「ちょっと待ってね〜!津美紀これお願いします!」
「はーい!」
今日、十二月三十一日は伏黒一家の大黒柱、伏黒甚爾の誕生日である!早朝、土曜日なのに高専から連絡があり、十五時まで帰ってこない甚爾のために、母は朝からご馳走作り、三きょうだいは飾りつけに意気込んでいた。
8:30 a.m.
今朝、母に起こされ目を覚ました時、父に一番におめでとうを言おうと思っていたせらは起きたら布団にもリビングにも父はおらず、朝食を作っていた母に尋ねたところ、お仕事に行ったと聞き、大層項垂れた。
しかし、先に起きていた姉と兄がリビングで何やら黙々と作業していたので気になって寄ってみると、
「おねえちゃんなにしてるの?」
「これはね、お父さんのおたんじょうび会の準備だよ!」
「え!せらも!せらもやるーー!!」
「せら〜先に顔洗ってらっしゃ〜い!」
「はーい!」
お気に入りのぬいぐるみを手に持ったまま洗面所へ向かう。パシャパシャとお水で顔を洗うけど、タオルを準備するのを忘れてあわあわとタオルを引き出す。
「あらら、びちゃびちゃね〜大丈夫?」
「だいじょうぶ!たおるとるのわすれた」
「そっか!じゃあお顔拭いたらそのまま床も拭いてくれる?」
「はーい!」
せらが床を拭いてその間に母が歯ブラシと歯磨き粉を用意する。
「できた!」
「ありがとね〜カゴ入れたら歯磨きしよっか!」
「やるー!」
せらは最近自分で歯磨きをする練習を始めたのだが、上手になるたびみんなが褒めてくれるのが嬉しいみたいで、自分から歯磨きの練習をしたいというようになった。
「……ペッ、おかあさんしあげして!」
「はーい!……うん!上手になったね!」
「やったー!せらおねえちゃんにちかづいた!?」
「そうね!近づいたかも!お姉ちゃんになりたいの?」
「うん、ようちえんのともだちのさらちゃんがね、おとうとがうまれたんだって。だからね、じぶんのことじぶんでやるおねえちゃんになったのっておしえてくれた」
「そうだったの〜!」
「だからね、せらはおとうともいもうともいないけど、じぶんのことじぶんでできるおねえちゃんになりたいの!」
「あらそうなの!すてきだね!じゃあいろいろじぶんでやってみる?」
「いいの!?やりたい!」
「もちろん!まだまだ新人さんだからいつでもお助けしますよ〜」
「ほんと!?ありがとう!」
「どういたしまして〜!」
その後はせらの歯磨きの仕上げをして、うがいをさせリビングへ戻った。
先に座って待っててくれていた津美紀と恵にありがとうを言い、席に座って手を合わせ朝食を食べる。
「おねえちゃんとおにいちゃんなにつくってたの?」
「かべのかざり付けだよ!おりがみでわっかを作っていっぱいつなげるの!」
「たのしそう!せらもできる?」
「かんたんだからせらにもできるよ!お姉ちゃんも手伝うし!」
「ほんと!?やったー!ありがとう!はやくやりたい!」
「ごはんたべたらだよ」
「はーい!」
ごちそうさまをして先にせらと津美紀が歯磨きに行き、帰ってきた二人と入れ違いで恵と洗面所へ向かった。せらは津美紀に上手にできて褒めてもらったみたいでルンルンだった。
「おねえちゃん!せらなにすればいい!?」
「そうべ、お姉ちゃんがおりがみ切るからのりでこうやってつなげてください!」
「はーい!……こう?」
「そうそう!上手だね!」
「えへへ!せらがんばる!」
「うんありがとう!」
カラフルな折り紙を色が重ならないよう器用に繋げていく無意識なその行動が、せらのワクワクを物語っていた。
「ぼくもてつだう」
「ありがとう恵!じゃあこっちおねがい!」
せらとは別の輪っかの飾りを繋げていく。津美紀の役割が多い気もするが彼女は器用なもので二人を待たせることなくどんどんと細長の折り紙を作っていく。
「どう〜進んだ〜?」
「おかあさん!みて!じょうにできたよ!」
「わ〜!ほんとだね!綺麗!」
「おかあさんぼくも」
「恵もさすがだね!とってもいい色!津美紀もありがとう助かりました!」
「ぜんぜん!お母さんもあらいものありがとう!」
「んも〜!津美紀〜!!」
「わぁ〜あはは!お母さん苦しい〜!」
こんなにも親想いの可愛い子供がいるだろうか。いやいない()
津美紀にひっついていれば見せてくれた輪っかの飾り付けを置いてせらが恵を引っ張って私と津美紀の間に割り込んでくる。せらの行動はもちろん、恵も控えめな笑顔でぎゅっとしてくれて二人とも最高に可愛い。
「今日お父さんね、お昼の三時に帰ってくるんだって!それまでに四人でお父さんにお誕生日プレゼント買いに行かない?」
「「いきたい!!」「いく」
「ほんと?じゃあもう少し飾り作ったら準備してお店屋さん行こう!」
「やったー!」
「みんなでいっこ決める?」
「それでもひとり一個でもいいよ〜!」
「わかった!」
「それじゃ後は折り紙で好きなの作ろう!」
「「はーい!」」「わかった」
津美紀が折り紙を切るのを手伝ったり、もう少し飾りの輪っかを作ったりして、ショッピングモールへ行く準備をする。よく行くショッピングモールはここから車で三十分。行き帰りの時間を抜いても十分時間はある。どうせならお昼ご飯もそっちで済ましてしまおう。そう決めてみんなで車に乗り、少し上達したせらのしゅっぱつしんこー!を合図に家を出発した。
「おとうさんなにがほしいかな!?」
「服とか?」
「わかんない」
「そうね〜なんだろうね!」
行きの時間で甚爾くんは何が欲しいのかについて盛り上がる。ウキウキな気分で話すせらと、笑顔で受け答えする津美紀に、あんまり表情に出さないけど真剣に考えている恵。思い思いに考えているその姿が愛おしい。多分甚爾くんはなにを選んでも喜んでくれるだろうけど、一生懸命考えてくれる子供達の気持ちを台無しにしないように私もちゃんと選ぼう。
「到着〜!」
「おかあさんありがとう!はやくいこ!」「「ありがとうっ」」
「いえいえ!そうね!ちょっと待ってね〜」
早くもシートベルトを外して待っていたせらを降ろし、お気に入りのリュックを持たせる。すでに降りていた津美紀と恵と合流し、ショッピングモールへと向かった。
「おねえちゃんみて!これかわいい!」
「わあ!ほんとだね〜!」
入って早速見つけた雑貨屋さんではせらが津美紀の手を引いてうさぎの絵が描かれているマグカップを指差した。甚爾くんのプレゼントを買いに来たけど、気に入るものを見つけてしまったらしい。津美紀はそんなせらを咎めることなく肯定してくれて優しいお姉さんだ。
「おかあさんこれはどう?」
「お!どれどれ?」
せらとは対照に恵みは目移りすることなく目的のものを探していく。真剣なその眼差しは父の前では恥ずかしがることはあれど、ちゃんと慕っているのだろう。こういう時に垣間見えるデレがなんとも可愛い。
そんな恵が持ってきたのは甚爾くんがよく使いそうな黒の靴下。うん。とても実用的だね。
「うん使いやすくていいね!他にも何かいいのがないか見てみよっか!」
「うん」
そのまま靴下を持ったまま店内を歩く。戻しはしないのね。ちょっと可愛い。いやだいぶ可愛い。
「お母さん、ペンはどう?お父さんの字とってもきれいだからもっとかいてほしい!」
「確かにお父さん字綺麗だよね〜うん!良いアイデアだ!」
次に入った文房具屋さんでは津美紀が少し大人なデザインのボールペンを持ってきた。自分ではあまり買わないけど実用的で、あると嬉しいもの。いい塩梅のものを持ってくる。さすがは津美紀だ。
「おかあさん!おとうさんにこれでおめでとうってかきたい!」」
「なるほど、いいね〜」
せらと恵が持ってきたのはメッセージカード。せらが持っているのは華やかなお花のデザインが施されたもので、恵のはオフホワイトのシンプルなもの。どちらも十枚入りだからどちらかにしたいな。
「いっぱい入ってるのね!少ないのはあった?」
「わかんない、でもこっちだよ!」
せらが先導してくれて後をついていくとやはり十枚入りが一番少ないようだ。
「せらが持ってるのか恵が持ってるのどっちかにしたいんだけどお願いできるかな?ごめんね」
「どれもかわいいからどれでもいいよ!」
「ぼくもちょっとみてもってきただけ」
「そっかそっか!じゃあお母さんが二つを手に隠すから二人でどっちにするか決めてくれる?」
「わかった!どっちにする?」
「じゃんけんしてせらがかったらみぎでぼくがかったらひだりは?」
「おにいちゃんてんさい!そうしよ!」
そうして行われたジャンケンの後、恵が勝ったので左の手のひらにあった花柄のカードに決まった。
その後は服屋さんや小物屋さん、本屋さんなどを回り、それぞれプレゼントを決めた後、フードコートでマキドナルドを食べた。
「よし、それじゃあ帰りましょうか!」
「「はーい!!」」「はーい」
「それじゃあせらさんお願いします!」
「はい!しゅっぱつしんこー!」
帰りもせらの合図で出発する。気に入ってくれるかなとか、公園行ったらなにしようとかこれからの予定について盛り上がっていたらすぐ家に着いてしまった。
帰宅して手洗いうがいをしたらお誕生日会の準備を再開する。甚爾くんが帰ってくるまであと二時間。
「おかあさんおめでとうかきたい!」
「メッセージね!ちょっと待っててね〜」
いろんな色のペンと鉛筆、下書き用の裏紙を用意する。せらはまだ字はそんなに書けないから私が書いたものをなぞらせよう。それとテープね。プレゼントはもう包装してもらったからその上にメッセージカードを貼り付けよう。
「お待たせ〜!じゃあまずはこっちに練習しよう!」
「「はーい!」」「わかった」
机にペンを広げみんなに紙を配る。津美紀は小さい頃から字を書くのが大好きで小学生とは思えないくらい綺麗な字を書く。漢字はまだ習いたてで上手に書けないみたいで、今は漢字を練習している。習字の習い事もやりたいって言ったらやらせてあげたいな。恵は四歳の時に津美紀が字を練習しているのをみてから書き始めたのだけど、この子成長具合が半端ない。絶対甚爾くんの遺伝だわ。少ししか教えてないのに津美紀に教えてもらったのかどんどん上達してる。
「おかあさんおしえて!」
「はーい!まずはおかあさんが鉛筆で文字書くから上からなぞってみようか!」
「はい!」
せらは私が文字を書いている横からワクワクした顔で覗き込み、人懐っこい笑顔で、おかあさんじきれいだね!と言ってくれる。可愛すぎる笑顔に昇天しそうになるのを我慢して(我慢はしきれてないが)文字を書き終える。あ、いいこと思いついた。
「はいどうぞ!そうだせら、自分の名前は自分で書いてみる?」
「ありがとう!え!?いいの!?やりたい!!」
「もちろんだよ!じゃあまずはなぞる練習しよっか!」
「わかった!」
せらに十数回「おたんじょうびおめでとう」と書かれた紙を渡す。最初はペンを握ったせらの手の上から私が握り、誘導しながらなぞっていく。
「わあ!すごいすごい!たのしい!」
「それはよかった!」
数回それを繰り返した後はせら自身にやらせてみる。多分すぐに上手くはできないかもしれないけどまだ時間はある。
「むずかしい……」
「最初はすっごく難しいよね〜でも大丈夫!何回か練習したら上手になるよ!」
「が、がんばる!」
「うん!頑張れ!」
少し前までまんま!といって一人でご飯も食べられなかったのに、今では手も震わせながらもペンを持って真剣に文字を書いている。子供の成長は早すぎて逆に私たちが置いていかれる。少し切ないような思いが胸に膨らんだ。
「お母さん見て!きれいに書けた!」
「わ!ほんとだ!漢字も上手だね!」
「えへへ、ありがとう!」
「ぼくもかけた」
「お!恵も上手!綺麗だね!」
「本番いってもいいかな……」
「うん!行けると思うよ!数枚渡すから一番綺麗にかけたやつ使おう!」
「分かった!やってみる……!」
「うん!恵もカードに書いてみる?」
「うん」
「おっけー!それじゃあ……はいどうぞ!」
「ありがとう!」「ありがとう」
二人に三枚ずつカードを渡すとそれぞれ慎重に書き始めた。練習された裏紙を見返しても二人とも本当に上手だ。
「おかあさん!どう!?」
「お!上手になぞれてるね!」
「やったー!」
せらに渡された裏紙を見ると最初の方になぞったものからだいぶ上達していた。やはりこの子達は器用だ。
「よし!それじゃあお名前の練習しようか!」
「はい!」
「まずはさっきみたいにお母さんの書いたやつをなぞってみよう!」
「わかった!」
みんなが練習をしている間に書いたせらの字がひらがなで書かれている紙を渡す。段々と鉛筆の色が薄くなるように書いてみたので時間はかかるだろうけど形にはなるだろう。
先ほどのようにまずは私が手を添えて練習し、そのあとは一人でやらせてみる。一度経験があるからかさっきよりもスムーズに手が動いているので予定よりも早く出来るかもしれない。
「お母さんできた!」
「ぼくも」
「おー!二人ともとっても上手だね!それじゃあプレゼントにこのテープで貼ろう!」
「わ!かわいいー!」「きれい……」
「好きなの使ってね!」
二人に各々が選んだプレゼントを渡し、テープを机に置く。このテープはどれも手で切れるタイプなので二人なら器用に使いこなすだろう。
「おかあさんこれきれいにかけたよ!」
「お!ほんとだね!じゃあせらもこのカードに書こっか!」
「うん!」
あらかじめ私の文字が書かれたカードを数枚渡す。せらが気に入ったものを選ばせてプレゼントに貼る。よし、これでメッセージカードは終了だ!
「よし!みんな完璧だね!じゃあお片付けしましょう!」
「「はーい!」」「うんっ」
役割を分担して使ったものを片付け、ゴミを捨てる。一息して時計を見るともう時刻は十五時前であった。
「わ!もうそろそろお父さん帰ってくるね!」
「こうえんいく!?」
「行く行く!じゃあ公園行く準備をしましょう!」
リュックにタオルや水筒、その他諸々を詰め、準備を済ます。スマホを見ると甚爾くんから『もうすぐ着く』と連絡が来ていた。
「みんな準備出来ましたか!」
「できた!」「できました!」「うん」
「もうすぐ着くみたいだから待ってようか!」
「「「はーい」」」
しばらくみんなでお話しして待っていると玄関が開く音がした。音が聞こえた瞬間にせらが玄関へ走っていく。
「おとうさんおかえり!」
「ただいま」
「それとね!おたんじょうびおめでとう!」
「あぁ、そうだったか」
「「おかえりなさい!」」「おかえり」
「あぁただいま」
「おたんじょうびおめでとう!」「おめでとう!」「おめでとう」
甚爾くんがせらを抱っこしてリビングに現れる。まっさきにおめでとうと言えて満足げだ。にっこにこな笑顔がとても可愛い。
甚爾くんがせらをソファに降ろす。
「お仕事お疲れ様!何かすることある?」
「いやない」
「おとうさんこうえんいきたい!」
「あぁ」
「お父さんありがとう!」「ありがとう」
「それじゃあ行こっか!」
みんなで玄関を出て車で公園へ向かう。車で十分の場所にある公園は県の中でもまあまあ広い場所でいろんな遊具があったり、お花畑があったりする。冬のこの時間からだと暗くなるのが早いので長くはいられないが、十分遊べる時間はあるだろう。甚爾くんが運転してくれると言ったけど、子供達はみんなお父さんとお話ししたいみたいで、運転しながらでも話せるだろという甚爾くんを言いくるめて私が運転することにした。
買い物に行った時よりも格段に張り切った声でせらが出発の合図を言い、みんなで復唱しながら車を発進させた。
「おとうさんおとうさん!こうえんついたらたかいたかいして!」
「あれなにが楽しいんだ」
「わたしも!」「ぼくも」
「ふふっみんな大好きなのねやってあげて?」
「はぁ、ああ」
甚爾くんの高い高いありえないくらい高いもんね。私は絶対キャッチしてくれるってわかってても怖いよ。他の人たちに見られたら引かれるし。
他にも、せらを筆頭にあれしたい、これしてほしい、これやりたいなどと話しながら公園に到着した。
「とうちゃくだ!はやくいきたい!」
「はいはい(笑)大晦日だしやっぱり人少ないね〜」
「いっぱい遊べるね!」
「うん」
はやくはやく、と急くせらを甚爾くんが抱っこして、私が津美紀と恵と手を繋いで公園の入り口へ向かう。その間にも甚爾くんに片手で抱っこされたせらが遊具を見てはしゃいでいた。
「おとうさん!たかいたかいして!」
「ほらよ」
「わーーー!!あははは!!!」
「わたしも!」「ぼくも」
「ふふっ大人気だね」
「なにがいいんかさっぱり分からん」
そう言いつつもやってと言われたら数回はやってくれる甚爾くんを見ていると冬なのにポカポカしてきた。
「お前もやるか?」
「え!?わ、私はいいよ!子供達をやってあげて?」
「あいつらなら遊具行ったぞ」
「え、えぇ!?」
甚爾くんが指を刺した先では三人で渦巻き状の滑り台で遊んでいた。は、速くない!?
「ほら、はやく来いよ」
「い、いや、私はいいって!」
「周り誰もいないからいいだろ」
「そ、そういう問題じゃなくてね!?」
「ほら」
「きゃっ」
逃げようとすれば目の前に甚爾くんがいた。そういうところで運動神経の良さは使っちゃいけません!!
「たかいたかーい」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おかあさんとおとうさんらぶらぶだね!」
「ふふっそうねー!」
「なにやってんだ」
無理。高すぎ無理!!!抜群の安定感のキャッチはしてもらえたけどお姫様抱っこ。めちゃくちゃ恥ずかしいはずなのにさっきの怖さが恥ずかしさを上回って甚爾くんにしがみついてしまった。甚爾くんにやにやしないで!!
その後だんだんと怖さが落ち着き恥ずかしさが上がってきて降ろしてもらおうと思ったのににやにやしたままの甚爾くんに降ろしてもらえず、茹蛸のように赤くなってしまった。
「おかあさんおかおまっかだね!」
「ふふっりんごみたいだねー!」
「……」
子供達三人に一連の流れを見られていたとはいざ知らず、疲れて戻ってきた三人に何でもないように繕って水筒を渡す。
「おかあさんありがとう!あそんでくる!」
「どういたしまして〜あんまり遠くに行かないでね〜」
「はーい!」
「わたしがせらと恵みてるからお母さんはお父さんと休んでてね!」
「?ありがとう!よろしくお願いします!」
「……」
「なんだよ」
「なんでも」
「?恵も行ってらっしゃい!」
「……うん」
なぜか恵は甚爾くんを訝しげに見ていたが私が声をかけると返事をして二人を追いかけていった。
しばらく甚爾くんと話しながら三人を見守っていると遊び果たしたのか少し疲れたような顔でせらが戻ってきた。
「どうしたの?疲れた?」
「のどかわいたの」
「そっか、はいどうぞ!」
「ありがとう!……っゲホゲホッ!」
「あらら、大丈夫?」
「ゲホッゴホッ」
「変なとこ入っちゃったか、よしよし、」
「は、ゲホッゲホ、ぅ」
「おっとと、クラクラするか、ベンチ座ろっか」
座らせて背中をさすると少し落ち着いたみたいで、こちらにもたれかかった。顔を覗き込んでみると思っていたより顔色が悪い。遊び疲れた上に咳き込んじゃって体力がなくなっちゃったかな。
空は日が暮れて暗くなりつつあったし、少し寒くもなってきたので二人を呼んで公園を後にすることにした。
「津美紀〜恵〜そろそろ帰ろっか!」
「はーい!」「はーい」
「甚爾くんせらお願いしていい?」
「あぁ」
「せら〜そろそろ暗くなってきたから帰ろっか!」
「ハ、は、うん」
「ちょっと疲れたね、車で寝ていいよ」
「ん、」
熱はないけど少し息が上がっているせらを歩かせるのは少し危険なため甚爾くんに任せて荷物を片付ける。遊具から戻ってきた二人はそこまで汚れてもいないし、着替える必要はないだろう。少しせらの事を伝えて手を繋いで帰る。
車に着いた時にはせらは甚爾くんの腕の中だけで比較的規則正しく寝息を立てていた。津美紀も恵も遊び終わった直後はまだ遊び足りなそうにしていたけど、今は少し眠そうだ。帰りは静かだな。
「運転よろしくお願いします」
「あぁ」
駐車場を出て道路に乗る頃には後ろのシートは寝息のみになった。
「いっぱい遊べたみたいね、よかった」
「あぁ」
「あ、そうだ、今日の夕飯は甚爾くんのお誕生日会だよ!」
「そんなんいいよ」
「だーめ!みんな楽しみに準備したんだから!もつ鍋もあるよ」
「……わかった」
「ふふっ帰ったら先にせらと恵お風呂に入れてほしいの、お願いしていい?」
「どうせ嫌つっても意味ねえんだろ」
「もちろん!よろしくね!モツ待ってるから!」
「……はぁ」
帰ったら先に三人でお風呂入ってもらって、その間にご飯の準備と出来たらお誕生日会の飾り付け。津美紀も疲れてるだろうけど今日は私と久しぶりにお風呂入る約束したから、多分手伝ってくれるはず。
先の予定を立てて話していればもう家の駐車場であった。
「到着〜甚爾くんありがとう」
「あぁ」
「恵とせらお願いします」
「鍵は」
「私が開けるよ、先行くね」
車を停めても全然起きる気配のない子供達を抱っこして家へ帰る。……久しぶりに津美紀抱っこしたけど大きくなったなぁ。お姉ちゃんである事、無理はしてないだろうけどたまには甘えてもいいんだよという意味を込めて頭を撫でる。
玄関の鍵を開けるとその音で津美紀が目を覚ました。
「ん、お母さん?」
「うん、おはよう〜いっぱい遊んだのね、お疲れ」
「うん、んふふ、お母さんあったかい」
「でしょ〜いつでもしてあげるからね」
「、うん。ありがとう!」
「いいえ!じゃあ手洗いうがいしよっか!」
「はーい!」
津美紀をおろして洗面所へ向かう。入れ違いで甚爾くんが洗面所へ来た。まだ二人とも起きていなかったけどそのままお風呂へ入れてくれるだろう。
「三人が入ったらパジャマ置いておくね」
「助かる」
津美紀とリビングへ向かい、部屋着に着替える。お風呂場に服を届けがてら料理とお誕生日会の準備の話を伝えると快く受け入れてくれた。
「お母さんはりょうりするよね!わたしかざり付けできるとこしてる!」
「ありがとう!助かります!」
飾り付けを津美紀に任せて料理を作っていく。甚爾くんはもつ鍋だけど子供たちは食べないから違う料理を作る。
お誕生日会らしく種類は多めに。まずは昨日下ごしらえをして置いた唐揚げ、小さめのハンバーグ、せらの好きなナポリタンと、タマゴサラダ。少し彩りが偏ってしまっているけど、しょうがない。パーティーだしね。でもタマゴサラダは少し多めに作っておこう
先に順序を立てていたおかげでスムーズにたくさんの料理を作っていく。休む暇なく動いていたらいつの間にか三人がお風呂から出てきたので一旦手を止めて津美紀とお風呂へ向かう。料理自体はもう終わっているのであとは盛りつけるだけだ。
「津美紀とお風呂入るの久しぶりだね!」
「うん!一人で入るのいやじゃないけどお母さんとお風呂入るの大好き!」
「ほんと?嬉しい〜!お母さんも大好きだよ!」
「えへへ、よかった!」
久しぶりの二人のお風呂で学校の話をしたり恋バナをしたりしてお風呂を上がった。
「お待たせ〜!飾り付け終わった?」
「うん、すすんだ。けど、」
「ん?」
「せらが少し咳き込んでる」
「ありゃ」
「せらちょっとせきでるけどげんきだよ!お誕生日会したい」
「そっかそっか!大丈夫できるよ!でもちょっと変だなと思ったら伝えてくれるかな?お誕生日会はやめたりしないから」
「……わかった」
「ありがとう!それじゃあ料理を運びます!」
みんなに手伝ってもらいながら机に料理を並べていく。我ながらいい出来だ。
「わー!美味しそう!」
「ふふっそれじゃあ、いただきます!」
「「いただきます!」」「「いただきます」」
いただきますをしたあとは口々に食べたいものを言って私と甚爾くんが分けとる。
「なぽりたんおいしい!おかあさんありがとう!」
「どういたしまして!いっぱいあるからゆっくり食べてね〜」
「からあげカリカリ!ほっぺ落ちそう〜!」「からあげおいしい」
「ほんと?良かったです!」
みんな好きな物だけでなく色んな料理を食べてどれも美味しそうに食べてくれるからそれだけで泣きそうになってしまった。
「「「ごちそうさまでした!!」」」「「ごちそうさまでした」」
「それじゃあお片付けしてお渡し会しよっか!」
「!はい!」
プレゼントを甚爾くんへ渡す、その名もお渡し会。みんなには全然名前なんて言ってなかったし、私が今勝手に着けただけだけど、よほど楽しみにしていたのか一番に気づいたせらがささっと食器を重ねてくれた。それに続いて段々と気づいた二人も片付けを手伝ってくれてフルスピードで片付けが終わる。
「おわたしかいしよ!」
「分かった分かった!じゃあ皆さんローテーブルで待っていてください!」
みんなをローテーブルに移動させてそのうちに部屋へプレゼントを取りに行く。
誰からものかを確認して手渡す。もう目の前に甚爾くんいるしバレちゃってるけど。
「それじゃあせらさんからどうぞ!」
「はい!おとうさんおたんじょうびおめでとう!」
「わたしも!おめでとう!」「ぼくも……おめでと」
「これは私から。甚爾くんおめでとう!」
一人づつプレゼントを渡すと甚爾くんの腕にたくさんのプレゼントが収まった。
「おおこんなに」
「みんなで買いに行ったんだけど個人個人であげたいもの見つけたから。受け取って!」
「ありがとな」
「わー!さぷらいず!だいせいこう?」
「ふふっ大成功!」
「やったー!」
プレゼントを渡しても大きな反応はなかったけど、ありがとう、のその一言が私たち四人にはとても大きかった。
甚爾くんが中身を開けていく。せらからはマグカップ。一番最初のお店で見つけたものの隣にあった芋虫のイラストが描かれたもの。なぜこれにしたのかは本人にしか分からないけど、せら曰く、このいもむしさんかわいいし、おとうさんににあう!との事。
次に津美紀。彼女からはやはりボールペン。一番最初に見つけた時からこれと決めていたらしく、本当に即決だった。シックなデザインにホワイトのライン。シンプルなデザインが甚爾くんにピッタリだった。
恵からはキーケース。だいぶ選択が大人だが目に入った時に彼に使って欲しいと思ったのだそう。デザインは津美紀が選んだボールペンにとても合う。よく見つけたなと思ったが、さすがな息子だ。
最後に私。私からはネクタイ。デザインは濃い臙脂色と黒のストライプ柄。甚爾くんは全然スーツ着ないけど、これから卒園式や入学式など使う機会は沢山ある。津美紀の入学式は都合がつかなくて私しか行けなかったから次の行事には一緒に参加できるように。
「いっぱいつかってね!」
「あぁ」
たくさんの意味が込められたプレゼントを受け取った甚爾くんにその意図が伝わるかどうかは分からないけれど、きっと彼なら大切に使ってくれるだろう。
甚爾くん。お誕生日おめでとう。甚爾くんは伏黒一家の大切な存在です。それが伝わるといいなと願いを込めて。
甚爾くんお誕生日おめでとう!これからも家族から愛されるお父さんでいてね〜!