嘆き、感じる“弱さ”


月日は流れ――「ゴア王国」。
世界政府の視察を終え――、
人々はまた全てを繰り返し――、
ゴミ山はまたゴミ山に戻った。
シアン達も修行を積み、三人とも逞しく成長していった。そうして7年後――。エース17歳、ルフィ14歳、シアン13歳。

「頑張れよー!! エース〜〜!!!」
「頑張ってねー! エースー!!」
「待ってろ、すぐに名を上げてやる!!!」

人知れず成長した海賊王の息子・エースは、コルボ山の海岸より静かに出航した。

「はは!! まだ手ェ振ってる!!」
「そりゃあ嬉しいからだよ!」
「まったく……、ガープの奴が何と言うか…」

村長の溜め息など、今は誰も聞いていない。コルボ山の山賊達は皆笑顔でエースを見送った。

「おれはあと3年!! “ゴムゴムの〜〜ピストル”!!!

昔とは比べ物にならないくらいの威力を放ち、硬い岩を粉々に砕いた。

「なー、俺の船に乗れよシアン!!」
「だから、何回も言ってるでしょ? 私はシャンクスの船に乗るの、ってか元々乗ってたの!」
「関係ねェよ! だっておれ、シアンと離れるなんて無理だ!」
「わがまま…。んー、そうだなぁ…ルフィが億超えの賞金首になったら仲間になるよ! シャンクスの船から降ろされるんだから、それくらいは強くなってないと困る!」
「言ったな! 約束だぞ!」
「ふふ、うんっ。ルフィか億超えの賞金首になったら、私が会いに行くから」
「おうっ!! じゃあシアンが一人目の仲間だな!!」
「ちょっと、まだ私は……あーはいはい。わかったよ」

嬉しそうなルフィを見て、訂正を入れる事が出来なくなったシアンは、諦めたように笑った。
――この約束が果たされる事など、今は知るよりもないのだが。





そして3年後――。
ルフィ17歳、シアン16歳。

「見送ってくれねェのか?」
「村長とマキノはよくても、フーシャ村の奴らがビビっちまうだろ。あたしらが山を下りたら……!! さっさと行っちまえ!!」

ダダンの言うことは正論だ。シアンはクスリと笑い、いつまでも意地っ張りな育て親を見つめた。

「じゃあみんな、今まで色々ありがとな!!」
「…そんな、照れるじゃねェか礼なんて!」
「ダダン!! おれ山賊嫌いだけどよ!!」
「うるせェクソガキ!!」
「お前らは好きだ!!」
「バカ言ってねェで早く出てけ!!! チキショー!!! どいづも゛コイヅも゛!!」

ルフィの素直な言葉にダダンはまた捻くれた言葉を返すが、目には涙が溢れていた。

ドーン島 ゴア王国の外れ――
『フーシャ村』(ルフィの故郷)

風車が建ち並ぶ村の港では、ルフィの見送りの為に村人達が大勢集まっていた。

「おい!! ウチの古い漁船使えよルフィ!!」
「いいんだこれで!! ここから始めるんだおれは!!」
「ボートってお前〜〜〜〜!!」

それまで静かに見ていたシアンが口を開いた。

「ルフィ、行ってらっしゃい! 頑張ってね!!」
「おう! 絶対シアンを船に乗せるからな!!」
「楽しみに待ってる!!」

あの日交わした約束が果たされるのは、一体いつになるのか。それでも二人には忘れない自信があった。
ルフィはシアンの返事に満足気に頷いて、空を見上げた。

サボ〜〜〜〜!!! 見ててくれ!!! 俺も海へ出るぞォ〜〜〜!!!

両腕を突き上げて、サボに向かって叫ぶ。こうやって何度サボに話しかけたことか、数え切れない。

「サボが1番…!! エースが2番目!! おれは3番目だけど負けねェぞ!!! 待ってろよエース!! すぐに追いつくぞ!!!」

ルフィのやる気が聞こえてきたシアンは、嬉しさから笑顔が溢れる。
もう、あの泣き虫なルフィはいないのだ。

「じゃ!! おれ行くからよ!!!」

港から離れ、数年前にシャンクスの腕を食いちぎった因縁の近海の主を一撃で倒したルフィ。

「よっしゃ行くぞ!!! 海賊王に――おれはなる!!!!」

――ルフィが出航した翌日。
シアンも身支度を整えて出かける準備をする。

「…それじゃ、私も行ってくるね!」
「あーあー、さっさと行っちまえ!!」
「あ、ダダン。私もね、山賊は嫌いなんだけど…ダダン達は大好きだよ!! ここまで育ててくれてありがとう!」
「うるせェ!! 早く出て行けこのヤローが!! 怪我すんじゃないよ!!」

そろそろダダンの涙も枯れ果てるんじゃないか、というくらい涙に濡れたダダンの顔に笑い、シアンも想い出深いフーシャ村の港へ向かった。
そこには既に、〈赤髪海賊団〉副船長のベン・ベックマンがいた。

「久しぶり、ベックマン!」
「相変わらずだな。変わりないようで良かった」
「ふふっ、ベックも変わってないよ」
「あのお頭と一緒じゃあ変わるに変われねェさ」
「それもそうだ」

冗談を交えながら船に乗る。そして此方へ視線を向けてきていた村人達に、シアンは声を張り上げた。

「長い間、お世話になりました! ありがとうございました!」
「っシアン〜〜!! 辛くなったらいつでも帰って来いよォ!!」
「シャンクスさんによろしく伝えておいてくれ〜!」
「はい! それじゃあみんな…行ってきます!!!」

少し小さな船が動き出す。最後まで手を振り続けたシアンは、目の前に広がる大海原を目に焼き付けた。

「…まっててね、三人とも…!」

必ず、追いついてみせるから。

「私は、もう負けない!!!」





現在――“凪の帯カームベルト”『女ヶ島』。

兄・エースは死に、ルフィは泣いている。

「ルフィ君…」

ジンベエの涙声でさえ、もうルフィの耳には入らない。ルフィは目を手で押さえて悲痛な声をもらした。

「何が…海賊王だ…!!!」

膝をつき、体中に包帯を巻いたルフィは、海に出て初めて言葉に出した。

おれは!!!! 弱いっ!!!!


その頃、シアンもシャンクスの前で同じ様に泣いていた。

「シアン…」
「ッ、何が…もう負けない…だよ……!!」

とめどなく流れる涙は次々に地面に模様を付けていく。

私は!!! 弱い!!!

幼き頃に1人目の兄を喪い、
そして今回、2人目の兄を喪い、
残された弟と妹は、互いの弱さを改めて目の当たりにしたのだった。





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