「司さん、エロスの意味ってどう捉えますか?」
リンク周りの清掃をしていれば近づいてきた勇利のいきなりの質問に俺は押し黙る。彼の口から"エロス"という言葉が出てくること自体初めてだからだ。失礼ながらも勇利は恋人が居たことない年数イコール年齢で、その手の話は勇利の前ではタブーだった。俺だってそんなに経験はないけど、彼女が居たことはあるさ。
「俺に聞かれても・・・」
「お願いします!どうしても知りたいんです!」
後輩の必死な頼みに仕方なく司は一生懸命に頭を働かせる。
「はぁあ・・・お前のフィギュアにエロスがどう影響するか知らんけど、エロスってアレだよな。ギリシア神話の愛の神___性欲、性愛を意味するって。
それがテーマならエロスだからって性を全面に押し出すんじゃなくて愛への情熱。愛を叶えるため務める・・・磨きあげるっていうイメージだな」
俺のイメージっていうより勇利にエロスを当てはめたイメージ。まあ、今の見たまんまの勇利だけど。
「愛を叶えるため務める・・・」
勇利は司の言った言葉を復唱する。
「僕にはヴィクトルのエロスを見てこういうイメージが湧いたんです」
とある街に一人の流浪の色男がやって来た。その男は街に住む女性達を次々虜にしていった。そして、街で一番と持て囃される至高の美しい女がいると噂で聞く。
男はその美女へと狙いを定める。誰にも靡かないのなら、彼女に相応しいのは自分しかいないだろうと。
しかし、女はやはり男へなかなか靡かない。男と女は愛の駆け引きをしていくうちについには女の方が正常な判断を出来なくなり、見誤った彼女は愛へと男へと溺れてしまう。男の方はというとそうではなかった___。
最後には飽きたとばかりに街一番の美女を突き放してその街を去り、次の街へと行ってしまうのだった。
「へえ、そこまでイメージが湧いてるのか」
「でもここまでなんです。エロスの解釈もまだ出来てないし、これをどう表現したらいいのかもまだ・・・」
迷うことはいいことだ。考えてかんがえて・・・考え抜いたモノは良いモノに完成する。
「分からないことを無理に理解する必要はないんじゃないか?普段通り過ごして発見したものを取り入れればいいと思う。
それがお前の滑りだろ?」