忘れもしない三年前の最後のグランプリファイナル。
『佐久間選手、三回目のクワドを失敗しました!』
きっと解説者はそう言っただろう。ただひたすらに我武者羅に俺はFSを滑り続けた。しかし、ぐらぐらと歪む視界に震える指。いつもなら何度目かの出場で慣れた雰囲気の大会。緊張はするが、余裕を持って滑られるはずだった___。
今大会は違う、俺の体がおかしい。自分でも把握できない体調の悪さに滑る前から不安が増すばかりだった。SPは得意のサルコウを全部ミス。そして今、高得点を狙え且つ男子選手なら誰もが飛べるクワドを連続で失敗した。
(なんでっ・・・違う、そうじゃない・・・落ちつけ・・・)
ゆるやかな曲調に合わせた難易度の高いステップ。右足、左脚と交互に軽やかに踏む。
(そうだ、その調子だ・・・)
歪む視界の中なんとか感覚で持ちこたえる。そしてそこから勢いをつけて司の代名詞と言われるくらいのステップからの連続で続く四回転トウループ・一回転フリップ・三回転ルッツ。会場全体がそのジャンプを見守った___。
『彼の代名詞、ステップからの連続ジャンプ・・・転倒しました!昨日のSPから彼の調子は悪いようですね。回転が足りていたジャンプもありましたから、良いジャッジとなるように望みを持ちましょう』
転倒しながらも最後まで滑り切った司。観客席へ向かってお辞儀をする彼の表情はとても暗い。そんな彼を励ますような会場の拍手も今の司にとっては追い打ちをかけるようなものであった。
「俺は、もう・・・駄目なのかな」
(悔しいッ・・・・・・限界なんて・・・クソッ!)
頬を伝う涙はぽたぽたと表情へ落ちる。次の最終滑走者がすれ違いで入ってくるのも見ずに、司はスケート靴にカバーを付けてキスクラへと向かう。
最終滑走者がこちらを見ていたのに気づかず___。
『最終滑走者は今大会で三連覇がかかっているヴィクトル・ニキフォロフ選手です!』