30.「物語る為の物語」

パンパンっとクラッカー音が響く。待ちに待った勇利のアサイン発表でヴィクトルと勝生家に西郡家、ミナコ先生で『ゆ〜とぴあかつき』にてお祝いをしていた。

「ありがとう」と何とも言えない表情で勇利は朗らかに笑う。

「未だフィギュアスケートをよく分かっていない勝生家のために簡単に解説するよ!」
「あらぁ助かるわ〜」

スケオタ三姉妹によって勝生家の為に解説が始まる。

俺も参加したことのあるフィギュアスケート・グランプリシリーズ。前年の成績によって選抜された選手が世界各地で開催される六つの大会の中で、二大会まで出場する。さらに、それらの大会の結果で成績の良かった六人の選手が出場することが出来、世界一を決めるのがグランプリシリーズだ。

現役続行を決めた勇利に割り振られた試合は第三戦の中国大会と、第六戦のロシア大会である。ちなみにロシア大会はユーリも出場するから、俺にとってこの大会が一番の楽しみ。

(ロシア大会で、もうユリオと戦うんだ・・・)

勇利はロシア大会と聞いて緊張する。『温泉 on ICE』の時は勝ちはしたが、あれから数ヶ月経つしユーリは演技の完成度を仕上げて来ているはず。自分はまだ曲も決まってない状態。

日々、ヴィクトルからジャンプの指導を受けている。時に司さんに頼みこんで彼の滑りでイメージトレーニングもすることも。

ちらりと横を見る勇利。テーブルに頬杖を付いて司は楽しそうにスケオタ三姉妹の解説を聞いてた。三年前までは常に日の丸を共に背負っていた先輩。オリンピックで彼が銀メダルを取った時には一緒に喜びも分かち合った。

兄のような存在だった司さんが引退してからは、銀盤では常に孤りで僕はプレッシャーに押し負けてる。けれど、今度は違う。司さん、ヴィクトル・・・皆が僕の背を押してくれてるから負けるわけにはいかない。

「勇利、ロシア大会には現地まで行くよ…チケットはもう取ってある」
「え?なんでもう、先に自分だけチケット取ってるのよ〜ズルイわよ司!」

ヴィクトルの真似なのかウィンクをする司に周囲は驚く。とくにミナコが彼の襟首を引っ掴んでずるいと揺さぶる。いつの間に購入したのやら。

「ちょっくるじ・・・ミナコせんせ・・・」

引退してから、一度もフィギュアスケートの試合を見に行かなかった彼に、一体どんな心境の変化が起きたのか___。司の昔を知る者からすれば再び銀盤に興味を示したことは喜ばしいことだった。

「え、でも。チケットはどうやって取ったんですか!?司さん」
「まあ伝手があってな・・・まあそんなことより、次の試合までに調整しなきゃだろ?」

(・・・さすがにヴィクトルの前で誰に取ってもらったとか言えねーよ)

「シーズン中はお留守番よろしくねえ、マッカチーン」

わんわん、とマッカチンはヴィクトルの言葉を理解しているのか分からないが嬉しそうにしてる。マッカチンの背中を撫でてもふもふの毛並みを堪能する俺。いや、本当に気持ちいいんだから。

ペットは一度も飼った事ないんだよな。唯一、勝生家で飼われてた犬のヴィクトルの散歩はしたことあるけど。当初はその名前に笑ったのは良い想い出だ。その度に勇利は怒ってたけど。

「ヴィクトルがコーチとして胎動したら、勇利がスケート界からヴィクトルを奪ったって思われそうだな」
「スケートファンから恨まれてたりして〜」

何気ない西郡家の一言が胸に刺さり勇利は撃沈する。「ごめん!私達は勇利君の味方だから!」と優子が慌ててフォローするが時既に遅し___。

「だーいじょーぶだって、勇利の妖艶な演技でヴィクトルだけじゃなくて世の人々の心を奪えばいいだろー!」

はっはっはっ。僕の背中を叩いてわざとらしく笑う司さんは酷い。昔からいつもそうなんだよ、悪ノリして揶揄ってきたり。真面目な顔をして冗談を言ってくる時は性質が悪い。

「ツカサもそう言ってるんだし、頑張ろうね勇利!」
「ヴィクトルもやめてよ…」

(ああもう!本当、なんなんだろう二人して)

溜め息を付く僕とは違って二人は楽しそうだから余計に腹が立つ。

「勇利〜今シーズンも応援行くよ!まずは初戦の中四国九州選手権大会!」

(・・・ミナコ先生も行くなら、アイツと会う時は見つからないようにしないとな。面倒なことになりそう)

久々にアイツと連絡を取った時はかなり驚かれたし怒られた。当たり前だよな、引退してから暫くは誰とも連絡を断ってたから。「死んだかと思ってたんだぞ」、そう言ってすごく心配してくれていた。

グランプリシリーズにも出場した勇利が中四国九州選手権大会にスケオタ三姉妹は疑問を抱く。国内大会から出ないといけないということは、前年の成績が悪かったことを指す。

「調整失敗で11位ですから・・・」

ぽつりと勇利は漏らした。

「そうか地方ブロックから出なきゃじゃん」

中四国九州選手権大会___勇利は予選会から参加しなければならない。勇利が五年間アメリカに行っている間、国内には次々と有力な選手が出て来ている。そして、この大会には全日本選手権大会で勇利を負かして優勝した南健次郎選手も出場する。彼は次代の期待される選手。