伝えられた突然の死


――あの大火事から二日後。

「おい!! みんな!! 三人が帰ってきたぞ!!!」
「「「え!!?」」」

男のその言葉に中にいた者たちは驚きで目を丸くする。開けられたドアを見ると、そこには――…。

「エース!!!」
「シアン!!!」
「お頭ァ!!!」

傷だらけの三人がいた。
エースがダダンを背負い、シアンは鞘に収まった桜桃で体を支えている。三人とも満身創痍で、立っているのが不思議なくらいだ。

シアン〜〜〜!!! エ〜〜ズゥ〜〜〜〜!!!

わああああ! と涙や鼻水を流し、顔をぐちゃぐちゃにさせたルフィが、二人の名前を呼びながら抱きついた。
シアンはその勢いに倒れそうになったが、寸でのところでエースが支える。

「ルフィお前…おれが死んだと思ったのか?」
「だっで……!!」
何泣いてんだよ!! 人を勝手に殺すなバカ!!!

ルフィの頭にいつも通りガン!! と、拳を振り下ろすエース。久々に見たその光景に、シアンは声を上げて笑った。
その後、シアンは心身共に疲れたようで、敷いてあった布団を見るとこてんと倒れるように眠ってしまった。
シアンからも話を聴こうと思ったが、さすがにそれは酷だということでエースに話を聴く事に。ルフィは小難しい話はさっぱりなので、小屋の外で昆虫と遊んでいたのだった。
そんな時だった。ドグラが悲報を持って帰って来たのは。

ウソつけてめェ!!! 冗談でも許さねェぞ!!!

小屋にはエースの怒鳴り声が響く。エースはドグラの首元を掴んで押し倒した。その騒音にぐっすり眠っていたシアンも目を覚まし、のそのそとみんなの元へ出てきた。
そんなシアンには誰も気づかず、ドグラは苦しそうに冷や汗をかきながら自分の目で見た事を口にし始めた。

「サボは貴族の両親に連れて帰らりたって…ルフィ言っティたなァ。おり達みティーなゴロツキにはよくわかる。帰りたくニー場所もある!! あいつが幸せだったなら…!! 海へ出る事があったろうか!!! 海賊旗を掲げて一人で海へ出る事があったろうか!!?」

それだけでなんの話をしているのかは詳しくは分からないが、それでもサボの話をしているという事だけは分かる。シアンはもしかして、と最悪の事態を想像して頭をふるふると横に振った。
サボが、自分を置いていくわけがない。たとえ行っていたとしても、“死ぬ”わけない。だってサボはあんなに強かった。だから、だから――。

サボを殺した奴はどこにいる!!! おれがそいつをブッ殺してやる!!! あいつの仇を取ってやる!!!

側にあった鉄パイプを手に取り、その勢いのまま小屋から出ようとするエースを止めたのは、包帯で身を包んだダダン。
ダダンは普段よりも声を張り上げて、エースに向かって怒鳴った。

「ろくな力もねェクセに、威勢ばかり張り上げやがって!!! 行ってお前に何ができんだァ!!? 死ぬだけさ!!! 死んで明日にゃ忘れられる!!! それくらいの人間だ、お前はまだ!!!」

エースの胸倉を掴みあげ、目を釣り上げるダダンの表情は、まるで子を叱る親のようだ。

「サボを殺したのはこの国だ!!! 世界だ!! お前なんかに何ができる!!!
お前の親父は、死んで時代を変えた!!! それくらいの男になってから、死ぬも生きるも好きにしやがれ!!!!

最後に自分の部下にエースを縛り付けるように言い放つ。
今まで黙っていたルフィが我慢出来なくなったかのように堰き止めていた涙を溢れさせた。

サボ〜〜〜〜〜〜〜!!!

ルフィの泣き声が森中に響き渡る。その泣き声を聴きながらダダンはくるりと振り返ると、そこには呆然と立ち止まったシアンがいた。
全てを聴いていたのだろう。顔は青白く、今にも倒れてしまいそうだ。

「シアン…アンタいつの間に起きてたんだい!?」
「…サボが死んだって、なに、それ…」
「シアン――」
「なんで、ッなんでサボが!! だって、うそだ、うそだぁ…!!!」

頭を掻き毟りながらぺたりと力無く座り込んでしまう。その震える肩にそっと手を置こうとしたドグラの手を、シアンは無意識に振り払う。

「……して、なんで、おかしいよ!! いや、いやァ…!!!」

錯乱状態の中、ルフィの泣き声も合わさって余計に混乱しているのか、シアンは戯言のように同じ言葉を繰り返していた。

「うえっ…ふ、ぁ、ぁぁあっ…! ……ど、してっ…どうしてみんな、シアンをおいてくの…!」

やっと、やっとギャバンが死んだ悲しみが癒えたはずなのに。サボの死によってそれは増幅してシアンの心に戻ってきてしまった。
シアンはエースのように暴れず、かと言ってルフィのように泣き喚くわけでもなく、ただ視界に何も映さずにその場に佇んでいたのだった。





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