。「……疲れてる?」
手を伸ばして頬に触れる。寝起きなのと、暗いのとでよく見えないけど、雰囲気が。少し、元気が無い気がする。
「そうですね。少し、疲れたかもしれません」
「まだ休めそうにない?」
「いいえ。詩音のお陰で、捜しものは見つかりましたから」
「そう、良かった」
「しかし、ぼくの寝る場所が無いですね」
くすくすと笑われて、チンチラまみれな事を思い出す。慌てて消すが、まだ笑う声がする。
「と、頭目……?」
「寂しかったですか?」
「へ?」
「それ」
胸に抱いていた一匹を、すっかり忘れていた。ぬいぐるみのように微動だにしないものだから。
「真逆、抱き枕の役目を奪われるとは」
「頭目を抱き枕になんてしないもん!」
「そうですね、貴女が抱き枕になる側です」
最後の一羽を消すと、漸く寝台に寝転がった。同じように横になると、抱きしめられる。
「貴女に構う余裕もありませんでしたし、明日からは成る可く相手をして差し上げます」
「良いよ、休みなよ」
「おや、貴女はぼくに構ってくれないのですか?」
「そういうこと言う……!」
冗談なのか、何なのか。この人が外国の人な所為なのか。時々こう言う台詞を吐く。それも様になり過ぎるから嫌だ。全くもう、とむくれていると、髪を一房掬われて、口付けられる。
「フェージャ、そういうとこだよ」
「何がです?」
「狡い」
「光栄ですね」
噛み合っているようで、噛み合ってない会話。多分噛み合わせる気もない。
「もう、早く寝て」
「ええ、そうさせて頂きます」
「おやすみ」
偶には、と。触れ合わせるだけの、短い、拙い口付けを、自分から。やり逃げるように、胸に頭を押し付けた。
「詩音」
「何」
「おやすみなさい」
その言葉を最後に、すぐ規則正しい寝息が聞こえてくる。余程疲れていたのか。慣れない事をしたせいで全力疾走する心臓が落ち着くまで、暫く寝息を聞いていた。
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