ハッピークリスマス

「うおっ、寒いね〜」
「ね、凍ちゃうよ」
「あはっ、確かに」

 二人で手を繋いで校舎から出る。外は丁度日が沈み、藤黄を裏色が覆っていく。きっと私達がまた高専に帰ってくる頃には、それに覆い尽くされ綺麗な三日月の胡粉色を侍らせるのだろう。息をする度にほぅっと白く出る水蒸気が瞬く間に大気へと溶けて消える。

「今日は油淋鶏食べたい気分」
「それどんな気分なの!?」
「こんな気分だよ〜」
「どんなのよ笑」

 私が海中のワカメのように体をくねらせると、悠仁も真似して二人でワカメの体操という曲を作曲しながら歩いた。

「鶏もも肉買って〜、お菓子買って〜、アイス買う!」
「まじなんだ、おっけ〜それじゃレッツゴー!」
「あははっ、Let's go!」
「発音いいねぇ〜!」
「でしょでしょ!Repeat after me,Let's go!」
「Let's go!」
「悠仁イイネ!Let's go!」
「あはは!ミス名前!プリーズティーチミーイングリッシュ!」
「OK!First question.What do you dislike about Mr.Gojo?」
「ん〜?ディスライク?」
「嫌いなとこはどこですかー?だよ」
「ちょっとちょっと名前チャン!悠仁になんてこと聞いちゃってんの!?」
「げっ、五条先生」「うお!五条先生!」
「あからさまに嫌な態度しないでよ〜んもう、恥ずかしがり屋さんなんだからっ!」
「ちょっと離してください!今から悠仁と買い物行くの!」
「せんせ、俺の名前と肩組まんで?嫉妬しちゃう笑」
「きゃあ〜!悠仁ったらちょー男前!惚れちゃう〜」
「私の悠仁だよ!先生のじゃない!」
「え、二人とも冷たい……🥺」
「先生大丈夫だよ、恵くんと野薔薇ちゃん呼んだから」
「え?待って、それは聞いt「ゴラァァァ!変態教師!!二人に手ぇ出してんじゃねぇぇぇ!!」え!?待って、はやくなi「何やってんですか、この目隠し変質者!」ちょっと待ってって、みんな酷いよ!!」
「いってきまーす」「伏黒ごめんな、よろしく!」
「あぁ、大丈夫だ。釘崎が暴れてるうちに行ってこい」
「サンキュ!じゃ行こっか」
「うん!」

 無下限解けやァァァ!!と叫んでいる野薔薇ちゃんの声をBGMに悠仁と走り出す。足の速い悠仁に手を引かれながら走ればもう目の前には道路だ。

「悠仁車みたいだね」
「ははっ、なんだそりゃ」
「んふふ〜なんでもっ。ちょっとあったまったし最高!早くスーパー行こっ!」
「はいはい」



「お菓子どれにしよう〜」
「ん〜、俺これ!」
「うわっ、それ美味しいやつじゃん!じゃあ私これ!ひとくち交換しよ!」
「もちろん!うし、次アイス選ぼうぜ!」
「私あれがいい!あれ、えーっと、ジャイアントコーン!」
「それね!じゃあ俺ガリガリ君にしよー」
「はやくはやく!」
「分かった分かった!転けるよ〜」
「うわっ!」
「ほら言わんこっちゃない〜」
「えへへ、ありがと!」
「どーいたしまして」
「んー、あれ?ない……」
「ありゃ、ほんとだね」
「どうしてもあれが食べたいのに……ジャイアントコーンのお口なのに……!」
「お、ガリガリ君みっけ」
「えぇ、悠仁〜ジャイアントコーンないよぅ〜」
「ん〜、じゃあ帰りにコンビニ寄って見てみる?」
「!悠仁天才!そうする〜!」
「そうっしょ!?じゃあレジ行こ〜!」
「セルフにしよ!ピってやりたい!」
「いいぜ!俺もする!」
「Yes!Off course!」
「ははっ、Let's go!」
「悠仁流石!上手!」
「やったー!」

 スーパーから出て見上げた空の裏色はより深く、呉須色へと変わり、侍る月が私たちを照らしてくれた。

「わ、めちゃさむだよ……」
「そーねー、さっきより寒い」
「悠仁の手暖かい……」
「俺子供体温だから。こうしたらもっとあったかいよ」
「は〜最高〜」
「っしょ?」
「うん。でも寒すぎてアイス食べる気にならない……」
「じゃあ今日はやめとく?お菓子買ったし」
「いいの?悠仁のガリガリ君……」
「いーよいーよ、名前と食べたかっただけだから」
「悠仁……ありがとう!」
「うおっ、へへっどーいたしまして〜」
「やっぱこっちがいい」
「ん、好きなよーにしな」
「うん!」
「でも寒いからさ、やっぱコンビニ行ってあったかいもの買わん?」
「あり〜!行こ行こ!」

 悠仁と手を繋いだり、それをポッケに入れたり、腕を組んだり、遊びながらもうそこに見えるコンビニへと向かった。


「おー、あったけぇ〜」
「ね〜、あったか〜い」
「どれにする?」
「ん〜、お茶!」
「お、いいね〜、じゃこっちのちっさいのでいい?」
「うん!ありがとう悠仁!」
「これくらい当然よ!すいませーん!これお願いします!」
「はーい!そのままのお渡しでよろしいですか?」
「あ、はい!名前受け取って〜」
「はーい、店員さんいつもありがとね!」
「いやいや!暗いし気をつけて帰ってね〜」
「「はーい!」」

「は〜滲みるぅ〜」
「俺も俺も!……うわ、やばいねこれ!」
「ね。たまにはお茶もイイ……」
「それな……」
「……温まったらお腹すきました」
「同感です」
「悠仁クン」
「なんでしょう名前サン」
「アレをしてください。ちなみに私作のプリンが冷蔵庫で待機しています」
「お嬢様こちらへどうぞ」
「荷物は任せなさい」
「それではいきます」
「はい。……わあぁぁぁ!!あはは!!速ーい!!」
「舌噛まんように気をつけてな!」
「うん!あはは!!」

 野薔薇ちゃんが悠仁に助けてもらった時にやって貰ったらしい移動技。名付けて、虎杖お姫様carである!
 まじ速すぎて人間辞めてるけど、元々人間じゃないレベルだから今は気にしない。名前通り車顔負けだ。報酬は私が昨日作ったプリン。もとから悠仁用だったけど、使えるものは使う。それが私だ。

「わ、すごい……もう着いちゃった」
「名前が軽すぎて余裕だったわ。心配だからもうちょい食べな?今日は鶏もも多めに買ってきたし」
「やだ太るもん。悠仁こそ育ち盛りなんだからもっと食べな!」
「いっぱい動いてるし太らんよ〜?太っても大好きな名前には変わらんし」
「うぐっ、そんな嬉しいこと言ってもだめだもん……」
「んーじゃあ〜、あーんしたげる!」
「え!ほんと!?……そ、そんなんで釣られないぞ!」
「えぇ?……じゃあお膝で食べてもいいよ!」
「え、い、いいの……!?」
「お行儀悪いから一回だけね?」
「一回……?」
「ぐっ、じゃあ二回」
「えへへ!やった!約束だよ!」
「しょうがないな〜、じゃあ寮行こ?」
「うんっ!」
「おっ、ははっそんな急に抱きつかんの〜」
「だって好きなんだもん〜」
「嬉しいけどはよ寮入らんと風邪引くよ〜?」
「私は風邪引かない!」
「そう言ってこの前風邪引いた子は誰ですか〜?」
「う……私です」
「声ちっさ!名前が風邪引いたら俺が心配だからさ?だから行こ?」
「ず、ずるい〜……行く」
「あはっ、それじゃあ行きますよ〜」
「む〜」
「むくれても可愛いな〜」
「もうっ!悠仁ったら天然人たらしなんだから!」
「えぇ〜そんなこと言わんでよ〜笑」
「ふんっ!はやく行くよ!」
「はいはーい」

 悠仁が部屋まで送ってくれてお風呂に入ったら悠仁の部屋に集合と約束をして別れる。野薔薇ちゃんもうお風呂はいったかな、誘ってみよ。


 結局誘ってみたけどもう入ってたみたいで、一人でしくしくお風呂へ行って扉を開けると、無駄に広い浴場に余計に寂しくなり、ささっと済ませてあがる。明日は休みで悠仁とデートするって約束したから、丁寧にスキンケアをし、髪を乾かしてその場を後にした。

 『明日のデートは悠仁の部屋で準備したい』と連絡するとすぐに返事が来て、『全然いいよ!荷物もってきな!』と言ってくれたので、外出用のカバンに財布とエチケット、いつも持ってる小さめのポーチを入れて、トートバッグには着替えと化粧品、ヘアセット用具を詰め込んで、一番上にお気に入りのアクセサリーが入ったケースを入れる。準備満タン!といき込んでスキップで悠仁の部屋へ向かった。



「ゆーうーじー!いーれーて!」
「はーあーいー!ちょっと待ってね〜」
「はーい!」
「はいどうぞ!先にちょっと作ってた!」
「ありがと〜!プリン持ってきたよ!冷蔵庫入れとくね!」
「やば、まじ美味そう!ありがと!」
「どういたしまして!何したらいい?」
「あとは肉揚げるだけ!」
「え、めっちゃ進んでるじゃん!私来るの遅かったごめん〜」
「いや違う違う!俺風呂一瞬だったから!どっちかっていうと俺が早かっただけよ、気にしんで〜」
「そっか、でもありがと〜!じゃあ揚げます!」
「はいお願いします!」
「お願いされます!」

 もも肉に満遍なく片栗粉をまぶして揚げる。それを細長く切って、サラダが付け合わせてあるお皿に盛り付ける。その上に悠仁がタレをかけてくれて完成だ。

「わー!美味しそう!てか絶対美味しいじゃん!」
「はよ食べよ!俺箸出すわ!」
「おっけ、ご飯よそって持ってくから待ってて!」
「サンキュ!りょーかい!」



「「いっただきまーす!!」」
「やばいめっちゃ美味しい!悠仁天才じゃない!?」
「いやサックサクじゃん!名前こそ天才でしょ!」
「もうやば……頬落ちそう……」
「わかる……これはだめだわ」

 有り得ないくらいの美味しさに涙が出るほど感極まり、無限にはないそれを噛み締めた。

「激うま……もうなくなりそう」
「あ!悠仁!あーんする約束!」
「あそうだったわ、ほら!ここ座って」
「わーい!」
「はいあーん」
「あーん!……ん〜!!さっきよりも美味しい……」
「あははっ!一緒っしょ!」
「違うよ〜!悠仁から食べさせてもらうだけで美味しさ1000乗だよ!」
「乗なの!?やばいね笑」
「嘘じゃないよ!ほら、悠仁あーん!」
「あーん……嘘じゃないわ」
「でっしょ〜!?もう最高〜!」
「ご飯めっちゃ進むわこれ」
「ね〜!あ、おかわりする?入れてくるよ」
「まじ?じゃあおねがーい!」
「はーい!待ってて!」
「なんかこれ新婚さんみたいだね〜」
「!も、もう悠仁ったら!」
「でも、そうっしょ?」
「ひゃっ!びっくりした……急に抱きつかないでよ〜」
「いーじゃん〜嫌じゃないでしょ?」
「そりゃ嫌じゃないけど……」
「じゃーいいの!ご飯ありがとね、持ってく」
「うん……」
「どったの?」
「ううん、なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないけど……言いたいことあったら言いなよ?」
「うん」
「うっし!じゃあ続き食べよ!冷めちゃったら勿体ない!」
「うんっ悠仁一個いただき!」
「あ!も〜、じゃあ名前の一個もーらお!」
「あははっ!食べた意味ない!」
「それでいーの!ほら早く食べよーぜ!プリンが待ってる!」
「悠仁プリン食べたいだけじゃん!」
「そりゃそうよ!パティシエ名前様の手作りだぞ?美味しいに決まってるって!」
「もう〜何よそれ!笑誰が言ったの〜!」
「真希先輩達が言ってた!名前はもとパティシエ志望だって!」
「え、違うよ!ただの趣味だよ?」
「え?そうなの?俺マジかと思ってた」
「はぁ、どうせ狗巻先輩の悪ノリね。悠仁は何でもかんでも真に受けないの〜」
「は〜い。ま、名前ちっさい時から器用だったしな〜。でも名前の作るスイーツマジで美味いよな、修行でもしてたの?」
「だから趣味だって!友達がスイーツ大好きでよくその子と一緒に作ってたの。多分それからかな〜、お菓子作りハマっちゃって色々手出したらちょっとできるようになったってわけ」
「ちょっとってくらいじゃねえよ。もう店出せるレベルだもん」
「いやいや、それは言い過ぎだよ!嬉しいけど」
「嬉しいんじゃん」
「そりゃ嬉しいよ。褒めてもらってんだもん」
「ははっ、確かにな」
「うん。……はー、いっぱい食べた〜」
「俺も〜。よしプリン食べよプリン!」
「はいはい。持ってくるからちょっと待ってて」
「はーい!」
「わ〜、キンキン。これ最高よ」
「まじ?はやくはやく!」
「プリンは逃げないから落ち着いてください!笑」
「はい!」
「それじゃあどうぞ」
「いただきます!!」
「召し上がれ〜」
「やば!美味すぎ!なんでこんな濃厚なん!?なのに滑らか〜」
「ふふっ、良かったです」
「いやまじなくなるの勿体なくて食べれん……」
「じゃあ私が食べちゃおっかな〜?」
「え!待って絶対だめ!これは俺のだもん!」
「冗談だよ笑ゆっくり食べな」
「良かった……あ〜美味しすぎる……幸せ……」
「そんなに〜?嬉しいありがとう」
「これマジだかんね!カラメルってこんなに美味しいもんだっけ、苦味が最高に絶妙!こんなにカラメルあった方が美味しいプリン初めてだわ」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん、照れる〜」
「やばいもんこれ、食後とは思えんくらいもっと食べたい」
「じゃあ私の食べる?試食で結構食べたからさ」
「え、いいん?まじで食べるよ?」
「いいよいいよ、虎杖お姫様carに乗せてもらったお礼」
「待って何それ、俺そんなことした?」
「お姫様抱っこしてダッシュしてくれたでしょ?あれめちゃくちゃ楽しかったから」
「あんなんいくらでもするよ!でこれもっと食べさせて!!」
「そんな事でいいの?じゃあ作っちゃおうかな〜」
「まじ!?今度高専一周したるよ!」
「いやさすがに悠仁でもひと一人抱えながらはきついでしょ!笑」
「いけるって!名前軽いもん」
「じゃあ半周お願いしよっかな!いいですか?」
「もちろん!こちらこそお願いしますだよ!」
「ほんと!?じゃあ今度はリクエストくれたやつ作ったげる」
「え、まじ!?じゃあ俺あれがいい!マカロン!釘崎がむずいって言ってたけど食べてみたくて!」
「よっし、任せな!ついでに野薔薇ちゃんとも作ってくるわ」
「やったありがと!優しいな、釘崎絶対喜ぶよ」
「えっへん、そりゃあ私ですから」
「さすがっす名前パイセン!」
「ほほほ!なんとでも呼びなさい!」

 その後、二人の呼び名の話題で盛り上がった私たちだったが、恵くんに「うるさい!何時だと思ってんだ!特に虎杖!」と怒られてしまった。少ししゅんとしてしまった悠仁の頭を撫でながら恵くんに謝り、今度マカロン作るからと言ったら甘さ控えめでと残し、去っていった。。そんな事お安い御用さ!!恵くん!!
 二人で洗い物を済ませ、お菓子を持って机に戻る。

「やー、甘いもの食べたあとはやっぱしょっぱいものっしょ!」
「間違いない!という事で、パーティー開けじゃー!」
「おす!!……ほい!」
「ナイス!……そしてしょっぱいものを食べたあとは甘いもの!」
「おう!大正解!早速開けてくれ!」
「任せなさい!おりゃ!」
「そして、お菓子を食べる時の飲み物と言えば……」
「ずばり……」
「「コーラでしょ!!」」
「キャー!最高よ!」「早速注いじゃうんだから!」
「もう完璧よ……こんなに素晴らしいお菓子パーティーなんて存在しないわ!」
「今夜はパーリナイよ!」
「「カンパーイ!」」
「プハー!最高……一日の疲れが吹っ飛ぶわ……」
「魔法の飲み物だわこれ」
「合法の飲酒だ」
「ポテチも最高」
「パイの実も捨て難いよ」
「それな」
「悠仁、あーんして!」
「しゃーないなぁ、あーん」
「あーん!んふふ、美味しい!悠仁も!」
「あーん……いやぁ最高だね」
「ね〜!わっ」
「お菓子はいいっしょ?」
「まあ確かに」

 悠仁は口元にあった私の腕を引っ張り、自身の膝に座らせた。多分いいでしょっていうのは行儀のこと言ってるんだろな。気恥ずかしくなって、悠仁の肩に顔を埋める。

「悠仁あったかーい」
「でしょー」
「んふふ……ずっとこうしてたい。」
「そーね」
「……悠仁、大好きだよ」
「ん、俺も名前のこと大好きだよ」
「ずっと、ずっと一緒にいたい」
「……うん。俺も」
「こうやって、くっついて、いっぱい、お互いの事見て、それで……それで!」
「うん。分かってる。」

「大丈夫。」
「……あったかい」
「うん。あったかいね。」
「冷たくない。」
「うん。冷たくないよ。」
「……ごめん」
「謝らんでよ。名前はなんも悪くないでしょ?」
「……でも」
「悪くないよ。辛い思いさせてごめんな」
「違う!悠仁に謝らせたかったわけじゃないの……私が……弱いから……」
「俺も弱かった。お互い様やね」
「……うん」
「今あったかいでしょ?」
「うん」
「今冷たくない。」
「……うん」
「絶対とは言ってあげられん。それはごめん。でも俺は名前とこれからも一緒にいたいって思ってる。それじゃだめ……?」
「……ずるい」
「うん。ずるいな。ごめん。」
「……ちゃんとそばにいて」
「!うん。」
「私がぎゅってしてって言ったらぎゅってして」
「うん。」
「ちゅーしてって言ったらちゅーして」
「ははっ分かった」
「……ただいまって言ったらおかえりって言って」
「……うん。」
「じゃあいいよ」
「ありがとう」
「うん。だって悠仁の彼女だもん」
「ははっ、そうね。頼りになる可愛い彼女だ。」
「そうだよ、めちゃくちゃに可愛いんだから」
「おう!おまけにスイーツも作れる。完璧じゃね?」
「完璧だよ!」
「ウンウン。あぁ〜まじ彼女が可愛すぎる・・・」
「えへへ〜、」
「もう襲っちゃいたいくらい」
「わ!悠仁のえっち〜!」
「わ〜!逃げんでよぉ〜、男はみんなそんなもんよ!?」
「まじ!?やばいじゃん!」
「ほら〜!襲っちゃうぞ〜??」
「キャー!やだやだー!!」
「待てー!!」
「うるせぇ!!何回言えばわかんだ!!二人ともそこ座れ!!」
「「ハイ。」」
「俺なんて言ったっけ?はい虎杖」
「はい。何時だと思ってるのかと言いました。」
「そうだな。で?今何時だ名前」
「はい。夜の10時です。」
「そうだなぁ。夜の10時は大声出していい時間か?虎杖」
「いいえ。違います。」
「夜の10時はドタドタと走り回っていい時間か?名前」
「いいえ。違います。」
「よくわかってんじゃねえか。それで、お前たちは今何してた?」
「「夜の10時に大声で走り回ってました。」」
「それはやっていい事か?やってだめな事か?」
「「だめな事です。」」
「じゃあ今からそれをしたらどうなるか分かるよなぁ?」
「「はい。分かります。」」
「次はねぇからな」
「「はい。すみませんでした。」」
「はぁ。ったくもう寝ろ。お前らも今日任務あっただろ」
「「はい」」
「うるさくしねぇんだったら怒んねえから」
「ありがとう恵くん」
「ごめん伏黒」
「「ポテチ/パイの実いる?」」
「い ら ね え」
「「はい。」」
「片付けて歯磨きしろ」
「「今すぐやります。」」
「よろしい」
「「おやすみなさい。」」
「あぁおやすみ」

 バタン。

「「こ、怖かったぁ〜」」
「俺あんなマジ切れの伏黒初めて見たよ」
「私も、見たことはあるけどくらったのは初めて」
「見たことあるん?」
「うん。中学生の時、五条先生に」
「あぁそれはありそう」
「でしょ」
「にしてもやばかったなあれ。体が勝手に動いた」
「私も。五条先生もこんな気持ちだったのかも」
「え、五条先生も正座してたん?」
「うん。で、恵くんの質問に敬語で答えてた。」
「絵面やば」
「やばかった。笑いこらえんのに必死だった」
「だろうね」
「はー、片付けよ。」
「うん、そうしよ。」

 夕飯の分は既に片付けていたので特に時間のかかることなく、ささっと歯磨きをして悠仁の布団に二人で入る。狭いけど寒くて結局くっつくから一緒。

「電気消すよ〜」
「はーい」
「わ、暗」
「カーテン開けていい?」
「いーよ」
「わ、きれー」
「うわ、ほんとだ。てか明るいね」
「うん。」
「この電球豆電にできないんかなぁ」
「前調べたことあるんだけど、あるにはあるっぽいよ」
「まじ?じゃあ変えよ。名前の部屋は大丈夫なん?暗いの苦手じゃなかったっけ」
「うん苦手。私の部屋は入学する前に五条先生にLEDにしてもらった」
「……え?」
「先生も私が暗いの苦味なこと知ってたから、言ったらやってくれた」
「先生なんでもありだな」
「ま、五条先生だからね」
「そーね、納得」
「はー、悠仁あったかーい」
「名前もあったかいわ〜」
「あ!見て!雪降ってる!」
「おー!ほんとだ」
「東京も雪降るんだね〜」
「郊外は意外と降るんかもね。引越し先伏黒と同じ埼玉だったっけ?」
「そうそう。埼玉は全然雪降らないの。あ、私いつかみんなと雪合戦したい」
「うわ、絶対楽しいじゃん。やりたいね」
「野薔薇ちゃんはやり飽きてそうだけど」
「ははっ確かに」
「北海道とか行きたいなー。任務でもいいから」
「んね。」
「あー、美味しいもの食べたくなってきた……」
「あはは!明日美味しいもの食べに行こ?」
「うん!そうする!」
「うん。じゃあ寝ましょ〜」
「はーい。悠仁〜」
「なんですか〜?」
「ちゅーして!」
「ええ!?今!?」
「今に決まってるでしょ!ん!」
「え、心の準備が」
「ん〜!」
「分かった、分かったから!……ほら目閉じて?」
「ん!……んっ」
「はい終わり」
「えぇ、もう終わり?」
「一回したでしょ〜?」
「えー足りないー!」
「え〜?あと一回だけだよ?……ん」
「ふふっ、悠仁顔可愛かった」
「目瞑ってなかったの!?」
「言われてないもん」
「んも〜、恥ずい」
 チュッ
「お礼!」
「何それ……可愛すぎ……」
「ふふっじゃあおやすみ」
「……おやすみ」
 大好きな悠仁のぬくもりに包まれながら目を閉じる。少し、あの冷たくなった悠仁の体を思い出して、悠仁を抱きしめる手に力が入る。悠仁はそれに気づいて少し強く抱きしめてくれて。……大丈夫。暖かい。冷たくない。……死んでない。
 悠仁の胸板にくっつけた耳にトクトクと規則正しい鼓動が入る。それが何よりも私を落ち着かせる。手の力が少し抜けた私の背中にトントンと優しいリズムが降り注いで、安心とともに比例して大きくなる睡魔に逆らうことなく目を閉じた。





 ひどく長い夢を見た。と言うよりも、終わらない過去の現実を、と言った方が正しいか。悠仁が宿儺と入れ替わり、胸に穴を開けた状態でこちらを見ている。正確には今は恵くんをだが。その後私に移動して……あぁこんなとこまで再現するのか。リアルすぎるその感覚に顔を顰める。

 戦闘後の体は例を見ずボロボロで気だるい。そこに雨が降るものだから体はひんやりと冷やされ、私の心と同じ様に遠慮もなく濡らされていく。こちらを見た彼が申し訳なさそうに、疲れたように微笑んで「名前約束守れんでごめんね」と言う。その表情も言葉も寸分の狂いもなく再現される。また恵くんを見て、口から血を溢れさせながら長生きしろよと言い残して前傾に倒れていく。同級生が、彼氏が、大切な人が倒れていくのに、固く動くことの無い体を必死に動かそうとするが結局動かない。恵くんと私は冷たく、慈悲など一切無い雨に打たれながらそこに立ち尽くしたままだった。

 立ち直るのに時間がかかった。野薔薇ちゃんと恵くんは翌日に復帰したというのにいつまでも引きずる自分が情けなかった。五条先生は無理をしなくていいと言ってくれていたけど、復帰した方が彼にとって好都合な事などいち早くに理解していた。怪我は家入先生に治してもらい、体はどこも悪くない。問題は何も無いはずだった。だのに体はちっとも動かない。まるで鎖で雁字搦めにされているようだった。目を閉じれば、あのシーンが目に浮かぶ。こちらを向いてごめんと言う彼が。必死に隠そうとしているその苦しそうな顔が。以前優しくキスをしてくれた、今は血色のないその唇に浮かべられた笑顔が。脳裏に焼き付いて離れない。かと言って目を開けていても、この一ヶ月にも満たない生活の中で作られた彼との思い出が、部屋の至る所にこびり付いている。何もしてなくても視界に入るその思い出がまた私を苦しめた。

 悠仁との出会いは幼稚園。私たちは所謂幼馴染みだった。家がお隣同士だったけど大した付き合いはなく、同じ幼稚園に入園して初めて会ってから知り合った。物心着く前両親が亡くなってしまったらしく、おじいちゃんと二人暮しだという彼は、優しくて、元気で、正義感の強い子で、私が彼に惹かれるのもそう遠い未来ではなかった。
 少しおませだった私は悠仁が好きだと気づいた小一の夏、悠仁に「好きです」と告白をした。悠仁は嬉しそうに俺もと答え、「俺と付き合ってください」と言ってくれた。私、嬉しすぎて泣いたんだっけ。泣かんで〜?と少し焦りながら涙の溜まっている私の目尻にキスをした。悠仁も私のおませが移ってちょっとおませだったよね。
 それから、私は誰にも言えない秘密を抱えて、悠仁と仲良しのまま小学校を卒業し中学に入学した。もうその頃には知らない人はいないくらい、私と悠仁の恋仲は広まっていて、日常の中に溶けていった。
 でも、平和な日常の一コマのような、よく澄んだ群青色の空に星が輝いていたあの日、私の両親が死んだ。事故死。即死だったと説明された。遺体は原型と留めておらず現地で火葬され、骨葬となった。行われた葬式で心の整理なんて出来るはずもなく、涙を流さなかった私を見て、両親とは似ても似つかない性格の親戚共は、なんて心のない子なんだと非難した。
 その後、誰が引き取るのかという話し合いという名の押し付け合いの末、埼玉に家があるという、母方の見たことも無い親戚に引き取られることとなった。取り繕う様子なんて一切見せず、心底面倒くさいという顔で私を車に乗せ、引越しの準備をするために今住んでいる実家へ向かった。
 学校にも連絡がいき、転校の手続きがスムーズに行われた。もうどうなってもいいと自暴自棄になりかけていたが、悠仁の事だけが心残りだった。どちらも携帯など持っていなくて一度離れてしまえば連絡すらも出来ない。でも今悠仁に会いに行けば二度と離れたくなくなる。学校から私のことについては聞いているだろうけど、ちゃんと説明をしよう、と最初で最後の手紙を書いた。
 どれだけ辛くても淋しくても悠仁の事思い出すね。だって悠仁のこと大好きだから。この気持ちにはずっと正直でいるって誓うよ。また逢おうね。絶対。待ってて。
 夜中家を出る前に悠仁の家のポストにひっそりと入れた。あぁは書いたけど、多分もう二度と会えない。その悲しみが心の奥底に染み付いて離れなくなった。

 新しい家では私は居ないものとして扱われ、お金を与えられる訳でもなく、学校に行くのが精一杯だった。
 毎日毎日化け物に手を翳し消滅させる。その瞬間は私の荒んだ心を宥めた。誰にも言えない秘密。昔から変なものが見えた。それは目を合わせなければ攻撃してくることは無い、攻撃された時は、来るな、と考えながら手を翳せば、紫の光に包まれ消滅する。
 今日も夜中に家を出て墓場の近くで化け物を消滅させた時だった。誰かがこちらを見ている。見られてしまった。即座に逃げようとしたが、その瞬間には目の前に立っていた。
「君、浦見東中の生徒だよね」
「誰」
「五条悟。恵の保護者だよ」
「知らない」
「え?……ちょっと恵!?知らないって言ってるけど!」
「はぁ?後ろの席だぞ。んなわけないでしょ」

 恵と呼ばれる男子。確かに、特徴のあるその髪型はよく見れば知っていた。

「……見た事はある」
「あ、ほんと!?良かった〜!で、君呪い見えるの?」
「?」
「「嘘だろ」」

 二人揃って固まったので逃げようとしたら腕を掴まれた。動けるんかい。
 それから化け物、もとい呪いについて説明してもらった。二人とも私と同じように呪いを祓えるらしく、五条という男はそれを仕事とする呪術師だそう。ストレス解消が仕事・・・そんなのやるに決まってると男に言うと、呪術師になる高校に通う必要があると言う。もちろん行くと言えば、じゃあ決定!と嬉しそうに答えた。男子、恵くんも進路先がそこで、保護者、五条さんはそこの教師らしい。ものの数十分で進路が決まった。こんな簡単に決めていいのかと思ったが、まあいいでしょと自分を納得させた時、いや良くねえよ!と綺麗にツッコミが入った。

「お前、呪術師がどんなものか分かってないだろ」
「?ストレス解消してお金貰えるんでしょ?」
「ククッ、君イカれてるね!名前は?」
「……苗字名前」
「名前、呪術師はね、命をかけた仕事なんだ」
「?別に命くらいかけるよ。暇だし」
「ふはっ、名前イイね!」
「だから良くねえよ!」
「なんで?」
「お前が良くても家族は許さないだろ、こんな危険なこと」
「両親は死んでる。多分呪い?であと兄弟はいないよ」
「あらそうだったの。今はどうやって暮らしてるの?」
「遠い親戚の夫婦に引き取られた。けど私居ないものとして扱われてるから、死んでも嬉しいんじゃないかな」
「そっか!なら好都合だね!高専は寮もあるし不自由ないよ!」

 何が好都合だよ……と恵くんの声が聞こえるが、私も好都合だと思う。あいつらから離れられて、ストレス解消してお金貰える。もしかしたらその溜まったお金で悠仁に会えるかもしれない。それなら一石二鳥どころか四鳥くらいある。
 それからは呪術師になるため、呪術高専に入学するためだけに生きた。時々五条さんに呪術について授業をしてもらい、体術もつけてもらった。恵くんともよく話すようになり、姉の津美紀ちゃんとも仲良くなった。初めて家にお邪魔した時、恵の彼女!?なんて言われたけど、丁寧に違うと説明した。なんてったって私には悠仁がいる。
 中三になり、間もなく津美紀ちゃんが呪われた。それなりに関わっていたし、津美紀ちゃんのおかげで、昔のような性格も取り戻しつつあったから、私もだいぶショックを受けた。でもそれ以上に恵くんはショックだろうにそんな素振りは一切見せず、どんどん強くなっていった。私も置いていかれないようにと稽古に励み、晴れて高専に入学することができた。心が折れそうなこともあったけど、そんな時は五条さんに貰った携帯で、昔悠仁とテレビを見ている時に教えてくれた、あの曲を聴いた。

「これ俺が好きな曲!めげそうになったらこれ聴いて元気だしてよ」

 当時元気のなかった私にそう言ってくれた時、携帯持ってないのにどうやって聴くの、なんて思ってたけど、私を励ましてくれてたんだなと今更気づいた。ずっと私を見てくれて、愛されてるね。


 ふ、と目が覚める。まだ空は暗い。少し上の方ではすぅすぅと寝息が聞こえた。
 その後、高専に入学して二月たった頃、五条先生が悠仁を連れてきて、再会を果たしたんだったよね。意味わかんなかったけどあれも運命だよね。また逢えて本当に嬉しかった。
 悠仁、私と出会ってくれて、付き合ってくれてありがとう。悠仁の顔を見ると穏やかな顔で眠っていた。そんな彼を見て少し目の奥が熱くなる。ぎゅっと悠仁を抱きしめて目を瞑る。
 外は雪が降っている。



「ん、……ゆーじ?」
「おはよう名前」
「おはよう……ん〜」
「ははっ、ぎゅー」
「えへへ、あったかい、」
「あったかいねー、起きる?」
「ん、もうちょっとだけ、」
「いいよ〜」

 目が覚めると悠仁がこちらを見ていた。少し恥ずかしくて抱きつく。そんな私を悠仁は優しく抱きしめてくれた。外は雪がもうやんでいてあたりが少し白い。外に出るのが少し楽しみになった。

「ん〜!起きる!」
「はーい!」
「顔洗いに行こ〜!」
「おっけー!」

 パジャマのまま部屋を出て、顔を洗い歯を磨く。朝食は悠仁が作ってくれるみたいで、手伝うと言ったけど女子は準備、時間かかるだろ?先に準備してな!と言ってくれた。なんなの?この彼氏。神なの?あ、既に神だったわ()


 着替えをすませて、バッグに着ていたものを仕舞い、化粧品を取り出したところで悠仁がキッチンで出来たよ〜!と言う。はーいママ!と返事をして、折りたたみのローテーブルを出し、料理を並べるくらいは手伝おうとキッチンへ向かうと、そこにはエッグトーストとサラダがあった。

「うわ〜!美味しそう!ありがとうママ!」
「も〜、俺はママじゃないよ!笑どういたしまして〜!今日は美味しいものいっぱい食べるって約束したから朝飯はちょっと少なめね!」
「分かった!」

 二人で机に料理を運び、手を合わせて食べる。うん。最高に美味しい。

「なんか、外に食べに行くより悠仁の手料理の方が幸せな気がしてきた」
「え〜?すんげえ嬉しいけど俺の手料理なんていつでも作ってやれるから、たまには外の美味しいもの食べよ?」
「ぐっ……(そのキラキラの笑顔をしまってくれ……眩しい)仕方ない……」
「やった!ありがと名前!」
「グフッ……ど、どういたしましてデス」
「ちょ、名前!鼻血出てる!」
「おわっ」

 まあこんな天使みたいな笑顔見せられて普通でいられるやつなんていないだろう。鼻血で済んでよかった。
 悠仁が慌ててティッシュでおさえてくれて、お礼を言うと、可愛い服に付かなくて良かったなんて言うものだから、鼻血が増してしまった。私は悪くないぞ()

 それからごちそうさまをして、食器を流しへ置いて二人で歯磨きをしに行く。丁度野薔薇ちゃんも顔を洗いに来ていて、夫婦揃って朝食なの?だなんて言われた。やっだぁ!野薔薇ちゃんったら!もうっ!(バシッ)
 ウグッなんて言ううめき声が聞こえた気がしなくもないが気にしないでちゃちゃっと歯磨きをして部屋に戻った。そしたら悠仁がこれまた洗っとくから準備しておいでなんて言ってくれる。ありがとうママ!!



「ふんふふ〜ん」
「お、名前可愛い〜!化粧上手だね!」
「あ悠仁!洗い物ありがとう!えへへ、ほんとっ?」
「どういたしまして!うん、まじ可愛い。目キラキラだね!」
「えへへ、悠仁とデートだからキラキラにした!」
「そっかぁ〜!めちゃくちゃ似合ってる!」
「もうっ!そんなに褒めても何も出ないよ〜!」
「出るよ!名前の照れた可愛い顔が見れる!」
「も〜!悠仁ったら!」

 だなんてイチャイチャしていれば「お前らは朝も静かに出来ないのか!」と恵くんに叱られてしまった。ごめんて。
 大人しく二人で準備して、寮を出る。今の時刻は九時三十分。今日はこれからだ!

「どこ行くどこ行く!?」
「そーね、まずは東京っしょ!」
「うんうん!駅へLet's go!」
「Let's go!!」

 手を繋いでスキップで高専を歩いていたら、真希さんと狗巻先輩に出くわした。

「なんだデートか?」
「高菜!」
「えっへへ〜、そうですそうです!!」
「テンション高いな」
「名前朝からというか昨日の夜からこんなんっす!」
「明太子〜〜??」
「い、狗巻先輩ったら!エッチです!!」
「お゛、お゛がが、、!」
「名前!狗巻先輩死ぬ!死ぬ!」

 やだ、私ったら恥ずかしくなって狗巻先輩にヘッドロックをかましてしまったわっ!
 少しやり過ぎてしまったかとごめんちゃいして、先輩二人と別れて駅へ向かった。


「「とうきょ〜〜!!」」
「何するどこ行く!?」
「名前、落ち着け!!まずは、まずは何しようか!!」
「悠仁も落ち着いて!私達久しぶりの休みに興奮しすぎよ!」
「そうだな!じゃあまずは、新宿行こうぜ!お揃い買お!」
「賛成賛成!!中央線へGoだよGo!!」
「名前、はぐれたらいけないから手繋ご?」
「えへへ、うんっ!!」

 恋人繋ぎで構内へ入る。休日の今日は朝といえど人が多い。はぐれないように手をぎゅっと握れば悠仁もぎゅっと握り返してくれる。案外この小さな愛が結構嬉しかったりする。


「ルミネ!ルミネ行きたい!!」
「分かった分かった!ほらこっちおいで」
「えへへ、ありがとう!」
「まずは服見る?」
「うん!」
「あそこのお店!」
「うわ、名前に似合いそ〜!」
「ここの服大好きなの!」


「悠仁この服似合う!ちょっと着てきて!」
「俺はいいよ〜!」
「だめ!私は悠仁とお買い物に来たの!」
「ははっ、そうだな!はーい!」


「このコップ可愛いね〜!」
「お、ほんとだ!あ、そうだ!これお揃いにしねえ?丁度色違いあるし!」
「賛成!悠仁天才!!」


 たくさんお店をまわって色んなものを見て、最後に雑貨屋に入った。たくさんの小物や生活用品が置いてあり、悠仁と離れて個人でまわることにした。
 実は今日はクリスマス。悠仁へのクリスマスプレゼントを買うのだ!悠仁は何が欲しいのだろう。プロテインだろうか、いや、それは欲しいだろうけどプレゼントではない。だったらパーカーとか?いやいや、それこそいらないでしょ、いっぱい持ってるし、それなら……


 レジへ商品を持っていく。それは二つの、首に赤いリボンを巻いた白色のクマのぬいぐるみ。
 何にしようかと考えながら、ずっと悠仁と出逢えた時のことを考えてた。あの時、幼稚園が同じで、家が隣で、悠仁のおじいちゃんと私の両親が仲良くなって。こうやって小さな出来事が積み重なってようやく悠仁と私が出逢えた。そう考えると私が悠仁のことを好きになって、悠仁も私のことを好きになって、それでやっと付き合えて。一度離れ離れになったのに、またこうしてもう一度出逢えた。それが運命じゃないなんて私には思えなかった。
 このくまちゃんは私と悠仁が運命の赤い糸で結ばれているって証。

 店員さんに片方をプレゼント用の包装にしてもらう。「ご友人へのプレゼントですか?」と聞かれたので、「恋人へです!」と返すと、なんでもメッセージカードなども付けられるらしい。一言サイズのものですが……と言って渡された小さなオフホワイトのカードに「いつもありがとう!これからもそばにいてほしいです。」と書いて店員さんに渡す。店員さんはそのカードをくまちゃんの座って伸ばしている足と少し広げられた手の間に挟み、あたかもそのメッセージカードを手に持っているかのようにセットしてくれた。

「え、店員さんすごい!!ピッタリですね!」
「うふふ、このメッセージカード、このくまちゃん用に作られてるものなんです!くまちゃんの意思があるみたいで可愛いですよね!」
「えー!そうだったんですね!?通りでぴったりなわけだ!わざわざありがとうございます!」
「いえいえ!それじゃあ恋人様へお渡ししてあげてください!」
「はいっ!」

 店員さんにお礼をして綺麗にラッピングされたくまちゃんを受け取り、形が悪くならないように他の紙袋の中へ隠す。これはサプライズ!バレてはいけない!


「悠仁〜!!おまたせ!」
「おう!全然だよ〜」
「もう見終わった?」
「終わったよ!」
「じゃあ丁度お昼だし、新大久保行こ!お腹空いた!」
「いいねいいね!行こ行こ!」


「ん〜!美味しすぎる……」
「やばいねこれ!食べる?」
「食べる!!あ〜……ん、うま〜!!悠仁もどうぞ!」
「サンキュ!あーん……ん〜最高!」


「「カラオケ〜!!」」
「悠仁悠仁!」
「なにー?」
「井上陽水歌って!」
「よっしゃ任せろ!」


「グフッ……似すぎ!……無理、アハハ!」
「だろ!?あ、名前あれ歌ってあれ!」
「なになに!?」
「倖田來未やって!」


「ブッ、アハハ!!名前最高!!まじ上手い笑」
「ふふん、そうでしょそうでしょ!」
「よし次得点対決ね!真剣勝負!だよ!」
「おっけ!負けねえぞ!」
「私あいみょんでいくわ」
「んじゃ俺backnumber!」


「よっしゃー!!97.883!」
「うわぁぁ!くやし〜!」
「僅差過ぎない!?何点差!?」
「0.016差」
「やばすぎ!笑あっぶな〜!!」
「次は負けん!」
「次も勝つ!次の曲いっきまーす!」


「カラオケ楽しかった〜!」
「んね!んじゃあご飯行こ!」
「うん!なに食べる!?」
「そーだな、ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」
「いいじゃん!探そ!」
「うん!」


「やばい!めっちゃ美味しい!」
「だな!あ、名前口付いてる、ほいおっけ!」
「えへへ、ありがと!」


「美味しかった〜!お腹いっぱい」
「俺も!美味しかったわ〜」
「楽しかった!……もう終わちゃった……」
「楽しかったね〜また来よう?」
「うん……」
「そんな悲しい顔せんの〜」
「だって……もう悠仁と一緒にいれないじゃん……」
「じゃあ帰ってお風呂入ったら俺の部屋で寝る?」
「!……いいの?」
「俺も名前とまだ一緒にいたいな〜って思って。あ、名前がやだったらいいよ!」
「そんな事ない!……一緒にいたい」
「ふふ、そっか。じゃあ一緒に寝よっか!」
「寝る!」
「じゃあ駅行こっか」
「うん!」

 電車に揺られながら流れる外の景色を眺める。夜の空は都会の明るさが無くなると一気に暗くなる。濃藍にポツポツと浮かぶ白百合色は私の心の悲しいところを掬いとって綺麗で純粋なものに変えてくれる。離れ難くて隣にいる彼の肩に頭を預けた。人の少ない電車の中は私を少し寂しくさせるけど、私の肩を抱いてくれる悠仁の手がもっと暖かく感じる。それがとっても嬉しくて嬉しくて。高専の最寄り駅まであと数分。


「うおっ、ちょっと寒いね〜」
「うん。……手繋ぎたい」
「もちろん!んじゃこうしよっか」

 悠仁が繋いだ手をジャケットのポケットに入れた。手にあたる風がなくなって悠仁の体温が私の手を温めてくれる。

「悠仁の手あったかい」
「でしょ〜」
「最高!」
「良かった!」

 悠仁と手を繋いで高専の階段を上る。時刻はもう九時を過ぎていて、明かりが消えている場所も少なくなかった。

「悠仁の部屋に置きっぱなしの荷物どーしよ」
「一旦その荷物部屋持ってって、風呂入ったら手ぶらでおいで」
「分かった!」
「ん。じゃ俺も風呂入って部屋で待ってんね」
「うん!またあとで!」
「また後でね〜」

 悠仁の部屋で一旦別れてすぐ自分の部屋へ戻り、お風呂場へ向かう。早く悠仁のところに行きたいから今日はシャワーだけにしよう。スキンケアを済まして髪を乾かす。早く悠仁に会いたい。


コンコン

「空いてるよ〜」
「お邪魔しますっ」
「はーい」
「もうお布団入ってたの?」
「あっためてたの〜」
「流石です!ねぇ悠仁くん!」
「どした?」
「はいどーぞ!」
「え!なにこれ!」
「開けてみて!」
「おけ、……お!ぬいぐるみ?」
「せーかい!」
「クマだ!かわいー!あれ、なんか持ってる……え?名前の字だ!」
「そう!私が書いたの!」
「まじ?やば、ちょー嬉しい!」
「えへへ。良かった!」
「名前ありがとう!こちらこそ、これからも名前のそばにいさせてください。」
「うんっ!……ぐすっ」
「泣かんの〜笑これで泣き止んでよ」
「ズビッ……これなに?」
「開けてみて」
「……え、これ、」
「店の前通る度に見てたから欲しいんかなって思って」

 悠仁が差し出した小さめのケースの中身は、私が何度も欲しいと思ったダイヤモンドの一粒ネックレスだった。そんなもの貰って嬉しくないわけがなくて。

「ぐすっ……ありがとう……ぅぅぅ」
「あらら、そんな泣かんで〜」
「こんなの逆効果だよぉぉ〜」
「そうだったか笑ほら、こっちおいで」
「ズビッ……うん、」
「はいできた。ど?」
「がわ゛い゛い゛〜」
「あははっよかった〜ほら名前ちゃん可愛い顔が台無しだよ〜」
「ゆーじありがとおぉぉ〜」
「おっと、どういたしまして〜」

 急に抱きついても悠仁はぐらつくことなく私を抱き留めてくれる。悠仁の肩の部分の服が少し私の涙で汚れてしまって、悠仁は多分気づいてるはずなのに私の頭をポンポンと撫でてくれた。
 悠仁に貰ったネックレスなんてずっとつけていたいけど壊してしまってはいけない。泣く泣く取って眠ることにした。

「くまさんの隣置いとこっか」
「うん、」
「これでよし。布団入ろ!」
「ズビッ……うん、あのね、くまちゃん私とお揃いなの」
「まじ?え〜嬉しい!ありがとう」
「どういたしましてっ。あ、雪だ」
「お〜ホワイトクリスマスだね〜」

 悠仁にくっつきながら外を見るとちらちらと雪が降っていた。

「きれい……」
「そうね。ちょっと窓開けようぜ」
「うんっ!」
「お、気にしてなかったけど息白いな〜」
「確かに!あ、そういえばホワイトクリスマスの日にキスすると願いが叶うんだって」
「え?そうなん?知らんかった〜」
「だからちゅーしたい」
「うんいいよ〜ほらこっち」

 後ろを振り向くともう目の前に悠仁の顔があって。そっと目を閉じ、願い事を祈る。優しくて少し長いキスが終わる。

「んふふ、ありがとう」
「こちらこそだよ、ありがとね」
「うんっ悠仁大好き!」
「俺も大好き〜!」

 ぎゅうとお互いを抱きしめて愛を伝える。外は雪が降るくらい寒いのに私たちは暖かかった。
 どれくらいそうしていたのかは分からないが、明日も学校だということを思い出し、掃き出し窓を閉めて二人、布団へ入る。

「悠仁今日はありがとう。とっても楽しかったし嬉しかった」
「俺も!こちらこそありがとう」
「えへへ、うん!」
「じゃあ寝よっか」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」

 目を閉じて悠仁の胸に顔を埋める。私はどこまでも悠仁のことが好きだ。夢に入るこの瞬間まであなたの事を考えるくらい。

 大好き!これからもずっと想い続けるよ。

image song:BoA/メリクリ
個人的に冬といえばこの曲です。



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