20.「振り子時計は止まらない」

試合当日、会場は大盛り上がりだ。地元の長谷律では珍しいほどにアイスキャッセルはせつは超満員。しかもメディアも大勢取材に来ている。

俺も今日に限ってはいつもより忙しい。会場の設営準備にチケットの販売など。

ようやく仕事も一段落して優子と豪と共に関係者エリアからリンクを眺める。まるで国際大会みたいな雰囲気にあの頃を思い出す。

大勢の観客にライバル選手達、自分の番までの準備・・・試合の緊張感。

「綺麗、だ」

"アガペー"がテーマのユーリが舞う氷上の演技。アガペーとは神の人に対する無限大の愛。勇利のエロスと同じくユーリにとってのアガペーを見つけたのだろう。

「ユリオ君のステップって司君を見てるみたい」
「偶然じゃないか?」

「そうかなー」と尚も食い下がらない彼女に司は苦笑いを浮かべる。俺がやってるわけでもないのに他人がやればすぐに俺だと分かるほど、俺のステップって人と違うのか?

「司さんの試合か何か見て影響受けたのかもしれないっすね」
「その可能性もある、かも」

(ナイスフォロー豪!)

ユーリに教えてるのを知ってるのは豪だけである。俺が十年以上練習して身に付けたステップシークエンスも短期間だったために荒削りだが、確実にモノにしている。

改めて彼は天才なのだと実感した。同時に彼の滑りを見て俺はスケートが好きな自分に気がついたのだ。

ジャンプの時に削れた氷がさらに選手を美しく輝かせる。清らかな美しさを放つユーリの滑り。

クワドのジャンプも綺麗に成功させた。公式試合ならあれはかなり得点になるな。素人目で見ればユーリの演技は完成していて勝利に近いように見える。

でも何かが足りない。

「ユリオ君の次は勇利君・・・二人を知ってるからどっちも勝ってほしいなって思うけど、難しいね」

「・・・あぁ。それがスポーツだしな」

全ては勝ち負けで決まる。相手が誰だろうと関係ない、結果は勝敗のみだ。

『司さん、この感じ懐かしく感じるんじゃないっすか。またやりたいとか』と、小声でにやりと笑う後輩に溜め息を付く。

「豪、それはないぞ・・・。なーんで皆して同じこと言うんだよ」

そうは言うが会場を見つめる司は誰が見ても___。

(もう一度、あの銀盤に戻りたいって未練たらたらしいかおっすよ司さん)