『温泉 on ICE』は勇利が勝利を収めた。観客からの盛大な拍手と『お帰り勇利』の歓喜の声。長谷律の誰もが喜ぶ。
試合の途中でいなくなったユーリと優子が気になって俺はこっそりと二人の跡を付ける。
「ユリオ君、ちょっと・・・結果も聞かないで帰るの?」
優子の不安な声が今まさに帰ろうとするユーリの背を呼び止めた。
「聞かなくたって分かるだろ、あんな・・・・・・」
背を向けてるからユーリの表情は見えないけど。アイツは根っからの負けず嫌いでアスリート。実力を見せつけられ悔しいのだ。
「ヤコフのところで俺は続ける。じゃあな・・・ダスピターニャ」
「ユリオくん・・・そっか」
「勘違いするな、ファイナルで優勝するのは俺だから。そう言っとけ」
彼の強い言葉は自分へも言い聞かせるもの。優子は一度頷き、蹄を返したユーリの背を見送って去る。
(・・・まだ言えてないことがあるんだユーリ)
「なんだ!?」
追い付こうと一目散に走り寄り、近づく彼の小さい背中を俺は背後から抱きすくめる。驚嘆する彼を無視して・・・。
「ユーリっ・・・俺はお前と過ごした一週間のスケーティング生活、嫌だったけど楽しかった。
少しだけ自身のスケートというものに向き合える勇気をくれた」
最初は驚いて暴れたユーリだったけど、俺だと分かって大人しくなり、するっと腕の中から抜け出す。向き直った彼は黙って司の話を聞いて口を開く。
「勝手に言ってろ、てめーは病気だからとスケートから逃げてる癖に、スケートに一番近いリンクで働いてる未練がましいバカだ。
さっさと復帰して俺に負けやがれ」
「・・・まだ復帰するかは分からないけどな。まあ、その時はお前の顔を立ててやるよ」
遠まわしに手加減して勝たせてやると発言した司を鼻で笑ってあしらう。
「じゃあなユーラチカ、だったか」
ヴィクトルが以前に巫山戯て呼んでいた彼のロシアでの愛称。後ろから怒声が聞こえたけど、言い逃げして走って会場へと戻る。後ろは振り返らない。
己の内で固まりつつある決心に後悔はしたくないためにも。