旅行に行くなら


「ゾロが……消えた………!!」
「てめェゾロに一体何しやがったァ!!! 今…たった今目の前にいたのに!!!」

ウソップの戸惑いと怒りが、声となってバーソロミュー・くまを襲った。しかしくまは平然と周囲を見渡し、シアンを視界に入れる。それと同時に、シアンはくまに刀を振りかざした。

――ガキィイン!!

「なんで…なんでこんなことしたの!」
「やめろ! 逃げろシアン!!」
「答えてよくま! 虎乱こらん!!」

走りながら片手で刀を持ち大きく振りかぶる。覇気を纏わせたシアンはバーソロミュー・くまに斬ろうとするが、既に目の前にくまの掌が迫ってきていた。くまの手に刃が当たり、そこから血が噴き出す。それでも彼はシアンに手を近づけるのをやめなかった。

「なっ……」
「逃げろシアン!!」
「…もう二度と会うことはない。すまない、シアン」
「え……どういう――」

いつも無表情なくまの顔が、シアンにはどこか悲しげに映った。どういう意味かと尋ねる間もなく、くまの手はシアンの頭にふわりと乗る。
そしてシアンは、消えた。くまの寂しそうな、悲しそうな瞳と交差しながら。

「――はぁ…。こんなことになるなんて…。まだ仲間になってから1日も経ってないよ…。それにしても…まさかくまはあの島から私たちを逃がした? いやそんなまさか、…でもくまは革命軍だったよね…。…あながち有り得るか…」

ヒューンと空を飛びながらシアンは一人ブツブツと呟く。悲しいが、咎める者は誰もいないのだ。

「てか、くまは私をどこに飛ばしたわけ…? 遠い!」

どこに飛ばされてもやって行くしかないのだが、シアンはある人物のところには行きたくなかった。――ミホークだ。彼は師匠で、そりゃあ手ほどきをしてもらえれば自ずと刀の腕は上がるが、もう二度とあの地獄のような日々を味わうのはごめんだ。
その後も着きそうな様子はなく、シアンは少しの不安を抱えながら、いつの間にか寝てしまっていた。

――ベコン!! ………どさ…

「うわあ! 何だァ?」
「親父! あれ!」
「グララララ…あのくま野郎の仕業だァ……ん? そいつァ赤髪のとこの奴じゃねェか」
「傷だらけだねぃ…どうする、親父?」
「……船に運べ! 治療してやれ!!」
「了解!」




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