泣き虫兄妹素直になれ


シャボンディ諸島近海海中――…。

「海面がもうあんなに遠い…!!」
「絶景だ!! 潜水艇でもこんなワイドな窓はつけられねェもんなァ!!!」
「沈んでくぞ〜〜!! どんどんどんどん!! 本当に水入んねェのか〜〜!? 心配だ!!」

ロビン、フランキー、チョッパーが周りを見ながら感嘆の声(一部不安の声)を上げている。それに続いてナミ達も次々に思い思いの言葉を口にした。

「シアンもこっち来いよ!」
「………! ッうん!!」

〈麦わらの一味〉の中で一人だけ魚人島に行った事のあるシアンは、そんなみんなの反応を遠目で見つめていると、ルフィが興奮したようにシアンを呼ぶ。
久しぶりに兄から名前を呼ばれ、シアンはぐっと込み上げる涙を堪えながらルフィに近寄った。

「…やっと、会えた…!」

ルフィはシアンの背に腕を回し、震える声でそう言った。周りではしゃいでいたクルー達もルフィとシアンへと目を移す。

「…ルフィ、今まで女ヶ島にいたの?」
「あァ、ハンコック達とレイリーに世話になったんだ! シアンはどこに居たんだ?」
「私はシャンクスの所だよ。たまに白ひげのとこにも居たかなぁ…。私も、たくさんの人に世話になったよ」
「おれも白ひげのおっさんとこには世話になったな…、いい奴だったな、あのおっさん」
「白ひげは海賊王を目指してたけど…、ゆったり航海してたのには訳があるんだよ?」
「ワケェ?」
「うん! …家族と、少しでも長く一緒に居たい、今のままで。…ずっと前にそう言ってた」
「…そっか」

もう、それは消えてしまったけど。それでも白ひげの意志はマルコ達が受け継いでいる。側にいて改めて〈白ひげ海賊団〉の芯の強さを感じたシアンは、これからも衰える事はないんだろうとクスリと笑った。

「…シアン」
「……ルフィ」

ルフィに名前を呼ばれるが、逆にシアンもルフィの名前を呼ぶ。
口元に浮かべていた笑顔は消え、その瞳からはぽたぽたと涙を流していく。そんなシアンを見たナミ達は、皆悲痛な顔をしていた。

「頼むから…! ルフィは死なないで…っ…!!」

それは、幼い頃にルフィがエースに言ったセリフと酷似していた。言われたルフィも瞳に涙を浮かべ、抱きしめる腕の強さをぎゅっと強めた。
ナミ達はそこで初めてルフィの涙を見る。あの強いルフィが泣くなんて、と思いながら。

「…シシシッ! …いつまで経ってもシアンは泣き虫だな!!」
「ふふっ…ルフィだって泣いてるじゃん…。私達二人とも泣き虫なんだよ」
「それは聞き捨てならねェぞ!! おれはもう泣き虫じゃねェ!!」
「どの口が言ってるのさ! 今泣いてるじゃん!」
「シアンだって泣いてるだろ!!」
「これは! あっ…汗!」
「汗ェ〜〜? 嘘つきだな!!」
「う、嘘なんかじゃ――」
「はいはい止めなさい!」

果てしない言い合いを止めたのは、我らが番長ナミ。ごちん! と、痛そうな音を響かせながら二人の頭をグーで殴った。
現に二人は痛そうに頭を抑えて悶えている。

「ナミ痛ェよ〜〜!!」
「頭が割れる…!」
「くだらない言い合いもそこまでよ! ほら、素直になりなさい二人とも」
「「………」」

ナミに促され、ルフィとシアンは互いに顔を見合わせる。そして…――。

「「ウワァァアアアン!!!」」

二人同時に大声で泣き出した。ぼろぼろと玉のような涙が互いを濡らす。ぎゅ、とどちらからともなく抱きしめ合い、その反動で二人とも被っていた帽子がぱさっと床に落ちる。
特に、エースのテンガロンハットを視界に入れた二人は、更に泣き声を強めた。

「ルフィ、ッルフィ!」
「シアン…!!」
「え、エース、が、ッ居なくなっちゃったよぉ…!! おに、ちゃんが、ッ、ウァァ、ァア…!!」
「…っ…頼むから…! シアンは、死ぬな…ッ!!」

四人、居た。盃を交わしたのは四人なのに――。
今ではもう、二人だ。

「おれは、海賊王になるぞ、シアン!!」
「ッ……私は、もう負けないよ、ルフィ!!」

まだ涙に濡れる瞳で互いにそう言い合えば、二人は幼いあの頃のように笑いあった。
――もう、二人だけど。

サボもエースも、私たちが前に進まなかったらきっと怒るよね。
だから、前に進むよ。
ルフィと、ゾロと、ナミと、ウソップと、サンジと、チョッパーと、ロビンと、フランキーと、ブルックと。
だから、どうか見ていて。――パパ、ママ、――ギャバン。





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