「なんていうか、ちょっとたるんでない?」
ぶにっとお腹の贅肉を掴む。ズボンの上に乗るほどでないしろ、筋肉が無くなってる証拠。トレーニングが足りてない。
不服そうに藤井さんは腕を組んでる。なんでこの人が此処にいるのかというと、本当に偶然だ。俺が仕事の合間にリンクを借りたところに藤井さんは用があって訪ねてきた。
極一部の人にのみしか教えていなかったから、滑ってることがバレて焦ったよ。仕方ないと諦めるしかないしな・・・。
「そりゃ現役じゃないからガッツリはトレーニングはしてませんよ」
「ユーリ君もそれほど筋肉は付いてないけど若いから大丈夫。でも司君は良い年なんだからね、また彼にお願いしようかしら」
「いやいやいや、勝手に決めないでくださいって!」
うんうんと一人頷いて勝手に現役時代の頃に体を戻すべく思案する藤井。慌てて司は制止する。
「この私が、こんなだらしない体を見逃すはずがないじゃない。有言実行、彼に連絡取っておくから来週からジムにしっかり通いなさい」
「く、くるしッ・・・」
(マジで死ぬ!!)
フロントチョークで絞め技をかけてくる彼女に降参をする。もうここまで来たら、藤井さんに逆らうことは出来ない。
ぜえぜえと床に座り込んで息を整える司にぽいっとモノを投げつける。
「これを渡しに来たの。貴方のコーチから渡されてずーっと預かってたもの」
ばさりと顔に被さったモノを手に取り視界に入るソレは___フィギュアスケート用の衣装だった・・・現役時代に来シーズン用に製作してもらい、一度も着ずに終わった。
「渡されても困ります」
「分かってる、私は預かってただけだからその服をどうしようと貴方の自由よ。処分してもいいし、そのまま持っててもいいし・・・」
その言葉の先は続かない。「用事は済んだから帰るわ」と彼女はリンクから去る。残された手元の衣装に困ったような表情をする司だった。