大切な家族だから


至る所からもくもくと煙が燃え上がり、戦場はより激しさを増していた。絶え間なく血は流れ、しとどに地面を濡らしてゆく。それでも両者は止まらない、止まれない。

討ち滅ぼせェ〜!!! “海軍本部”!!!

海賊達の最大の想いが戦場を駆け巡る。シアンとルフィは白ひげ――エドワード・ニューゲートの攻撃の邪魔にならないよう直線上を避けて、エースの元へと急いだ。

「もう一発来るぞ!! さっきのやつが!!」
“アイスBALLボール”!!!

グググと腕を引いた白ひげだが、攻撃をする前にクザンが白ひげを凍らす――けれど、“振動”は凍らない。すぐにその氷はバリィン! と砕け、白ひげは覇気を纏った薙刀で青キジを刺した。腹にぶっ刺さったまま、クザンは薙刀を掴んでそこから凍らせてゆく。

“アイスブロック “両棘矛”パルチザン”!!!

現れた氷の棘のような物が一気に白ひげへと向かっていく。避けようにも氷によって固定された体は動かない。その氷が白ひげにぶつかる前に、ダイアモンド・ジョズが青キジを殴った。彼の左腕はダイアモンドに変化していて、それに殴られた青キジの口端からは血が出ていた。
目の端からそんな光景を流し見しながら、シアンとルフィは進む。ルフィは右から、シアンは左から。
――ガキッ!!

「ッ! くそっ、中将か……!!」
「ここまでだ、“剣聖”のシアン!!!」

いきなり刀が硬いもので止められる。体を斬った筈のそれは、あの六式の一つである鉄塊だった。
刀が折れなかった事に目の前の中将は驚いているが、桜桃が折れる訳がない。これはそんな安物でもなければ、そこら辺のただ高いだけの刀でもない。

「誰がここまでって!? 二式牙突にしきがとつ”!!!
「ッガハッ……!!! おの、れ…!!!」

ジャリッと砂を目に向かって投げ、敵の一瞬の隙の間に高く飛躍する。曇り空をバックに、シアンは思い切り鋒を斜め上から振り下ろした。
敵は口から血を吐き、ドサっと倒れる。シアンはそれを最後まで見届ける事なくまた足を動かした。

「…ハッ、……ハアッ…」

息も絶え絶えで、足を動かすことさえだる重く感じる。そんなとき、大きな声がビリビリと肌を刺激した。

それ見た事かァ!!! だから言わんコフッチャナッシブル!!!
「革命軍のイワンコフ…」

物凄い大きな顔が包囲壁の上から此方を見ている。そんなイワンコフの目線の先を辿ると、

「…ルフィ……!?」

先ほど別れたルフィが、白ひげに足を掴まれてぶらりと逆さま状態になっている。その身体は傷だらけで、とても無事とは思えない。
嘘だと呟きながら、シアンはルフィの元へ行くべく、だる重く感じていた足のことなんてすっかり頭から忘れて駆け出した。

「ルフィ!!!」
「コイツはもう充分やった、手当てを」
「はい!!」
「く…!! いらねェ………!!! そんな時間ねェよ!!」

白ひげの手から放たれたルフィは暴れ始める。白ひげの部下達はそんなルフィを止めようとするが、それをシアンが防いだ。

「シアン!? お前も早く止めろ!!」
「っ……いやだ…!」
邪魔すんな!! …エースは、エースはおれとシアンの、世界でたった一人の兄弟なんだぞ!!!! 必ず…!! おれが助け…」

言い終えるか言い終えないかぐらいでルフィはどてっ…と倒れてしまった。シアンは慌ててルフィの体を支え、泣きそうに緩む涙腺をぐっと目に力を入れることで涙を堪える。
自分達の兄が一人になってしまったからこそ、余計にここでエースを失うわけにはいかない。だって彼は、自分達に約束してくれたのだ。『死なない』って。
それを、嘘にしないで。

「ルフィ!! しっかりして!! ッ…ルフィ…!!!」

ああ、泣きそうだ。そこへジンベエが慌てた様子でやってきて、倒れたルフィを見て驚愕の表情を浮かべる。

「ほざくだけの威勢の塊…!! 若く…無様…!!! ――…そういうバカは好きだぜ」

白ひげがルフィを見ながら小さく笑い、すぐに薙刀を大きく振り上げる。しかし、すかさずサカズキがそれを止めた。
戦いは勢いを増し、マルコが不死鳥の姿で一気にエースの元まで飛んでいく。このまま行けるかと思ったが、その考えは甘かった。たった一発の拳でマルコを止めた――海軍の英雄、ガープ。

「とうとう出てきた…!! 伝説の海兵が…!!!」
「ガープだ!!」
「……ガープ…!!」

皆の視線を一身に受け止めるガープは、ドンッ! と構えて声高に叫んだ。

「ここを通りたきゃあ…わしを殺していけい!!! ガキ共!!」
「…おじいちゃんっ…!!」

その言葉が嫌というほどシアンに突き刺さった。
殺せるはずがなかった。シアンが今、こうしてルフィとともにエース奪還の為に走り回っているのも、大切な仲間に出逢えたのも、ガープが居てこそなのだから。

「いやだよ、おじいちゃん…!」
「シアン…!!」

交じり合うシアンとガープの瞳。久しぶりに視線を交わした二人だが、もう馴れ合えない。二人は、どう足掻いても敵同士なのだから。





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