手紙と決意


次の日の朝、ルフィは夜通し泣いてまだ眠っていた。シアンも漸く落ち着いたようで、眠ったルフィを見たらそのルフィに寄り添うように布団に潜った。

「少しは頭が冷えたか? エース」
「……ルフィとシアンは?」
「ルフィは夜通し泣いてて…シアンも漸く落ち着いたようで、今寝てます」

そんな話をしていた最中、またドグラの慌てた声がその場に聞こえた。走ってきたドグラの手には一通の手紙が。

「サボからです…!!」
「え!?」
「あいつ、海に出る前に…手紙を出してたんだ」

その手紙には、確かに“コルボ山 兄弟へ サボ”と書かれていた。――紛れもなく、サボからの手紙だった。


「よこせ…!! もう町には行かねェよ! おれ達にだろ!? その手紙!!」

縄を解かれ、サボからの手紙を受け取ったエースは、小屋に戻ることなく一人山の中に入り、封筒から便箋を取り出す。
その手紙をエースは歩きながら読んでいた。


“エース、ルフィ、シアン。火事でケガをしてないか? 心配だけど無事だと信じてる。
お前達には悪いけど、三人が手紙を読む頃は、おれはもう、海の上にいる――。色々あって一足先に出航する事にした。行き先は…この国じゃないどこかだ…。そこでおれは強くなって海賊になる。
誰よりも自由な海賊になって、また兄弟4人どこかで会おう。
広くて自由な海のどこかで必ず!!
――それからエース。おれとお前はどっちが兄貴かな。
長男二人、弟一人、妹一人。変だけど、この絆はおれの宝だ。
ルフィはまだまだ弱くて泣き虫で、シアンは強がりで寂しがりやだけど、おれ達の弟と妹だ。よろしく頼む。”


手紙を読み終えた頃には、海の見える高台に来ていた。エースは一人で大粒の涙を流し、声が枯れそうになるほど泣き叫んだのだった。





ルフィは草の上でうつ伏せになりながら、サボの事を思い出していた。あの、四人で盃を交わした日の事を。
そのすぐ側で、シアンは膝をきゅうっと抱えて海を眺めていた。涙こそは流れていないが、その姿はまるで何かに堪えているようにも見える。
そんな二人の元へ、スタスタとやった来たのは――エース。彼はルフィに近づくと、またいつものようにその頭を拳で殴った。ルフィは「ウッ」と小さく唸り、麦わら帽子をぐっと握るだけで、文句も何も言わない。
エースはそんなルフィをちらりと見た後、こちらを見もしないシアンへと一瞬だけ目を向け、海を見た。

「いつまでそうやってるつもりだよ」
「「……………!!」」
「“中間の森”に隠していた財宝は全部失くなってた。結局サボは使わなかったんだ…。……だから、おれももう…別にいい。守れもしねェ財宝集めても仕方ねェ…」

報告のように淡々と話すエースに、ルフィは震える声を出した。

「……エース、おれは――」
「!」
……!!! もっと!!! 強くなりたい!!!

エースはルフィを見るが、顔を地面に擦り付けているルフィは知らない。

「………もっと!! もっと!! もっともっともっともっともっと!!! もっともっともっともっと!!! もっともっと!!! もっと強くなって!!! ……!! そしたら…何でも守れる。誰もいなくならないで済む……!!!」

シアンはルフィのその言葉を聴いて、くしゃりと顔を歪ませた。キリキリと胸が痛む。

「お願いだからよ…!! ………エースとシアンは、死なねェでくれよ…………!!!」

悲痛なルフィの声に、エースはまたルフィを殴る。その声は少し怒っているようだ。

いいか、覚えとけルフィ、シアン!!! おれは死なねェ!!!

力強いエースの強い言葉に、ルフィは起き上がりうん、と頷く。シアンも心なしか瞳が潤んできている。

「サボからもおれは頼まれてんだ…。約束だ! おれは絶対に死なねェ!! お前らみたいな弱虫と泣き虫の弟と妹を残して死ねるか!」
「……!! うん……うん……!!」
「……ッ………!」

とうとう、シアンもぽたぽたと涙を零した。口元を手で押さえて、嗚咽を止めようと前屈みになる。それでも漏れる泣き声は止まることはない。

「おれは頭が悪ィから、サボが一体何に殺されたのかわからねェ。…でも、きっと“自由”とは反対の何かだ…!! 自由を掴めずにサボは死んだけど、サボと盃を交わした、おれ達が生きてる!!!
だからいいか、ルフィ、シアン。おれ達は絶対に、“くい”のない様に生きるんだ!!!」
「……うん!!」
「っ……うん!」

漸く、シアンの返事が聴こえた。シアンはちょこちょことエースとルフィの間に入り込み、ルフィにぎゅっと抱きつく。ルフィもぐしぐしと目を擦り、シアンを抱きしめた。

「いつか必ず海へ出て!! 思いのままに生きよう!! 誰よりも自由に!!! それはきっと色んな奴らを敵に回す事だ。――ジジイも敵になる!! 命懸けだ!! 出航は17歳!! おれ達は、海賊になるんだ!!!」

海に向かって放たれたその言葉は、エース、ルフィ、シアンの、決意の表れだった。





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