厄介ごとはごめんです


「ハァ…ハァ…」
「ハァ、1年で…病気が治るって? ハァ…何の病気だ? みんな病人には見えねェけど…!!」

走りながらチョッパーが子供達に尋ねる。子供達はしんどそうに顔を顰めながらも突然自分の身に起こった出来事を話した。

「ハァ…お父さんとお母さんから病気を治す様頼まれた人達・・・・・・に…ここに連れて来られたんだ!」
「――じゃあ、ここへは…両親が行って来なさいって?」
「ううん。家の外でその人達に突然そう言われて、そのままここへ…。お父さんやお母さんにうつるといけないからって。『行ってきます』も言えなかった…」
「(あり得ない。誘拐のにおいがぷんぷんする…!!)」
「(やっぱり病気じゃなかったんだ…! だとしたらここは、何かの実験施設…?)」

子供達の話にナミとシアンは心の中でそれぞれ思う。チョッパーだけは「よっぽどの大病かな」などと素直な心で受け止めていたが。
そうして走っていると、前が行き止まりになっていた。もう引き返すこともできない状況に、チョッパーがその扉に向かって飛びかかった。するとボカン! と派手な音が響き、鍵が壊れて扉が開いた。

「開いた!! ハチャ〜〜〜!!」
「わー、すごいたぬきちゃーん!」
「パワフルになったわね」
「やるじゃんチョッパー! すごい!」
「エヘヘ! タヌキじゃねェよ!!」
「でも今タヌキみたいだよ」
「本当だ!!」

そんな話をしながら中に入ると、まさしく極寒だった。ヒュオォォ…と寒さ特有の音までする。
チョッパーにとってはちょうどいい気候みたいだが、子供達やシアン、ナミにとってこの寒さは常識はずれだった。特にナミは服なんて着ておらず、ビキニだけだ。寒さを通り越して「痛い」と感じているはずだ。

「あ!! 見えた、扉が!! 進みましょ、行き止まりじゃない!!」
「さ、さむい……」
「本当だ!」

一刻も早くここから出たい一心のナミは、先にある扉をすぐに見つけて走り出す。その後にシアン、チョッパーも続こうとするが、女の子がシアンの腕をぐいっと引っ張った。

「え、」
「お姉ちゃん!! ここやだ、こわいよ!!」

目を潤ませ、シアンに覆いかぶさるように女の子は抱きつく。思ってもみなかったことにナミは驚き、とりあえずと足を止める。

「どうしたの!? みんな!!」
「この道、初めてここへ来た時に通ったの!」
「ホント!? じゃ、きっと出口に通じてる!! 相当寒いけど!! 我慢して!! 早く!!」

寒さで身体を動かすナミは必死に子供達を説得する。そんな中、子供に抱きつかれてほんの少しあったかくなったシアンは、ふと周りを見渡した。

ッ!!? な、な……っ
「だって…まわりに…」
「? 周り?」

わなわなと震えながらナミの名前を呼ぼうとするシアン。けれど女の子の言葉通りにナミも周りを見渡してしまった。瞬間、ナミはシアンと同じようにガタガタと震えてしまう。

!!?
「え〜〜!!! 何だこれ〜〜〜!!?」
「この道、凍った人達がいて!! こわいの!!!」
「こ、こ、凍った人達って…こ、ここで氷漬けにされてた人達の事だったの…!?」
「何コレ……氷づけの、死体!!? 上にも下にも!?」
「ギャ〜〜〜!!!」

ナミとチョッパー、シアンはあまりの恐怖にガタガタブルブルと震える。ナミとチョッパーは二人で抱き合って目を回しているが、シアンだけは子供に抱きつかれていたためそれが出来ず、ただ一人で目を回していた。

「い…い、い…!!!」
「「いやァ〜〜〜〜!!!」」
「あ〜〜!! お姉ちゃん達待って〜〜!!」
「ちょっぱ、なみ、まっ待ってェェ!!!」
「置いてかないで〜〜〜!!!」

わああああ! と足が止まっていた子供達も、ナミ達が猛スピードで走って行ったため、なりふり構わずついて行った。
女の子に抱きつかれていたシアンも必死に足を動かしたのだった。





「ひ、ひっひどいよナミ!! 置いてくなんて!!」
「ごめんってば!!!」
「恐かったよ〜〜!! 氷った人達〜!!!」
「え〜〜〜ん!!」
「ちょ、つぶ、潰れるから!」
「シアンお姉ちゃん〜!! こわ、恐かったよ〜〜!!」

走りながら置いて行ったナミに泣きながら「ひどい!」と言うシアンに、子供達は名前を呼びながらのしかかる。どうやら走っている途中で名前を教えたらしい。

「でも見て、ほら!! 扉よ!! ここから出られる!!」
「やった〜〜〜!!!」
「うぇっ、うぇ〜〜ん!!! もうやだァ〜〜!!!」
「シアン大丈夫か? どっか痛むのか!? ちょっと待ってろ、もうすぐ出口だからな!!!」

未だ泣き叫ぶシアンに、チョッパーは怪我でもしたのかと心配する。けれどチョッパーは忘れていた、というか知らなかったのだ。
シアンが泣いている理由。それはひとえに泣き虫だからだ。

「ハチャ〜〜〜!!! 外だ〜〜!!!」

チョッパーの言葉通り、蹴破った扉の向こうは外だった。だが、忘れてはならない。外が極寒の地だということを。

「外…いや〜〜寒〜〜〜い!!!」
「! “麦わらの一味”!!

ナミはビキニ姿のせいで一番寒がっている。そんなナミに気づいたのは海軍『G-5』の大佐、たしぎだった。

「やったぞーー!!!」
「建物を出たぞ!! おうちに帰れる!!!」
「パパとママに会える〜〜!!!」

子供達も大喜びだ。その後も後ろから追いついてきたフランキー達も出てきたが、なぜかテンションマックスなフランキーは歌を歌いながら首を左右に振っている。それに乗る子供達は楽しそうにしているが、サンジと生首男だけはすごく恥ずかしそうに口をつぐんでいた。

「う、うぅぅ…外…外だ…明るい、寒いよ〜〜っ!!!」

そしてシアンも泣きながら出てきたが、そのあまりの寒さにまた涙がポロポロ落ちる。涙腺はもう崩壊状態だ。

「あ〜〜!!! あんた見覚えある!!」
「そうだ、シャボンディにいた奴だぞ!!」
「………………」
「まさか子供達閉じ込めてたのあんた!!? この外道!! この子達返さないわよ!!」

ナミの言葉にシアンはぐすぐすと目を擦りながら見た。潤む視界の中、ぼんやりと見えたローの姿にシアンは目を見開いた。

「……!!! どこの極悪人かと思えば…!! てめェは――スモーカー!!! そしていつものカワイコさーん!」

いつも通り暴走しているサンジ。しかし、たしぎは子供達がいることなど知らなかったらしく、戸惑っている。
海軍がいることは全くの誤算だった。サンジは方向転換して急いでまた中に戻るように指示する。

「急げ!! ガキ共、裏に回れ!! 裏口くらいあんだろ!!」
「「わあああ〜〜!!」」

子供達、しかもサイズは巨人族並みときた子たちを連れて移動するのは骨が折れる。大きな的を持って動いているのと同じだ。たしぎ達はすぐに刀を抜いて捕らえようと動くが、それを見たローはどこか焦った様子で右手を構えた。
一人涙を拭いていたシアンはハッと気づき、ザザザッと駆けていた足を止めて刀を構えようと腰に手を当てた。が、今現在刀がないことを思い出し、大きく舌打ちをする。

ROOMルーム”!!!

――ブゥー…ン!!
ローの望む場所を中心に、円状の膜のような物が張られる。

“タクト”

――グイッ
スッと伸びた右手の人差し指が上を向く。その合図に従って、ズズズズ、と宙に浮いたのは海軍の軍艦だった。
大きな大きな軍艦、それから河底も一緒になって海軍達の頭上へと浮かび、止まる。

「「「!!!?」」」
「うわああああ〜〜!!!」
「軍艦が…!! 宙に浮いたァ〜〜〜!!!」
「何だこりゃァ〜〜!!!」

騒ぎ立てる海軍。それもそうだ。なにせ自分達の乗ってきた軍艦がこんな事態を引き起こしてしまうだなんて、思ってもみなかったのだから。

「お前ら、もう島から出すわけにはいかねェ…。人がいねェと言った事は悪かったよ……!!!」

もうその顔に焦りなんてものは消えており、ただ冷徹な表情があった。
チッ、 とシアンはまた舌打ちをした後、銃を二丁とも手に持って臨戦態勢を取った。





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