始まりと出逢い


10年前――“東の海イーストブルー
フーシャ村コルボ山 山道


「だからじいちゃん。おれは!! 海賊王に――」
「何が海賊王じゃあ!!! “悪魔の実”など食うた上にフザけた口をたたきおって!! ルフィ、お前もエースも!! 将来は最強の海兵になるんじゃ!!!」

ガープはルフィの頬をぎゅっと抓ったまま歩く。ルフィは体が小さい為、足がブラブラと揺れている。
そんな二人をクスクスと笑うのは、ガープの肩の上にちょこんと座るシアンだ。抓られて痛そうなルフィを見ることはまず無いため、痛がっている様をこれ見よがしに眺めていた。

「…ねぇ、おじいちゃん。わたしルフィが“かいへい”なんてやだよ」
「シアン…嫌な海兵ばかりじゃないぞ? 世の中には良い海兵も沢山おる。ワシだってそうじゃ!」
「そっか…そうだよね…。おじいちゃんも、いい“かいへいさん”だもんね!」
「そうじゃ。ルフィもきっと良い海兵になる」
「でも、それならわたし…フーシャ村にいたかった…」
「うっ…ダメじゃ! シアンはともかくルフィを生ぬるいフーシャ村に置いたのは失敗じゃった。それにシアンはルフィがおらんと嫌じゃろう?」

確信を得ているその問いかけに、シアンはそれもそうだと頬を緩ませた。そんなシアンを見ていたルフィも、「にししっ!」と歯を見せて笑った。
目的地に着いたガープは山の奥にある家の扉をドンドン! と力強く叩いた。出て来い、と呼ばれたダダンは口に煙草を加えながら少し疲れた顔をして出てきた。

「ガ…ガープさん!! ホントもうボチボチ勘弁しておくれよ!! エースの奴もう10歳だよ」
「こり以上我々じゃ手に負えニーよ!! 引き取ってくりよ!!!」

冷や汗をたっぷり流しながらどうしてもそれを伝えたかったのだろう。強面な顔はガープに怯えている。
言いたい事を言い切ったダダン達だが、ガープの周りをちょろちょろと動き回っているルフィと肩の上に乗っているシアンを見て、思わず叫んでしまった。

えええ、何すかそのガキンちょ!! もう二人増える〜〜!!? ガープの…あ!! ガープさんの孫ォオ〜〜!!?

山中に響くダダンの叫び声。やまびこみたいな響きを期待していたシアンは、思ったよりあまり響かずしょぼんと肩を落とした。

「シアン! おりて来いよ!」
「うんっ!」

ルフィに呼ばれたシアンは話し込んでいるガープの頭をペシペシと叩いて降りたいと伝える。ガープは悲しそうに寂しそうにした後、ゆっくりとシアンを降ろしてやった。
タン、と足が地面に着いたシアンは早速ルフィの元へ行く。もう少しという所でルフィの頬に何かが飛んできた。

「ルフィ!」
「げーっ!! ツバ!!! きたね〜〜!! おい!! 誰だお前!!」
「おお、エース」
「うおっ!! 帰って来てたのかエース!!!」

べちょーっと頬に付いた唾を手のひらで拭うルフィ。それにやっとエースがいる事に気づいたガープ達は揃ってエースに声をかけた。
そんな事はどうでもいい、とシアンはガープからハンカチを貰ってルフィの頬を丁寧に拭いていく。

「だいじょうぶ?」
「おう! ありがとな!」

ニカッと笑ったルフィだが、

「あいつがエースじゃ。歳はお前より3つ上。シアンよりも4つ上じゃ。今日からこいつらと一緒に暮らすんじゃ、仲良うせい!」
「う!!」
決定ですか!!!
「………何じゃい」
お預かりします!!!

ガープに頭を叩かれたルフィは歯を剥き出しにしてエースを睨む。それに負けず劣らず、エースもルフィとシアンを睨んでいた。睨まれているシアンは特に気にする様子もなく、それよりもガープと離れ離れになると今漸く気づいたようで、彼の足元に縋っていた。

「やだ、やだっ…! フーシャ村にかえりたいっ…シャンクスに会いたい! おじいちゃんともはなれたくないよ……」
「分かっとくれ、シアン。それにシアンが帰ってしまえば、ルフィがここで一人になってしまうんじゃぞ?」
「う…また、会いに来てくれる?」
「もちろんじゃ」
「……わかった…。あの、えっと…」

ガープの左足を壁のように使い、顔だけ出して身体を隠しながらダダンに声をかけた。ダダンは訝しげに「何だい?」と問いかけ、小さな少女と目を合わせる。

「あの、……よろしく、おねがいします…」

確かに聞こえた言葉に、ダダンはガープの連れてきた子でもこんなに素直な子が居たのかと感激した。けれど腐っても山賊。舐められてはいけない。ダダンは威厳を保ったように偉そうに「ああ、仕方ないねェ!」と口にしたのだった。





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