03.「鶺鴒の嬌声」

「勇利・・・とんでもないことになってるなぁ」と司さんは楽しそうに笑ってた。人の気も知らないで、この人は今の状況を楽しんでるよね・・・。

スケオタ三姉妹によってSNSサイトに投稿された、勇利の"ヴィクトル・ニキフォロフのFS『離れずにそばにいて』を踊ってみた"という題の映像。それは急速に世界中に広がり、フィギュアスケートファンの間から波紋を呼ぶこととなる。

それを後から知った勇利は本気で困っていた。恥ずかしくて外にも出られないじゃないかと。

「うんうん、ヴィクトル・ニキフォロフの事が好きなのは知ってたけど。まさか動画を投稿するほどとは・・・ふふっ・・・く・・・」
「司さん!!笑わないでよ!」

「悪いわるい」と言って後ろを向いて肩を震わす司。我慢しているがあれは絶対に笑いを堪えてる。

「でも、まぁ・・・うん。俺もその動画見たけど、なんだろう・・・良かったよ」

(心からスケートが好きなんだとダイレクトに伝わる表現だったし、もう一度あの銀盤にって・・・)

否、違う。溢れ出る欲に蓋をして司は勇利の方へ視線を向ける。

「俺はお前が引退することを惜しいと思うよ勇利。決めるのは勇利だけど、お前の演技が好きだ」

くしゃりと彼の頭を撫でつけ。十センチ以上も身長差がある二人、必然的に司は見下ろすことになる。

(本当に司さんはいつでもその時に欲しい言葉をくれる・・・)

ヴィクトル・ニキフォロフはスケーターとして憧れで目標で。佐久間司は僕のスケート人生の道標___。

「ありがとう、司さん」