守るための力


唐突に告げられたセンゴクの言葉に、マリンフォードには驚きの声が沸き起こる。既に知っていた者達はただ黙って事の成り行きを見守っている。

「構わん…もう隠す意味もないわい…。ルフィもシアンもすでにそんなレッテル物ともせん程の無法者………!!」

――だって憧れたの。自由な海に。

“ゴムゴムのォ〜〜〜!!! 巨人の回転弾ギガント・ライフル”!!!!

ルフィの巨人化した腕が巨人族を殴り飛ばした。シアンも負けじと大きく腕を振り上げた中将を、寸分の狂いもなく斬り倒した。血しぶきが舞い、地面が赤で濡れる。それを一瞥することなくシアンはすぐにその場から走り出した。

「エ〜〜ス〜〜!!! 好きなだけ何とでも言えェ!!! おれは死んでも助けるぞォオ!!!」
「その邪魔な手枷ぶった斬ってやるんだから!!!」

泣きそうなエースに二人は笑いかけた後、まだまだたくさんいる海兵達を蹴散らしてゆく。中には叫びながらシアンに向かってくる奴もいるため、周りの声が聞こえなかったシアンはエースが何かを言っていたなんて知らなかった。

「………!!!」
「……どうした」
「…………もう、どんな未来も受け入れる。差し延べられた手は掴む……!! おれを裁く白刃も受け入れる……。もうジタバタしねェ、みんなに悪い」

そんな覚悟を決めたなんて、シアンは本当に知らなかった。
暫くすると、いきなり白ひげの傘下達が左右へ別れて軍艦を襲いだした。なにやら海軍の思惑を感じ取った白ひげが命令を出したようだ。

「ハァ、ッ…全然エースに近づけない……!! あとちょっとなのに…!!!」

敵の数が多すぎるのか、まったく縮まらない距離にシアンはだんだん苛立ってきた。ふと兄のルフィはどこだろうと後ろを振り返ると、ちょうどミホークと戦ってるところだった。
師弟関係にあったシアンは見逃してもらえたが、ルフィは違う。むしろ航海当初からゾロが負けた相手として、因縁がある。
ミホークの注意を自分に向けようかと、ザザザッ…と足を止めた瞬間、彼はその黒刀をブンッと大きく一振りした。生まれた斬撃は、海軍大将であるクザンが凍らせた津波をスパッと両断したのだった。

「あれをたった一振りで…」

自分と彼の差はまだまだだと痛感したシアン。その後ルフィは白ひげ海賊団・五番隊隊長、花剣のビスタの助太刀により、無事ミホークとの戦いから逃れられた。
だが、ミホークは今の短い戦闘の中で確信した。ルフィは能力や技の一つ一つは威力も強い。けれどそれだけじゃない。この男は、その場にいる者達を次々に自分の味方につけている。――この海においてルフィは最も恐るべき力を持っていることを、ミホークは確かに感じ取っていた。
止めた足を再び動かし、体力の限界を迎えても進み続けていたシアンだが、いきなり処刑の準備が始まったことにクッと眉間に皺がよる。まさか、もう処刑が始まってしまうのか?過ぎったそれはシアンの心臓をドクドクと波打たせた。

「ふざけないで、センゴク!!!」
「!!」

怒りで口調が荒くなってしまうが、もとより海軍と海賊。口調だなんて今更どうだっていい。
絶対的な正義? それはただ、権力を振りかざしてるただの悪だ。

「なに…? 海賊相手に時間も何も関係ないってこと?」
「まずい…シアンがキレるぞ!!」

頭を抱えて焦ったような声色でそんなことを言ったガープの横で、エースもまずいと思ったのだろう、必死にシアンに向かって叫んだ。

「落ち着けシアン!! 元々こうなったのはおれのせいなんだよ!! ……ッもう、おれのことは放っとけよ!!!」
うるさい!!!

怒りが頂点に達したシアンは、エースの言葉さえぴしゃりとはねのけて刀をギュッと握りしめた。向かい来る海兵をすべて斬り捨て、冷酷な眼差しで見聞色の覇気を使う。
そんなシアンの前に現れたのが、“麦わらの一味”をバラバラに追いやったバーソロミュー・くまにそっくりなパシフィスタ。此方を向いて口を大きく開けて光が凝縮されたビームを撃とうとするが、それより先にその口に銃弾を撃ち込んだ。ドカァン!! と派手な音を立てて爆発したパシフィスタは、巨体を支えきれずに倒れた。巻き起こる土煙に腕で目を覆うが、残骸と成り果てたパシフィスタの後ろから大量の海兵が襲ってきたため、未だ晴れない視界の中、静かに鯉口を切った。

風舞かざまい 逆風リヴェント

スッと体を屈めて敵の懐に潜り込み、その胴を斬っていく。途端に悲鳴が耳をつんざくがそれでも腕を止めることはない。風のような速さはただの一兵卒には目で追うことすら出来なかった。

「力はな、護るためにあるんだぜ?」
「まもるため?」
「あァ。シアンの父ちゃんはな、ずっと仲間を護るために敵を斬ってたんだ」
「なかまを、まもるため…」
「そ。アイツは、アイツらは、大事なもののために戦いに行ったんだ」
「だいじなもの…?」
シアンお前のことだ」


ふと思い出したかつての会話に、それまでは一心不乱に刀を振り回していたシアンはピタッと動きを止めた。息切れしながら周りを見渡すと、無惨に殺された者達が横たわっている。シアンは手も服も何もかも血まみれだ。
暴走してしまったことにため息を吐いたシアンは、頭を振って気持ちを入れ替える。と、同時に目に飛び込んで来たのは、白ひげの傘下であるはずのスクアードが、白ひげに大刀を突き刺している光景だった。





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