14巻 白虎妖術

『安倍晴明は、俺が殺した』
「……ッ」
「ぇ……」

 父が、安倍晴明を殺した……?目の前の物語に立ちすくみ、思考が停止する。

『お前らの主から奪った力、試してやろう。急急如律令』
「うわぁっ」
「ぅっ、」

 物凄い突風と衝撃が襲い掛かる。なんとか耐えしのいだ佐野や朱雀と反対に、雪は足元を取られその場にしりもちをついた。ビリビリとした強い光の中にいる父を見上げる。顔にかかる髪と逆光でその表情はよく見えなくて、只々このすさまじい空気には飲み込まれるしかなかった。

『やめなよ――』

 バチバチといまだ纏い続けるそれを厭わず、朱雀が道満の腕をひく。

『放………ッ』
「!ぱ、っ」

 倒れゆく父に右手を伸ばす――が、今は到底届くはずもなく、空を欠く。それは、否が応でもその場に自身が存在していないことを突き付けた。

『まさか朱雀の奴が、道満を逃がしたというのか…!?』
「なんでアンタが…――ビシッ…えっ」

 天井に――空間にひびが入り始め、細かい破片がパラパラと散っている。それは勢いを増して広がっていき、大きく崩れ始めた。

「とりあえずここを出よう」

 朱雀に続き、佐野も体の向きを変える。走りだそうとする彼らに、雪の体は動かない。何が起こっているのか、理解ができない。父が、殺した……?そんな、そんな訳ない。そんなことをするひとではない。どれだけ憎い好敵手であっても、そのような手を使う人ではない。たかが十七年の生命、たかが十二年の生活ではあるが、伊達にあの人の娘をやってきていないのだ。でも、分からない。解らない。わからない……!

「っ、蘆屋!!」

 佐野が駆け出して崩れゆく部屋を振り返ると、座り込んだまま俯き動かない雪の姿が目に入った。正気が失われたような顔に風で揺らされた紫色の髪がかかる。方向を変えようにも走りだしてしまった今、雪に手が届かない。せめて、せめて雪が立ち上がっていたらっ!

「セ、セーフッ、!」

 いぶの体がくの字に曲がっている。間一髪で朱雀が腕一本で救出していた。しかし、それにいぶは気づいていない。いぶの目には、一瞬見えた父のあの苦しそうな悲しそうな顔しか映っていなかった。

「っぶねー……っおい蘆屋、平気か、」
「……」

 

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