※読みやすさ優先のため、今剣の語りに少しだけ漢字を使っています。


 場がシーンと静まり返った。にっかり青江は予想通りの反応を得たのか、満足げににこにこ笑っている。彼の隣にいた獅子王が真っ青な顔をして「冗談、だよな……?」と訊ねるも、答えは返ってこなかった。ゆったりと時間をかけ彼が行灯を消し帰ってきても、未だに空気は冷え切っている。薬研藤四郎もまさかなあと、頭の中で独り言ちた。まったく、にっかりと笑った女の霊を斬ったことが名前の由来、だなんて言うものだからかはわからないが、彼の語り口は肝を冷やされるものがある。
 用意されていた行灯の半分が消えたことにより、向かいの相手の顔が判断しづらくなる程度には暗くなっていた。夜だというのに蝉の鳴く音が外から聞こえる。それがより一層、部屋の不気味さを際立たせていた。さて次は……審神者の声に岩融の胡坐の上でうつらうつら船を漕いでいた今剣が手を上げた。鮮血を流し込んだように赤い目がらんらんと夜の闇に光っている。
「おもいだしたとっておきのがあるんです!」
 自慢げに自分の胸をトンと叩く今剣。全員の視線が彼へと注がれる。
「ええと、これはですね、ついせんげつぼくが」
「また体験談なのか!? 勘弁してくれよ、おい……!」
「兼さん、うるさい」
 項垂れる和泉守の口元を手で押さえながら、堀川国広はちらりと審神者の様子を伺う。うっわー……これはこれは怖い目を向けておられで。くわばら、乾いた口の中で唱え、短刀が紡ぐ話を待った。

第五十三話 今剣「本丸で肝試し」

 みんなはしっていますか、ぼくたちのすむ本丸にうわさがあるのを。ひとつきにいちど、せいふのやくいんが主さまをたずねるじゃないですか。たまたま薬研がえんせいにでているとき、ぼくがきんじをまかされていたんです。きゃくまにとおされた彼らに、これもきんじのつとめだとお茶をだそうとしたときに「なあ、お前この本丸に開かずの間っつーのがあるの、知ってるか」きこえました。あかずのまっていうのは、ええと……そう、それです石切丸! ふだんはあけられることをきんじられている部屋、またはとくべつなばあいのほかしようをきんしされている部屋のことです。なんとなく入るきかいをのがしてしまったために、ぼくはしょうじの外でふたりのかいわをぬすみぎきすることにしました。あかずのまはふつうに本丸ですごしているなら、めったにみかけないらしい。とくべつななにかでかくされていて、審神者にも刀剣にもふつうはめにはいらないらしい。その部屋のなかはまっくららしい。ということがわかりました。
 ごじつぼくはその、あかずのまにきょうみを持ったため、さがすことにしました。このひろい本丸のすみからすみまでを。さいわい主さまはそのひよろずやにようじがあったらしく、あけており、刀剣たちもひばんのものがすうにんのこっているだけです。あさのごじからはしりまわってさがすも、彼らのいっていたとおり、それらしい部屋ひとつみつかりません。さいしょはきあいじゅうぶんにかけまわっていたのですが、夕日がにしにおちるころにはつかれきって、ごろんと廊下にころがってしまったのです。あーあ、いちにちをむだにしてしまったなあなんておもって、首をみぎにむけたしゅんかん。ぞくりとせすじがひえました。ろうかのつきあたり、さいごの部屋のとなりにもうひとつ部屋がある。ぼくはたちあがって、すぐさましょうじに手をかけました。おもくもなくかるくもなく、ふつうのしょうじとかわりません。かんぜんに、こうきしんの方がまさっていました。いっぽふみいれれば、ひだりよこのかべにもじがかいてあります。
「わたしは このさきの へやに いるよ」
 たしかにめをこらせば、おくのほうにまた、しょうじがつづいていました。ぼくはひっぱられるみたいに中へとすすんでいきます。つきあたりにまたぶんしょう。ふしぎなことにまっくらやみの中でも、その字はしっかりとみえました。
「わたしは ひだり に いるよ」
 すこし……すこしだけこわくなりました。けれどもひるがえって部屋をでるゆうきもありませんでした。そのままひだりにすすめば、ふたつの部屋のまえにたどりつきました。かべには同じように字がかいてあります。
「あたまは ひだり からだは みぎ」
 ぼくはたくさんかんがえてから、みぎの部屋にはいりました。つきあたりのかべに
「わたしの からだは このしたにいるよ」
 しせんをおとすと「ひだりの へやから わたしの あたまが もうすぐ くるよ」。ぼくははんきょうらんのごとくもどり、あかずのまからとびだしたんです。……ええ、そうですよ。三日月はさすがにするどいですね。さいごのはね、かかれていたんじゃないんですよ。そこによこたわる、みおぼえのある、とうかいされた……もうやめましょう。だって、ほらまた、あっちにあかずのとびらが。

(出典:洒落怖「廃墟で肝試し」より)


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aeka