Halloween Party

 ホグワーツに帰ってきて1ヶ月。懐かしさに身を浸す余裕もなく、フィーは忙しい日々を送っていた。授業には問題なくても、いつどこで自分がボロを出すかわからないから、常に気を引き締めておかないとポロっと「昔と変わらないね、あの先生」とか言ってしまいそうになる。
 そんな彼女だが、今日ばかりは気が緩んでも仕方がないと誰かに言い訳をした。鞄に魔法をかけてたくさん物が入るようにし、そこにお菓子を詰め込んだ。

そう、今日は待ちに待ったハロウィンである!

「今日は早いわね、フィー」
「ハーマイオニーっ! えへへ、早起きしちゃった。……ではさっそく、トリックオアトリート!」
「はい、どうぞ」
「持ってた! ハーマイオニーなら忘れてると思ったんだけどなあ」
「残念ね。それじゃあ、トリックオアトリート?」
「もう……、はいこれ。腕によりをかけて作ったアップルパイ!」

 かわいくラッピングされたお菓子に、ハーマイオニーはとても喜んだ。「ありがとう! とってもかわいいわね」素直な言葉を贈ってくれる友人に頬を染めながら、結局悪戯を仕掛けられずスゴスゴと寮から出た。

「(だめだ、やっぱりハーマイオニーには悪戯出来なかった……!)」

 涙を飲みながら歩いて大広間に向かっていると、「「トリックオアトリート!」」といつもより明るい声が両サイドから飛び込んできた。

「おはよ、フレッド、ジョージ!」
「「おはよう、フィー!」」
「で? トリック?」
「それともトリート?」
「もちろんトリート! はいこれ、どうぞ」

 鞄からハーマイオニーにも渡したアップルパイを取り出し、それぞれに手渡す。見た目だけでも美味しそうなお菓子に、ぎゅうぎゅうと惜しみないハグをするフレッドとジョージ。それで照れるようなフィーではないが、久しぶりに他人と、しかも男の子とここまで密着したせいか、心臓がドキドキとうるさい。
 そんな気持ちを紛らわすように、「で、トリックオアトリートっ!」とハロウィンの決まり文句を口にした。もらったアップルパイを直し、恭しく紳士の礼の形を取った二人は、同じように鞄からお菓子を取り出してフィーに差し出した。

「うわぁ! 何これ、チョコレート? しかもこのロゴ……ハニーデュークスだ!」
「期間限定で売っていたチョコレートだ」
「口に入れればたちまちとろける、魅惑のチョコレートっていう謳い文句で売られててさ」
「「これは絶対食べさせてやりたくて!」」

 歯を見せて笑う二人にありがとうの意味を込めて、今度は自分から軽くハグを返すと、さらに強い力で抱きしめられた。まだホグズミードに行くことが許されていないこの年齢では、ハニーデュークスのお菓子は正に魅惑の一品。嬉しくないわけがない。

 それからフィーは双子と別れ、道行く人に「トリックオアトリート?」と聞きまくった。おかげで鞄の中はお菓子でいっぱいだ。もちろん用意を忘れた生徒にはとびっきりの悪戯をプレゼントしておいたが。
 対象は教師も例外ではない。授業が終わったタイミングを見計らって教室に突入し、ハロウィンの決まり文句を突きつける。授業終わりで、しかもフィーがまさか授業をサボってまでこんなことをして回るなんて思ってもみなかったスネイプやマクゴナガルは、焦ってお菓子を探したが教室にそんなものがあるはずがない。
 「なら、悪戯だね!」と心底楽しそうな声でそんなことを言われれば、当然警戒し、杖を抜いてしまう。が、速さはフィーの方が上だった。ローブのポケットに忍ばせておいた悪戯グッズで、見事“トリック”を果たしたのだった。

 丸一日このようにハロウィンを満喫していたフィーだが、そろそろ夕食の時間が迫っていた。授業が終わって教室から流れ出てくる生徒に紛れながら大広間に向かう途中、ハリー達の後ろ姿を見つけてフィーは急ぎ足で背中を追いかける。ハーマイオニーにはお菓子をもらったが、ハリーとロンにはまだだったのだ。

「ハーマイオニー……――」

 ハリーとロンの少し後ろを歩いている友人に声をかけようとした時だった。

「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」

 今の声は、だれ?
 フィーは中途半端に上がった腕をそのままに思わず固まると、目の前の友人はハリーとロンを追い越して去ってしまった。

「今の、聞こえたみたい」
「それがどうした? 誰も友達がいないってことはとっくに気がついているだろうさ」

 今度こそ声の主は紛れもなく友人二人だと認識することが出来た。フィーは立ち止まっていた足を無理やり動かし、ハーマイオニーを追いかけるようにハリーとロンを追い越した。

「あっ、フィー……っ」
「っ――――」

 肩に手が触れ、思わずフィーは払い除けた。その手はハリーのものだったが、彼女は構わず睨みつけた。

「あの、今のは、その」
「フィーだってうんざりしてただろ?」

 俺には全部分かってますとでも言いたげなロンの態度に、怒りが喉元まで込み上げてきたが、息を吐くことでその怒りを鎮めた。

「わたしは、ハーマイオニーが大好きだよ」

 それだけ伝えると、フィーは二人に背を向けて今度こそハーマイオニーを追いかけた。

 昔の自分なら、怒りのままに酷い言葉を吐き捨て、呪文を口走っていたかもしれない。広い廊下を歩きながらそんなことを思い、苦笑する。そういえばあの頃はよく大喧嘩していたな、と。

「ハーマイオニー、どこ行ったんだろう……」

 しかし今は懐かしんでいる場合ではない。せっかくのハロウィンパーティーだ。ホグワーツで迎える初めての楽しい祝祭をあんなことで台無しにして欲しくないし、フィー自身がハーマイオニーとこの日を過ごしたいのだ。
 目的地が定まらず右往左往していると、前からパーバティ・パチルとラベンダー・ブラウンが歩いてきた。ひとまず彼女達に聞こうと、フィーは二人を呼び止めた。

「ごめん、ちょっといい?」
「あら、フィー。どうしたの?」
「今日はすごいご馳走らしいわよ! フィーの大好きなデザートも、たくさん並んでるんじゃない?」
「それはもちろん楽しみなんだけど、今ハーマイオニーを探してて。二人は彼女を見なかった?」
「ハーマイオニー? そういえばさっき、泣きながらどこかへ行っていたわね……」
「多分、トイレじゃないかしら」
「トイレ………、わかった! ありがとう!」

 二人に手を振り、フィーは急いでトイレに向かう。ご馳走やデザートはとっても魅力的だけど、あの子がいないと美味しくない。美味しいご飯は、好きな友人と一緒に食べた方がもっと美味しいから。

 目的のトイレに到着すると、息を整えて中に入る。すると個室トイレが一つだけ鍵が掛かっていた。微かにトイレに響くすすり泣く声を聞きながら、フィーは扉に背を預けた。

「ハーマイオニー」
「っ、っ………フィー…っ、どっどうしてここに……」
「ふふ、ハーマイオニーに言いたいことがあって」
「言いたいって……それ、あ、後でにしてくれない…?」
「だあめ。今言わないと」

 扉から離れて、今度はこつんと額をつける。優しく、甘い声で今日何度も言った台詞を口にした。

「トリック オア トリート」

 まさかここで、しかも二回も言われるとは思わなかったらしいハーマイオニーは、驚いて顔を上げた。

「なに、言って……。そっそれに、もうお菓子はあげたわ!」
「えー? 誰がお菓子をもらえるのは一回だけって決めたの?」
「それ、は……。っ、とにかく、お菓子ならまた後であげるから、今は一人にして! ……おねがい……っ」
「やーだ」

 我儘な子どものような台詞を吐くと、杖を扉に向けて「アロホモーラ開け」と呪文を呟く。すると閉まっていた扉が開き、中には泣き崩れているハーマイオニーがいた。目元を赤くし、ぐしゃりと顔を歪めている友人に優しく微笑み、そっと手を伸ばす。赤くなった目元をあまり擦らないように涙を拭うと、「一人になんてしてあげない」と彼女の望みとは真反対のことを言ってみせた。

「なんで、どうして……。どうせフィーだって、こんな頭でっかちで、勉強するしか能のない面倒な女が友達だなんて、いやでしょう?」
「なにそれ、誰のこと?」
「わっ私のことよ!」

 わざととぼけると、ハーマイオニーはぐいっとフィーの胸元を押して身体を離した。

「そんな人、私の知ってるハーマイオニーじゃないんだけど?」
「う、うそよ!」
「どうしてハーマイオニーが、自分で自分のことを否定するの」

 ハーマイオニーの癖っ毛が広がっている。そのふわふわとした髪の毛を撫で、迷子に言い聞かせるように言葉を続けた。

「ハーマイオニーは、勤勉で、努力家で――とっても素敵な女の子だよ」
「そんなの、信じられないわ……!」
「じゃあハーマイオニーが信じられるまで、何度だって言ってあげる」

 離れた距離を埋めるようにぎゅっと彼女を抱きしめた。

「私の親友さんは、きっと魔法界一の魔女になる素敵な女の子だよ」

 ハーマイオニーは熱い涙が頬を伝うのを感じ、震える手でフィーを抱きしめ返した。