15.「現実主義より殺伐」

「何の店?質素だな」

練習に付き合った後の夜、疲れに疲れ切った俺は結局最後まで仕事らしい仕事が出来なかった。豪は代わりにやっておくからと、早めに退勤させてくれた。というよりも、機嫌の悪いユーリに気を遣ったというべきだな。

豪には今度何かお礼しないと。

そしてユーリを伴い食事に来たお店は自然食品を扱ったオーガニックのレストランだ。
現役選手だから、さ。ちなみに俺も現役だった頃は両親は仕事で殆ど家にいなくて、練習帰りは此処で食べてたくらいに常連だった。店長はわざわざアスリート用のメニューを用意してくれるくらいに。

「俺が選手時代にお世話になったとこ」
「ふぅん・・・」

カランカランと音を立てて扉を開ければ若い女性店員が出迎えてくれる。食事をする人数を伝え案内された席へと着く二人。

「あら司君。久しぶりねーいつぶりかしら」
「藤井さんお久しぶりです、三年くらいですね」

「そうよねぇ引退してからめっきり来てくれなくて寂しかったわ。それに、そこのかわいい子はだぁれ?」

厨房の奥から出てきたのは店長の藤井さんだった。にこにこと笑ってはいるが目の奥は笑ってないから怖い。向かいの席に座るユーリはロックオンされ、顔が引きつっている。そりゃそうだ、店長は見た目は体脂肪率が一桁のがっちりした筋肉体型だが心は乙女なのである。

大体の失礼なことは流すタイプで一つだけ禁句があった。

「誰だよ、このオッサン・・・」
「おい、ユーリ!それは・・・」

彼に忠告するが時既に遅し___。


***


「うめぇ、なんだこれ!?この食い物の写真撮っとかねぇと!」
「でしょでしょ。司君も現役時代はよく食べてたの、体の細さの割にはよく食べるほうだったからね」

パシャパシャとスマホで写真を撮り始めるユーリの頭には氷がのっかってる。店長のグーのゲンコツはかなり痛い。そして出された料理は野菜中心の鍋。恐る恐る一口食べた瞬間に彼は目を輝かせて二口目からはばくばくと食してた。

「司君の滑りがもう見られないのは残念。ねえ、エリジブルは残してるんでしょ?復帰は考えてないの?」
「藤井さん・・・俺はもう引退したんですよ。今はアイスキャッスルはせつの一スタッフです」

きっぱりとそう言い切る彼に私は不満よ。だって、そう告げる彼の表情は迷いが見えるもの。司君の病については彼のコーチから聞いてる。

コーチたってのお願いだから未だエリジブル残してるみたいだけどね。きっと彼の本心だって、銀盤に戻りたいに決まってるでしょ。

覚悟を決めてるなら、誰かに懇願されたからってとうにエリジブルを手離してるだろうし。

「ツカサがエリジブル保有してんのは初耳だ。俺はシニアでヴィクトルとお前、豚がいる大会で勝ってやるって思ってたのに、お前がさっさと引退しちまったからそれも出来ねぇ。

俺はてめーが叩き出したステップシークエンスの最高得点の記録、絶対に塗り替えるからな」

頬満杯に鍋を頬張るユーリは箸を司へ突きつける。

「だそうよ、司君」

(塗り替える、か・・・・・・)

呆気に取られる俺の横で藤井さんはにっこりと笑っていた。