サンクトペテルブルクのアイスリンク、ジュヴィリー。柔軟をしていた所にスマホの通知が鳴る。手に取れば発信者は優子。
優子のメッセージ、そこには日本の勇利が自ら曲を決めて演技をする___。
「ユウコのヤツ・・・敵情視察か?クッソ・・・しかし、自分でプロデュースね・・・」
(ヴィクトルだってそうだったし、別に珍しいわけじゃないけど。アイツにそんなこと出来んのか?)
続きで受信したメッセージには司の様子と動画と写真が添付されていた。今までよりもこっそり練習する時間が増えていて、ジムにも通っていると。ジムでの様子を捉えた写真には必死にトレーニングする司と厳しく指導してる藤井の姿。
何であのオッサンがいるんだ・・・。あのオッサンが作る飯は上手いがかなり暴力的だ。
次に動画を開けばイメージをしてるのか中央で弧を描いてゆっくり滑るのを繰り返す司。日本に居た時には見られなかった真剣な表情である。
「あーら!ユーリ、日本に恋人作りに行ったのー?」
「ちげーよ離せっミラ!」
慌てて動画を閉じる。どさりと後ろから覆いかぶさってきたのはフィギュアスケート女子、ロシア代表のミラ・バビチェヴァ。赤毛が特徴の十八歳の少女、フィギュアスケート女子では世界で第三位の実力者である。
何かと年の近いユーリを揶揄うのが彼女の楽しみだった。当の本人は迷惑しているのだが。
「ホッケー選手と欲求不満か?他の女とデートしただけで、あんな半殺しの目に合うなんてまっぴらごめんだぜ」
たまたま練習の帰りに見かけたけどアレは酷かった。相手の男のスマホをにこにこと笑いながら半分にパッキリと割って、さらには男は背負い投げからの絞め技を喰らってノックダウンしてた。
「最近リフトの練習もしててー」
勢いよく自分より背の小さい彼を持ち上げる。「下ろせ、バアアあああああ!!!!!」と急に体が浮上し、驚いてバタバタと暴れるユーリ。
「三つしか違わないでしょー」
あの時と同じようにニッコリと笑うミラは怒ってる、絶対に起こってる!地雷を踏んでしまったことに後悔するが遅い。
「ユーリ、ミラ」
そんなやり取りをする横からしわがれた男性の声がした。
「あ、ヤコフコーチ・・・・・・」
ユーリを持ち上げたままそちらを振り向けば二人のコーチであるヤコフが怪訝な顔をして立ってミラは焦った。いつもの二人で呆れるしかない。ヤコフは教え子に深く溜め息を付く。
「お前ら、ペアにでも転向するつもりか」
「すみません!」