不確かな物の終着駅


それからルフィとシアンは何日も何ヶ月もエースを追いかけた。傷も完治していないのに、寧ろどんどん増えていく生傷を二人とも気にせずに。
そうして3ヶ月を越えた頃――。

「ハァ…ハァ……」
「んっ…ハァッ……」
「あ…、森を抜けた……」
「ほんとだ……!」

目元に隈がくっきりとある二人はやっと森を抜けた。辿り着いたそこはとても臭く、思わずシアンは鼻を小さな手で塞いだ。
――ダダン一家の住むコルボ山を北へ抜けると、こんな場所・・・・・がある。

「おえっ!! くっせ〜〜、何だここ」

ここはいつも悪臭が漂う場所――。
捨てられた大量のゴミの山は、日光による自然発火でいつも煙を上げている――。

「ゔぅ…! はっ…鼻が…!」

不要になったものがここに集まる物もそうだが――人間もそう――

「オウ…どけ小僧…」
「殺しだァ〜〜!!」
「そっちへ逃げたぞー!!」

当然“無法地帯”……医者もなく、犯罪と病気が蔓延している――ここは…。

不確かな物の終着駅グレイ・ターミナル


「あ!! シアン、あそこ!」
「ん? ……あ!」

ピッとルフィが指を示した先に居たのは、ここ3ヶ月追いかけていた存在――エースだった。上から聞こえてくる話にルフィとシアンはお互い顔を見合わせ、にししっと笑顔を浮かべた。

海賊船〜〜!!? お前ら海賊になんのか!?
「「……………!!」」
「おれもシアンも同じだよ!!!」

なーっとにっこり笑うルフィにシアンも頷く。正直シアンにとって嬉しいのはエースの描く夢が同じだからじゃない。ただ単にルフィが嬉しそうだからだ。
するといきなりグイッと引っ張られ、あっという間にルフィと共に木に括り付けられた。圧迫感のあるそれにシアンは最初不快感を露わにしたが、ルフィがにこにことやっぱり嬉しそうだったので足掻く事はやめた。

「お前エースの友達か? お前も友達になろう! な、シアン!」
「ん」
「だまれ」

冷たい返事にムッとなるシアン。せっかくルフィがこうして頑張ってるのに、とだんだんイライラが溜まってきた。
シアンの今の世界の中心はルフィただ一人なのだ。シャンクスがいれば勿論シャンクスだが、今シアンの傍に赤い髪の彼はいない。それ故にルフィに依存してしまう。

「秘密を知られた……。放っといたら人に喋るぞ、コイツ…」

ルフィは簡単に人の秘密を言ったりしない。その事を誰よりも知っているシアンは、人一人殺せそうな眼光をエースとサボに向けた。それに気づかない二人はルフィとシアンを見下ろし、

「殺そう」
「よし、そうしよう」
え〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?

いきなり大声を上げたルフィに一番近くにいたシアンの耳はキーン…と耳鳴りが酷く鳴る。緊張感のないルフィのせいで先ほどの二人の台詞はシアンの中から完璧に消え失せたが、ルフィのその後の叫びによりまた蘇る。
耳を手で塞ぎたいが、縄で括られてる為にそれは叶わない。目の前でお前が殺れだのお前が殺せだの言い合っている二人にいい加減怒りをぶつけようかとした瞬間――。

「森の中から声が聞こえたぞ!! 子供の声だ…」

聞いたことのない声にみんなの意識は逸れた。その事にルフィはあからさまにホッとした顔を浮かべた。エースとサボは慌てて縄を解き四人で草陰に隠れる。
すると、ガサガサと草音を立てながら出てきたのはここら一体を占めている海賊団の船長・ブルージャムの手下――ポルシェーミだった。

「(…しまった。あのチンピラブルージャムんとこの運び屋だったのか。…やべぇ金に手ェ出しちまった…!!)」
「(本物の刀持ってんぞ。手下のポルシェーミだ。あいつイカレてんだ!! 知ってるか!? 戦って敗けた奴は生きたまま“頭の皮”を剥がされるんだ……!!)」

ゴクリと喉を鳴らしながら怯えるサボとエース。シアンはそんな事よりもルフィがいない事に真っ先に気づき、キョロキョロと辺りを見渡す。続いて二人もそれに気づいたが、エースの「あ」と言う声に目をポルシェーミへ向けると、

放せ〜〜〜!! コンニャロォ〜〜〜〜!!
「何だこのガキ」
「「(何で捕まってんだよーーー!!!)」」

大声を上げるルフィはポルシェーミに捕まっていた。ルフィは足をバタつかせながらエースに助けを求める。するとポルシェーミは反応を示し、エースを知っているかとルフィに問いかけた。

「友達だ!! あ…でもさっきおれ殺されかけた…」

シアンはいつでも飛び出せるようにジッと機会を伺う。その目はギラリとギラついていて、並の海賊ではそんな目は出来ないだろう。

「一応聞くが、今日エースの奴が…おれ達の金を奪って逃げたってんだよ…。どこにあるか知らねェよな」
「! …………!!」

胸ぐらを掴まれたままだが、ルフィには見覚えがあったのだろう。現にルフィはその金かどうかは知らないが、エースとサボが金や宝石を集めている場所を知っている。

「やべェ…宝全部持ってかれちまう!!」
「喋んじゃねェぞあのバカ……!!」

鬼のような形相でルフィを睨む二人をチラッと見て、シアンはキュッと口を固く結んだ。こうでもしないと今にも声を荒げて怒鳴りそうだったから。
自分の大切な人がこうも悪く言われているのだ。怒るなと言う方がおかしい。

「………し…し…知らねェ」
「(ウソ下手っ!!!)」

口を尖らせて下手くそな口笛を吹くルフィは、「知らない」と答えた。ならばきっと彼はその答えを貫くだろう。
ほんと、嘘が下手なんだから。シアンはニッと口角を上げて連れ去られたルフィの後を追おうと立ち上がった。

「おいっ、どこに行くんだよ!!」
「決まってるでしょ……ルフィを助けに行くの」
「無理だ! あいつは殺される! 下手すりゃお前も殺されるぞ!!」
「構わない!! …ここで、ルフィを見殺しにするくらいなら、死んだ方がマシよ!!!

怒りが爆発したかのように声を荒げ、シアンは二人を睨んだ。その目には涙こそ浮かんではいなかったものの、気を抜くと涙腺は緩みそうだった。
今度こそ何も言わなくなったエースとサボを一瞥し、今日はちゃんと持ってきておいた桜桃があるか確認して追いかけた。





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