「へえ、かなり扱かれてんだなユーリのヤツ」
送られてきたのはユーリの動画。モスクワにあるボリショイ劇場を拠点とするボリショイ・バレエ団の元プリンシパルが振り付けを担当するとのこと。ボリショイ・バレエなんて誰もが聞いたことあるくらい有名だ。言わばロシアを代表するバレエ団でミナコ先生に昔詳しく教えてもらったことがある。
送り主曰く、動画に写る女性はリリア・バラノフスカヤという名前らしい。その名前で検索してみれば凄まじい経歴の持ち主だ。しかも、ユーリのコーチとは元夫婦。おそらく、それで振り付けの担当になったんだな。
あんなに体の柔軟性があっても尚硬いとは___。
「あっちに行ったときはアイツにも会わなきゃいけないし、新しく出来たとかいう彼女サンの顔を拝みに行くか」
変に真面目で純粋だから少し揶揄っただけでも顔を真っ青にして怒るのが目に見えてるけど。当時は同い年というのもあって気安い仲だった。
(いい加減、行かないと齋藤さんに怒られる)
あれからみっちりとトレーニングの指導をされて大分当時の体型まで戻った。内容がキツすぎて死にかけたこともあったけど齋藤さんが考えるメニューの効果は確かである。
あとは病の克服のみ。時折襲ってくる発作はどうすることも出来ないし薬の効き目もいまいち効果は得られなくて、医者からは気の持ちようだと言われてしまった。自分の中でのスケートの在り方と向きなおれと___。
己に問いかけても答えが分からなくて、そのことを考えるだけで頭が真っ白になるのだ。
「ツカサー!勇利の曲のこと知ってた?」
「曲?なんの話だよ」
ザっと司の前で止まるヴィクトルはなんだか不服そうだ。
「勇利が前のコーチに持ち込んだっていう曲!」
「あ?勇利!お前、そんなことしてたの?」
「あああああ、ヴィクトル!!!言いふらさないでよっ!」と、慌てて勇利も駆けてくる。
珍しい。勇利のヤツはいつもコーチが決めた曲を滑るのが当たり前だったから。自分から演技構成のイメージを固めて曲を用意してたなんてな・・・。聴いてみてよと差し出されたイヤホンを耳に宛てて聞こえてくるメロディー。スケートの曲に使うなら少し弱い感じする、まるで弱気な勇利みたい。
「自分を魅せるならもう少し曲にアクセントが欲しいな。元が良い曲なだけに欠けてる部分が勿体ない」
「だよねぇ、物足りなくて微妙なんだよ・・・」
二人から駄目だしされて僕はすごくショック。これなら聴かせなきゃ良かった・・・。
(でも、物足りないなら・・・アレンジし直せば・・・でも、もうあの子とは疎遠になっちゃったし・・・)
うーんと頭を抱えてしまう。とりあえず、ピチット君にそれとなく聞いてみようかな。