「何度見ても目を惹くジャンプだな」
じっと見つめる司の視線の先には"離れずにそばにいて"を滑るヴィクトル・ニキフォロフ。彼の得意な四回転フリップで銀盤上を舞う。
俺の隣では「あーー!!四回転フリップ!!」と感動して涙まで流す優子に苦笑いが出る。ここでは勇利の次に彼女がヴィクトルのファンで有名だ。
「司君、そうだよね!本当、ヴィクトルがコーチだなんて今でも信じられない・・・」
「そ、うだな・・・」
俺も一時期、あのジャンプを飛びたくて練習してたことがある。難易度が高くて成功率も低かった。男子では四回転を飛ぶのは当たり前の世界だが、フリップだけは公式試合では一度も飛んだことがない。
現に今の選手の中でフリップを飛べる選手はヴィクトルだけだ。ユーリがジュニアから上がって来たら分からないけれど。
「写真はわたし!」
「ママ!動画はわたしが!」
「この情報、アップしていい?」
「非公開だ!スケオタ三姉妹・・・」
巷では有名な西郡家スケオタ三姉妹の西郡空挧流、流譜、流麗。スマホやカメラを使ってヴィクトルのスケーティングを撮影をするのに夢中である。
すかさず勇利がネットにアップロードするのはダメだと注意していた。
「ねぇねぇ、司も滑らないの?」
流譜は司のジャージの裾を掴んで引っ張る。優子が三姉妹を連れてきた時には俺の練習も見ていることが何度かあった。その時も目を輝かせて動画を撮っていたよ。
「今はいいかな、勇利とヴィクトルの練習する時間だから」
ごめんな、ぽんぽんと流譜の頭を撫でてやれば余程見たかったのか頬を膨らまして不満気だが仕方ない。
「とりあえず、ここをホームリンクとして使いたいってヴィクトルがさ。良いかな?」
「オーケー、オーケー!上に話しておくよ!ヴィクトルに直接教えてもらうなんて夢みたいじゃねぇか」
勇利の問いに豪は問題ないとばかりに彼の背を叩きにこやかに承諾する。たしかに上もヴィクトルが借りるとなれば、快諾するだろう。彼のネームバリューで人が来れば稼ぎにもなるしな。
「子豚ちゃんは体脂肪落とすまでリンクに上がっちゃダーメだよー!」
「勇利、残念。頑張れよ」
ヴィクトルのスケート禁止令に司は笑いながら可愛い後輩の肩に手を回す。
「司さんは太りにくい体質だからいいですよね・・・」